羅兵の嵐
闇姫の城で繰り広げられる、黒石の覇兵との激闘。闇姫軍トップである四天王すらも油断できない強敵だ。
四天王一の魔力を持つデビルマルマンが魔力を普段以上に集中し、覇兵達に紫色の光線を発射する!
城の損害も承知の上の攻撃だ。光線は壁を突き抜け、外側まで飛んでいく!
覇兵は粉々になり、四天王の顔に破片がぶつかってくる。
バッディーが手の平に乗せた破片を握り潰す。
「ふん、ざまあみやがれ」
城に大穴が空いてしまい、外の荒野が丸見えになる。大きな破壊が起きたが、これで何とか敵は全滅させられた。
…いや、グラミヤだけは残っている。いつの間にか彼は部屋の隅に移動し、必死に目立たないようにしていた。
「まま、まさか覇兵が…!じ、冗談だろオヤッサン…!」
じわじわと歩み寄る四天王。この様子を見る限り、グラミヤの実力は覇兵よりも低いのだろう。ならばここからは仕上げだ。こいつを叩きのめす。
ガンデルがグラミヤの目の前に立ち、サディスティックな笑みを蛙面に浮かべた。
「誰がどこをやるか決めようか?あ、首は僕に残しておいてよ」
バッディーが四本の手で指を鳴らしながらその言葉に答える。
「じゃあ、俺はこいつの腕を千切るぜ。おら、手ぇ出せ」
グラミヤは後ずさる。一見威厳のない容姿の小さな悪魔に怯える様は端から見ると滑稽だ。
…が、四天王の後ろで、何かが起きていた。
「ん…?」
嫌なものを感じたのか、ダイガルが振り返る。
先程の光線でバラバラになった覇兵。その欠片がゆっくりと宙に浮き、渦を巻き始める。そこから凄い勢いで欠片が互いに結合し合い、徐々に一つの形を成していく。
そして…新たなる覇兵が誕生した!
先程の者よりも更に大柄であり、左右に腕が八本ずつ…つまり十六本の腕を持っている。それぞれの手には銃を所持していた。その顔は怒りに満ちている。先程の砕いたので歪んだのか、それとも石像自身が怒りの意思を持つのか…。
構える四天王の後ろでグラミヤが笑う。
「この再生力と自己強化が黒石の覇兵の初見殺し要素という訳だ!」
覇兵は十六の腕全てを動かし始め、全ての銃を発砲した!
真っ黒な弾丸が部屋を薙ぎ払う。壁が次々に穴だらけになり、豪華な部屋は崩壊していく。
射撃精度はそれほど高くない…のだが、それが逆にこちらを惑わしてくる。
こちらを確実に狙う精度の銃が十六、そこまで精度が高くない銃が十六。ほとんどの人が前者が厄介と答えるだろうが、この狭い部屋ではどうだろうか…。
「ぐっ!!当たった!」
デビルマルマンが数発撃たれる。
そう、精度が高くないが故に、予想外の方向に撃ってくるのだ。今避けようとした方向に弾丸が先回りしたり、足元に射撃が集中していたかと思うと、いきなり顔のあたりを狙ってきたり…。
これだけの銃を放ってるにも関わらず、部屋は穴だらけになるくらいで崩壊が少ない。その割に、歴戦の戦士であるデビルマルマンが思わず声をあげる程の苦痛で肉体にめり込んでくる。
デビルマルマンだけでなく、ガンデルとバッディーも食らい、床に倒れこむ。
ここでまたグラミヤの解説だ。
「この弾丸は闇の一派の弾丸の中でも最高品の一つだ。一つ一つ、何百年もの間闇の魔力を照射し、精密な頑強性と繊細さを身につけたもの。地球の科学では比較にならん!」
ここにも闇の魔力を使ってるとは、闇の力を信仰しているだけの事はある。交わり方次第では闇姫軍とも仲良くやれたかもしれない集団だが、ここまで荒々しいとなるとどうにもならない。
「くっ、石ころごときが調子のるな!」
ダイガルが硬い体を生かして銃弾を身で受け止める体勢に入り、他三人を守る。
激しい発砲音が部屋を行き来する。そして、ガンデルが新たな音を作り出す。
彼は空中に魔力を集め、大量の水を召喚!水と無縁の部屋に豪快な水流が流れ出す。
水が銃弾を押し長し、覇兵の動きを制限する。ガンデルの視界の隅に、流されていくグラミヤの姿がちらりと映った。
「はは、ざまあだね」
グラミヤは覇兵にしがみついて必死に流されないようにしている。両者とも下手に動けなくなった。今がチャンスだ。
デビルマルマンとバッディーが飛び出し、覇兵の腕を全力で蹴りつける!
硬い物同士の結合が解けた乾いた音と共に、六本の腕が宙を舞う。
「よし!」
自分達の蹴りの成果に、声を揃えて空中で手を合わせ合う二人。
これで敵の戦力は半減だ…。
…と思わせた矢先、覇兵は突如震えだしたかと思うと、さも当然のように六本の腕と銃が再生した!
驚く二人にお返しとばかりに生えたばかりの銃を叩きつける。
そこから覇兵は壁に発砲!
激しい崩落音と共に崩れる壁の向こうに、水を排出。グラミヤは水から開放され、息を切らしている。
それを見たデビルマルマンが唸る。
「…何でこんなにしぶといんだ!」
こういう時こそグラミヤの解説が欲しいものだが、あいにく彼は咳き込んでまともに話せない。
「戦力不足だとでも言うのか?俺達が!?」
悔しさに満ちた顔のデビルマルマン。彼の重苦しい声が部屋に広がるなか、グラミヤは喉を叩きながら立ち上がる。
「くく…覇兵相手にここまで持ちこたえるとは中々やるな…。お前らの戦力は十分すぎるほどだ。だがこの覇兵のギミックを知らない限りお前らに勝機はない!」
笑い転げるグラミヤ。見かけ通り、こいつは余計な事まで口走るタイプのようだ。
ギミック…この石造りの人形野郎には何かしらの弱点があるのだろう。
ここで四本の腕に本格的に力を込め始めたのがバッディーだ。
「こうなりゃこいつを何度でも破壊してやる!壊して壊して、力づくで秘密を炙り出してやる!」
何とも脳筋な発言だが、こちらも動かねば的になるだけだ。やれるところまでやるしかない!
…と、その時だった。
今まさに、銃弾を放とうとした覇兵の腕が、激しい音と同時に引きちぎれた!!
「えっ?」
グラミヤが、床に落ちた覇兵の腕をぼんやりと見つめた。
「…これはまさか!」
四天王が期待の声をあげると同時に、窓が割れる!!
無数の破片が光を反射し合う中、現れたのは…。
「闇姫様!!」
…ガラス片の光を飲み込むような漆黒の髪を揺らす闇姫が舞い戻ってきた!
闇姫が部屋に入り、真っ先に目をやったのは覇兵だ。正確には、覇兵の腕の断面だった。
彼女はその断面目掛けて、人差し指から紫色の小型光弾を放つ。光弾は槍のように断面に刺さり、塞いでしまう。
その時、覇兵は明らかにダメージを受けたよろけ方をした。
「やつは断面から周囲の闇の魔力を吸収して部位を再生させる。断面を塞いで吸収を絶て」
突然の命令にも動じず、一気に飛び出す四天王。
デビルマルマンとバッディーが残る腕のうち、二本へし折る。覇兵はたまらず残った手で発砲するが、あの弾幕を経験した四人にはまるで通じない。
ここでガンデルが再び水を放出し、覇兵の動きを封じる。この隙を突き、闇姫が覇兵の腕の断面に指を向ける。
「さ、させるか!」
ここで、呆然としていたグラミヤがようやく動き出した。尻尾を勢いよく振るい、空中の闇姫に叩きつけようとするが、ダイガルがそうはさせない。
硬い体全体を使ってグラミヤの尻尾を受け止めてみせた!
あまりの硬さにグラミヤは悲鳴を上げ、尻尾を抑えて転げ回る。
「闇姫様のお体に触れよう等と、邪な考えを持つ者には俺の肉体を味あわせてやるぜ」
「おい!アウトな台詞にしか聞こえないぞ!!」
お構い無しでダイガルはグラミヤを踏みつけ、首を持ち上げ、地面に叩きつける!
その衝撃でグラミヤは気を失う。
さて、あとは覇兵だけだ。グラミヤの相手をしている隙に、彼女はもう覇兵の腕の断面を光弾で封じていた。
残る腕はあと八本。追い詰められても尚、覇兵は発砲を続ける。不屈の戦意は見上げたものだが…こいつは自らの意思を持たぬ人形だろう。
容赦はしなくて良いという事だ。
ガンデルが闇姫の足にしがみつき、甘えるように言う。
「ねえ闇姫様ぁ。もう面倒臭いから合体光線で仕留めちゃいましょうよ」
「駄目だ。また再生されるぞ。あくまで狙うは断面だ」
口を尖らせながら離れていくガンデル。
「やるぞダイガル」
ダイガルが頷く。
ダイガルが、覇兵の目の前で左手を勢いよく振るう!
振るった際の衝撃波で、覇兵の残る腕全てが吹き飛んだ!
刹那、闇姫が飛び出し、人差し指を顔の前に添える。
断面全てに指を突き刺し、魔力を射出、全ての腕を封じてみせた!
覇兵はよろけながら、武器を失った事に困惑しているようだ。先程と比べると動きが鈍くなる。
闇姫はここで下がり、四天王の後ろで止まった。
「私は途中から参戦した身だ。こいつのとどめを刺す権利はお前らにある。やれ」
互いの顔を見つめ合い、頷く四天王。
覇兵は大口を開き、その口内が赤く光り始めた。
どうやら完全に武器を失った訳ではないらしい。このまま撃たせたら、こちらの格好がつかない。
四天王は闇姫の前に歩み出て、同時に飛び出した!
飛び出した際の風圧が、闇姫の髪を勢いよく揺らす。
「おととい来やがれ腰抜け野郎が!!」
ダイガルの怒号と同時に、全員が同じタイミングで拳を振り下ろす!!
覇兵の頭部に直撃、頭部を伝って一気に全身に衝撃が行き交い、瞬時に全身を崩し尽くした。
壊された城の瓦礫と、覇兵の欠片が混じり合う形で、戦場最後の彩りが済まされた。
…闇姫軍の勝利だ。
「…おかえりなさいませ、闇姫様」
戦いがなかったかのようにお辞儀をする四人。闇姫はそれぞれに視線を通し、足元のグラミヤを指さした。
「こいつはどうする」
うーん、とガンデルが腕を組む。
「ローストビーフにでもします?」
その声を聞いた瞬間に、今の今まで気絶していたグラミヤが突然立ち上がる。
「ぎえええええ!!勘弁してくれー!!!」
あまりにも突然立ち上がるものだから、その場にいた全員に隙ができた。グラミヤは窓から飛び出し、空の果てへ飛行していった。
「なるほど気絶からの立ち直りだけは早いようだな」
闇姫はポケットに手を突っ込む。
闇の一派を撃退し、闇姫が帰還。城が受けたダメージは小さくはないが、結果の良さが天秤を対等の高さに調節した。
…が、一難去ってまた一難。
「何故抜け出した?」
突然聞こえてきたその声に、四天王は思わず身震いする。
闇姫は、舌打ちして赤い空を見上げた。
…巨大な黒竜が、空からこちらを見下ろしていた。
先程まで闇姫に修行をつけていた闇王が追ってきたのだ。そしてあの戦いもその目に焼き付けていた。
「俺の修行に耐えきれなくなったか。それとも部下への情とやらで動いたか。考えるより先に体が動いた…等というつまらん言い訳は聞かんぞ」
闇姫は実に面倒臭そうにため息をつく。
「良いか。親父の前にいるのは天下の闇姫だ。私は私の自由意思のままに動く。親父のところへ修行に来たのも私の意思だ。ならば退場だって私の意思に課せられる」
闇王は、闇姫の言葉を聞けば聞くほど邪悪な笑みを色濃く表していた。
四天王はあまりの気まずさに硬直していた。
こんな所で親子喧嘩が勃発してなるものか。
だが二人の間に溢れるそのオーラには、近づけない未知の何かが蠢いていた。
闇姫軍でもトップの実力を持つ四人でも、である。
…しばらく静寂が場に留まり続けていた。
「…それ以上の言葉を綴らなかったのは正解だ。流石我が娘、と言ったところか?」
闇王の静かな一言で、彼以外の全員の肩に力が入る。闇姫は腕を組み、闇王を見上げ、彼の言葉を待っていた。
「自由意志。悪としての意思を貫く素晴らしい一言だ。お前のその言葉に免じて、今回は許してやろう」
闇王の翼が広がる。闇の世界の赤い空の果てへ、その禍々しい姿を消した。
あの恐ろしい闇王…強さは勿論の事、あの余裕、あのオーラ。
自身を孤高と称する闇姫も、闇王と本気で戦えば命はない事は分かっていた。今闇王を納得させる為に考えたあの言葉も、実のところ諸刃の剣だった。
もしあの一言で彼の機嫌を損なえば、この城も破壊され、自分も部下達も殺されていたかもしれない。
もしそうなれば、情のままに動き、その果てに命を落とす。あまりに恥ずべき結果になっていたかもしれない。
行動してから結果を考えた自身への呵責に、闇姫は俯く。
「…闇姫様?」
デビルマルマンが近づく。
…その時、闇姫の背中から勢いよく血が吹き出した!!
「え!?ぎゃー!!!」
後ろ向きに飛行して離れるデビルマルマン。
…闇姫は、自分で自分の胸を爪で貫いていた。彼女なりの、自分への制裁だった。
「…まだまだ親父には敵わん」
爪を引き抜き、胸から流れる自身の血を見つめる闇姫。彼女の真紅の目にも、血の色ははっきり映っていた。
闇姫は反抗しつつも、闇王には父親としての尊敬を持っていた。
それに引き換え…。
「…マガツカイめ。何が目的だったのか知らないが、私が留守の間に派手にやらせたな」
「闇姫様、その件なんですが、さっきのトカゲ野郎は独断らしくて…」
一連の出来事を説明する四天王。闇姫は黙って聞きつつも、闇の一派の暴れぶりを聞いて実に不快そうに顔を歪めていた。
グラミヤの独断から始まり、グラミヤの援護か、それとも回収に来たのか黒石の覇兵。人の城を無法地帯か何かと思ってるのだろうか。
「やつら、このままでは済まさん。きっちり落とし前つけさせてもらう」
闇姫の目は、赤く染まっていた。




