闇と光の戦争
白と金の光に包まれる、白の刺客の拠点星、黒い闇を外殻のように纏う闇の一派の拠点星。
この二つの星に挟まれる小型の惑星。
この惑星の青い空の下、両勢力が激しくぶつかり合っていた。
黒いアーマーを纏う闇の一派の兵団、純白の鎧に身を固めた白の刺客の兵団。この二つが、荒れ果てた荒野の上で互いの剣を振るい合い、互いの命を狙い合う。
「妬ましい光よ、お前らの希望はここで潰える!」
「薄汚い闇が、ここで照らし出してくれる!!」
それぞれ光、闇の力への信仰心を語りながら戦う両勢力。
黒と白という全く異なる色合いの防具だが、それを覆う彼等の姿は両方とも人間とよく似てる。
ふと、一人の白の刺客兵が、闇の一派の兵の首を剣で切り飛ばす。
宙へ飛ばされる黒い皮膚の生首から飛び散る鮮血は、赤かった。
白の刺客の兵士達もまた、闇の一派の剣撃で全身を切り刻まれていく。
その血もやはり、赤かった。
仲間の血で鎧を赤く染めた白の刺客兵が、怒りと憎悪に満ちた声で目の前の黒い大群に怒号を浴びせる。
「このクソッタレのゴミどもが!!とっとと死にやがっ…」
途中で、突然声が出なくなる。
首を何かが貫通したのだ。
彼が最期に見た景色…それは、漆黒の弾丸が自身の横をすり抜けていく光景だった。
「闇の一派の銃撃だ!!隠れろー!!」
闇の一派は銃撃作戦に切り替えたのだ。次々に放たれる弾丸が戦場を飛び交い、白の刺客達は近くにある岩の裏に隠れる。
弾丸は強力で、岩も時々貫いてしまう程だ。いつまでも隠れる事はできない。
一部の兵士は一気に悪くなった戦況に臆し、被っていた純白の兜を取り外し、泣き面を晒す。
「も、もう駄目だ。俺達はここで死ぬんだ…どうしよう、まだ親父にもお袋にも何も言えてないんだよ…」
そんな彼を、一人の兵士が蹴飛ばす。
「コウノシン様の為に死ねるんだぞ!個人の事情なんざ誰も聞いてねえ、大義だ!!大義が全てなんだ!」
そのまま、兜を外したままの兵士は蹴飛ばされ、岩の裏から出てきてしまう。
「臆したお前は、囮役がお似合いだ!」
闇の一派の銃撃兵の射撃が、臆した兵士に一斉集中!無数の弾丸が一箇所に放たれるなか、周囲に隠れていた白の刺客兵一同がこれをチャンスと認識、姿を現す。
「闇の一派が!調子に乗るなよ!!」
光のような凄まじい速さで、闇の一派に迫る一同。闇の一派は対応できず、白の刺客の剣で次々に切り裂かれていく。
血とアーマーの破片が、大地を埋めていく。戦争は続き、徐々に両方の兵士の数が減っていった。
最終的に残ったのは、白の刺客が三人、闇の一派が一人。
白の刺客三人は剣を振り上げ、処刑の準備が整っていた。
「ま、待て…!お、俺も白の刺客になるよ…!だから命だけは…!」
…しかし、三人はその言葉に耳も貸さず、一斉に剣を振り下ろした。
血が飛び散り、闇の一派はピクリとも動かなくなる。
死体を蹴飛ばし、三人は周囲を見渡した。
「生き残ったのは俺たちだけか?」
「そのようだな…。だが、もうすぐ仲間たちが来るはずだ。皆が来てから、闇の一派の本星に攻め込むぞ」
頷きあう三人。それまで、付近の死体から使える物がないかと探し出そうとしたのだが…。
状況はそんなに甘くはなかった。三人のうち、一人が青空を指差す。
「おい!あれ何だ!?」
視線が空に集中する。
…空の果てから、赤い何かが飛んでくる。
それは…強大な闇の魔力の結晶体。赤黒い光球だった!
「あ、あれは…!マガツカイの攻撃だ!逃げろー!!」
一斉に逃げ出そうとする三人だが、空の果てにあった光球は気づけばもうすぐそこまで迫っていた。
闇の魔力が地面に叩きつけられ、三人は一瞬にしてそれに呑まれてしまう。
…その惑星のすぐ近く、闇の一派の本星では。
黒い土が続く闇の森林地帯で、闇王マガツカイが天へ手の平を向けていた。
闇姫軍を襲撃した時と同じように、他の星に向かって光球を放っていたのだった。
他の星にいる反逆者ですらも存在を察知できる脅威の察知力。白の刺客が闇の一派の本星に攻め込めるのは、恐らくまだ先となるだろう。
マガツカイのすぐ後ろには、アーマーを纏う兵士達が膝をついて指示を待っている。
「指定通りのルートを辿り、白の刺客の本星に攻め込め」
マガツカイの命と同時に、兵士達は一斉に駆け出し、助走をつけ、空へ飛行していく。
宇宙へ飛び出す兵士達。彼等は先日、白の刺客への襲撃作戦の大まかな流れを設計しており、マガツカイに一定のルートを指定されていた。
そのルート通りに、兵士達は目印もないような宇宙を正確に飛んでいき、ある星を発見する。
そこは正に、つい先程兵士達が殺し合っていた場所だった。この星は、両本星を経由する丁度良い場所なのだ。
ここで闇の一派、白の刺客が争い、生き残れば本星への潜入が楽になる。
そして今、この星に立っているのは闇の一派のみ。付近には先程の争いで命を散らした死体しか落ちておらず、生きている者の姿は見当たらない。
「チャンスだ。この星から一気に離陸し、白の刺客の本星へ殴り込むぞ!」
先頭に立つ兵士が先陣を切り、再び空中を飛行していく兵士達。
宇宙へ飛び出し、規定のルートを辿って暗黒の宇宙空間を飛んでいく。
白の刺客の本星は既に見えている。黄金と純白、二つの光に包まれた小さな球体が見えていた。
「行くぞ!」
敵の拠点地を前に士気を上げる闇の一派。全ては、闇の力への信仰心のままの勢いだ。
…だが、彼等は油断していた。
彼等目掛けて、何かが飛んでくる。
…まるで蛇のようにうねる…白い破壊光線だった!
「ぎゃああああ!!!」
白の刺客からの大歓迎だ。この攻撃で既に何人かの闇の一派は撃墜され、宇宙の果てへ吹き飛ばされていく。
何とかかわした兵士達は恐れる事なく光線を避け、本拠星へ直進していく。
「こんな小細工に怯むな!所詮、脳味噌まで光ってるような阿呆どもの精一杯の反撃だ!」
もはや本拠星はすぐそこ。このまま侵入は確実と思われたが…。
「ん?何だあいつは」
光線がうねる中、一つの人影が目に入る。
白い鎧を纏う一人の兵士だ。他の白の刺客とは違い、鎧ではなく、近未来的なアーマースーツを着ている。
そのスーツは各所に黄金の棘が生えている。頭を白いヘルメットで包んでおり、何か他とは違う雰囲気を纏っていた。
その兵士は背中から大剣を取り出し、こちらに向けてくる。
闇の一派は斬撃に備え、速度を緩め、構えるが…。
突如大剣が輝き、凄まじい閃光と同時に闇の一派目掛けて白いカッター状の光線が飛んでくる!
その速度は、光の速さをゆうに超えていた。
あれだけの闘志を持っていた闇の一派も避けきれず、一瞬にして光線に体を貫かれる。
…誰一人として声を発さなくなり、ただ自分達の胴体に絡みつくような激痛に、顔を歪めに歪めていた。
やがて無重力に抗う力を失っていき…その体は、上半身と下半身に分断されるような形で引きちぎれていく。
血の塊がゆっくりと飛び出し、無数の死体が宇宙を舞う。
その兵士は、もう敵がいない事を確認すると、本拠星へと戻っていった。
「よくやった、コウハ」
白の刺客の本拠星の宮殿にて。
闇の一派目掛けて光線を放っていた兵士三名、そして彼等にとどめを刺した上級兵士、コウハ。
彼等はこの一件の功労者となった。
三人の兵士は互いにハイタッチして喜びを分かち合い、コウハはヘルメットを外し、目の前で玉座に座るコウノシンに自信に満ちた笑みを見せる。
その顔は地球人の中年男性そのものだ。白の刺客と地球人は同じ種族、瓜二つなのは当然だった。
「私の見立てでは、やつらはこの本拠星への制圧に出たものと思われます。あの数人でこの本拠星に挑むとは、あまりにも無謀ですね。まあ、闇の勢力らしい低能ぶりですが」
コウノシンは頬杖をつき、足を組む。
彼の周りにいる家臣たちは笑顔を浮かべつつも、強張りきった笑みだった。コウノシンの一つ一つの動作全てに恐怖を感じ、その恐怖を笑顔で無理やり抑えこんでいる。
ふと、コウノシンは頭上に指を差す。その場にいた全員の視線が、天井に集中する。
「まだやつらの攻撃は終わってないぞ」
直後、宮殿中を強烈な豪音が刺激した。
何かが何かを破壊する音。それは、戦争で巻き起こる音だった。
「くっ、まさか…」
嫌な予感がしたコウハは宮殿から飛び出す。
外は恐ろしい光景だった。
黒い戦闘機が空を飛び、真下にある無数の建物に爆弾を投下していく。
建物の黄金の外壁が剥がれ落ち、地面に落ちていく。所々に吹き飛んでる黒くて小さな物は市民だろう。まるで土砂が散るように、秒単位で命が散らされていく。
コウハがその光景を見て気にするものは…。
「市民が、消えていく…。特攻武器が消えていくぞ…」
彼等にとって、命は戦争の為の武器だ。それが消えていくとはすなわち、コウハ達の敗北への道も意味してるのだ。
「止めるぞ、お前ら!」
コウハは宮殿にいた兵士達を引き連れ、空へ飛び出そうとしたのだが…。
「待て」
声をかけてきたのはコウノシンだった。兵士達は不気味な笑みを浮かべたまま振り返る。
コウノシンは腰を深く落とす。その体躯もあり、岩のような重みを感じさせる姿だった。
彼は両手を空に向ける。
「私がやろう」
…コウノシンの両手から凄まじい閃光が放たれ、直後、無数の白い流星のような光弾が放出される!
流星弾は空を目まぐるしく舞い回った後、闇の一派の戦闘機に直進、光のラインを空間に刻みながら突き進む様はまさしく流星だった。
当然こんな物に戦闘機は耐えられず、ぶつかった部分が派手に崩壊、勢いよく地上目掛けて落下していく。
墜落音、吹き上がる煙、瓦礫の山に赤色化するコンクリートの大地。そしてマントを風に揺らすコウノシン。
残された物はそれだけ。いずれも廃色に染まった虚しいものだった。
コウノシンはゆっくりと手を下ろしながら、兵士達の方へ向き直る。
「闇の一派もより派手に動くようになったな。すぐにでもやつらに同じ恐怖を味合わせるぞ」
彼等の内に秘められた、闇の力への冒涜意思は計り知れないものだ。兵士達は気合を込めて敬礼、すぐにでもという言葉通り、宮殿へ駆け込んでいった。
宮殿の柱の裏で、一部始終を見張っていたブルムとカール。
ブルムは青い髪を生臭い風に乗せられるままに揺らしながら微笑んだ。
「戦争の臭いだ…。いつ嗅いでも良い。仕事といくか」
陰謀を巡らせる彼女を見下ろすカールの顔に、いつもの笑みは無かった。




