オチャーなダンス! チャバケ
「ブルム、アンコウ鉱山の作業は進んでるのか」
相変わらずあちこちの建物から光が漏れ出る白の刺客の拠点星にて。
宮殿のある部屋にこもるブルムに、カールが話しかけていた。
ブルムはこちらに青い後ろ髪を向けたままパソコンを操作してる。
「現在アンコウ鉱山の進行ルートを解析中だ。まだ鉱山を守る危険な魔力を払う術までは開発できてないが、時間が空いたから少し先の事にも手を付けようと思ってな」
「へえ。もし魔力を払えなかったらどうすんだ。折角作ったそのルート、台無しになるぜ」
相変わらずの憎たらしいニヤケ面のカール。ブルムは何も言わず、ひたすら画面を眺め、時々何かを入力している。
カールは彼女の顔の横からパソコンを見る。
「ほほう。こんなルートを辿る訳か。中々良いな。だがこれ、結構面倒じゃないか?」
「カール」
ただ一言、名前を呼んだだけのその言葉に、カールは少しばかり戸惑った。
…どこか寒気のするような笑顔で振り返るブルム。こんな顔の彼女は久々に見た。
それでもカールは笑みを失わない。そんな彼に、ブルムは冷たく聞いた。
「最近アンコウ鉱山の計画をやたら知りたがってるな。前までそんな興味なさそうだったのに、何でだ?」
…一瞬、音が消えた部屋。
少しすると、部屋の外から兵士の足音が聞こえてくる。無機質なアーマーから発せられるその音が、二人の意識を戻した。
「…まあ、カール。お前ほどの男が協力してくれれば、何も怖い物はないがな。何せ、『黄昏の狙撃手』だからな?」
…カールは、ポケットから煙草の箱を取り出した。
「おい!!ここは禁煙だぞ!」
扉が開き、入ってきた兵士の怒号でカールは嫌らしい笑みを浮かべながら煙草を床にわざと落とした。
「おお、怖い怖い。ホントに喫煙者に世知辛い世の中だぜ。喫煙ルームぐらいつけとけよ」
「全く。それなら廊下の奥にある」
あるんかい、とカールは心の中で呟いた。
カールが部屋から出ていき、兵士はブルムに声をかける。
「おいブルム。アンコウ鉱山の計画は進んでるか」
ブルムは背を向け、頷く。兵士は腕を組み、じれったそうに足踏みをしながら彼女を急かそうとしていた。
「なるべく急げよ。噂じゃ闇の一派もアンコウ鉱山を狙ってるって話だ。地球なんぞの鉱山にそんな強力な魔力が眠ってるとは俺は信じられんが、何せコウノシン様のご政策だからな。闇の一派に先を越されない為には、地球人たるお前らの力が必要なんだからな」
それだけ言い残し、去っていく兵士達。
ブルムは、密かに笑っていた。
アンコウ鉱山の魔力が手に入った暁には、白の刺客のみならず、闇の一派にも極秘で提供する。それにより、莫大な報酬を得られるであろう事を予想していた…。
白の刺客は自分を利用してるつもりだろうが、むしろ逆。いずれ白の刺客も、ブルムの懐を温める糧となるのだ。
その頃、地球ではワンダーズがテクニカルシティの隣森で修行をしていた。
互いの拳を軽く交え合う、組手に勤しんでいたのだ。
白の刺客、闇の一派。二つもの勢力相手に対抗するべく、力をできる限りつけておくのだ。
すぐそばで、四葉がお茶を飲みながら一同を見守っている。
「おりゃー!」
粉砕男がドクロを掴み、軽く投げる。
(ああ、粉砕男に投げられるなんて、幸せ…)
地面に叩きつけられるドクロは打ち震えていた。
笑顔のまま倒れるドクロの横から、テリーが全身の骨格を鳴らしながら粉砕男に抗議してる。
「俺の妹に何すんじゃー!」
いつも通り、ワンダーズの賑やかな…というより、騒がしい時間が過ぎようとしていた。
しかし、彼等はここで予想外の者達と出会う事になる。
しばらく組手を続けていた皆の耳に、森には不似合いな音が聞こえてくる。
無数の無機質な足音だった。どこか周囲を威圧するような、不穏な足音が近づいてきていた。
真っ先に気づいたのは四葉だった。両手を振り回しながら一同に伝えてくる。
一斉に組手をやめ、音のする方向に視線を集中する。
…北方向の茂みから、一つの小さな影が現れる。
それは…闇姫軍四天王のデビルマルマンだった。
紫の羽を羽ばたかせながら、背後に並ぶ黒い兵士達を無数に率いて何食わぬ顔で現れる。
兵士達は兜で顔を隠し、ただひたすら行進に集中しているようだ。
れなが真っ先に一同の前に出て、最大限の警戒を固めた。
「デビル…!?何でここに!?」
デビルマルマンはニヤリと笑ってこちらの視線に応えた。だが、いつもよりもどこか萎びた感じの笑みだ。殺気も闘志も感じられず、一同の警戒の構えを解かせるのには十分だった。
「よお…。お前ら。最近お前らも闇の一派と白の刺客の案件に首を突っ込んでるらしいな」
冴えない彼に、葵が薄ら笑いを浮かべながら冷たく言う。
「まあね。ところで最近あんた達大人しいじゃないの。まさか闇の一派と入れ替わるつもりじゃないわよね?」
デビルマルマンは小さく笑い、やれやれと呆れる。
「馬鹿かテメエら。逆だ。闇の一派を俺達闇姫軍が塗りつぶすんだよ」
まあ、孤高を主張する闇姫軍の事だ。同じ闇の勢力である闇の一派と共生関係にある訳がなかった。
次に口を出したのは粉砕男だ。
「その割に、その様子は随分勢いが無いな。兵士達の足取りも暗いぜ」
後ろの兵士達も、いつもならこちらに剣を向けてくるところだが、今回はその場から動かずに会話が終わるのを待っている。その様は、まるで人形のよう。
とにかくいつもの闇姫軍の覇気が感じられなかった。
デビルマルマンはしばらく黙るが…実に寂しそうな声でこう答えた。
「闇姫様が修行から帰ってこないんだよ!!」
「え?」
れなが真っ先に反応する。
…そして、大声で笑い出した。
「なーんだ!そんな事か!だから大人しかったのか」
他の皆も納得した表情。デビルマルマンはついに涙ぐみ、どこに持っていたのかハンカチを咥えて大号泣だ。
いつの間にやら兵士達も膝をついて天へ嘆いている。やつらにとって闇姫がどれだけ偉大な存在なのか、改めて認識させられた。
そこへ、それまで呆然としてた四葉が入ってくる。
「皆さん、何やらお疲れみたいですね。どうでしょう?皆でお茶でもしましょう!」
純粋な子供らしい提案に、ワンダーズは和む。同時に、焦りも覚えていた。
闇姫軍などとお茶など、真っ平ごめんだ。理由は簡単、何をやらかすか分からないのだから。
ドクロが四葉を止めようと口ごもってるが、その無邪気さに押されて何も言えない。
四葉はどこに持っていたのか、コップを取り出してデビルマルマンに渡し、ティーポットでお茶を入れてくれた。
手慣れた手付きだ。デビルマルマンはそれを受け取り、まじまじと見つめる。
「…へへ、ありがとうよ嬢ちゃん」
そう言うと、彼はお茶に何かを入れた…!
…すると、お茶は突然泡立ち始める。四葉は自身が何か変な物を入れてしまったのかと慌てた様子を見せたが、勿論そんな事はない。
離れた場所から見ていたワンダーズは異常を察知、そのうちドクロが真っ先に飛び出し、四葉を抱きかかえる!
「あっ!?」
四葉の叫びと同時に、コップから真上に向かってお茶が吹き出す!
お茶は重力に逆らい、空中で少しずつ形を整えていき…緑の体を持つモンスターになる!目を丸めたれみが人差し指を向けながら叫ぶ。
「お茶がお化けになった!?」
「そうだ、こいつはお茶モンスター、チャバケ!!お茶に入れるとモンスターに変化させる薬を持っておいて良かったぜ!」
チャバケはうねりながら向かってきて、ドクロを突き飛ばす!
そして、彼女が庇っていた四葉を大口を開けて丸呑みにする!
「四葉!?」
ドクロが駆け寄る。体が透明のチャバケ、取り込まれた四葉の姿が見える。
もがく四葉の体に、何か葉っぱのような物が張り付いていく。葉っぱはしばらく四葉に張り付き続けると、離れ、チャバケは四葉を吐き出す。
吐かれた四葉を受け止めるドクロ。他の仲間達も急いで駆け寄っていく。
「四葉!大丈夫!?」
「オチャー!」
え?と四葉を見る一同。
オチャー、と返事した。真面目な彼女が。
困惑する一同の前で、彼女は更なる困惑を呼ぶ行動に出る。
「オチャーチャチャー!!」
体をくねらせた不気味な踊りを踊りだしたのだ。あまりの出来事に、皆声を出せずにいた。
そこへ、デビルマルマンの高笑いが割り込む。
「はーははは!!こいつに食われた者はしばらくお茶の事しか考えなくなる!だからといってお茶を飲んだりはせず、このお茶ダンスを踊るのだ!」
何を思ってこんなモンスターを作ったのだろうか。
とにかく、このチャバケを倒さねばならない。
踊り狂う四葉を横目に、ラオンがナイフを構えて歩み出る。
「こんなやつ私一人で十分だ。お前らは離れて組手の続きを…」
ラオンの台詞の途中で、チャバケは突然大口を開く。
そして、大量のお茶を吐いてきた!
油断していたラオンはお茶を頭から全身に被ってしまい、そのあまりの熱さに驚いた。
「あっちいいいい!!!何だこれは溶岩みたいだ!!」
バタつくラオンを見下すデビルマルマン。短い腕を組み、実に滑稽そうに見つめる。
「ふん、お茶に負けるとは。まあお前のような鉄屑には無理か」
「何だとこのクソ野郎!!」
悔しさと全身に浴びせられた熱で怒りが一気に上昇するラオン。そんな彼女の真横から、ハンドガンを構える葵が飛び出す。
「ラオン!紫電斬りの準備をして!こいつは液体だから電気が有効なはず!」
銃撃を仕掛けながら命じる葵。ラオンは言われるままにナイフに自身のエネルギーを込め、紫電を迸らせる。
地を蹴って、一気に斬撃を叩き込もうとしたが…いち早く反応したチャバケはより広範囲にお茶を吐き、二人同時に熱を浴びせる!
物凄く単純な攻撃だが、何せ液体である分拡散するので結構かわしづらい。二人は仰向けに倒れてしまう。
次にれなとれみのアンドロイド姉妹が出撃、拳を構え、力強く飛び出す!
「くらええお茶バスターパンチ!」
今この場で考え、命名したただの正拳突き。
案の定、お茶を吐きかけられて押し返される。お茶バスターパンチ、お茶に敗北。
意外な強さに驚く戦士達。チャバケは得意気に笑いながら大口を開ける。
このままではまたお茶ダンスの犠牲者が…。
が、そこでいち早く反応したのはドクロとテリーだった!
二人はどうやら何かを考えていたようで、ゆっくりと歩みを進めていく。そのおかげで、チャバケは二人の攻撃の気配を察知できずにいた。
二人はゆっくりかがみ、地面から泥を持ち上げる。そして…そのままチャバケに投げつけた!
この時、デビルマルマンが大声を上げる。
「あーっ、何て事を!!」
泥はチャバケの液状の体に染み込み、黒ずませる。
すると、チャバケの顔から笑みが消え、少しばかり体が小さくなる。
全体的に気迫もなくなり、まさしく弱体化を感じさせる姿になる!ドクロがピースサイン付きで説明した。
「お茶を濁すっていうことわざあるでしょ?それを利用したのよ!」
そういう意味ではないんだけど…と葵が突っ込もうとしたが、これが弱点である事は、先程のデビルマルマンの反応から間違いないだろう。
ワンダーズは横に整列。
お茶ダンスを踊る四葉を背に、チャバケに飛びかかる!
全員の拳が同時に命中し、流石の液状の体も衝撃に抗えず、一身に受け止めるしかない。
チャバケは大きく仰け反った後、一気に縮小、コップに収まった。
ラオンが急いでそれを拾い上げる。コップの中には、すっかり小さくなったチャバケが萎れた表情をしていた。
デビルマルマンは悔しそうに歯を食い縛り、そのまま兵士と共に去っていった。
ラオンはコップ片手に呆れた様子を見せた。
「なーんだ。第二ラウンドはあいつらかと思ったんだが」
念の為ハンドガンを構えながら葵が落ち着いた声で推測した。
「きっと闇姫がいない今、あまり下手に出れないのよ。やつらが大人しくしてる今、光王国の準備が進むと良いのだけど」
「オチャー!!オチャー!!」
「…そして、これいつになったら治るのかしらね」
ワンダーズは、ひたすら踊り狂う四葉を見て腕を組むのだった。




