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ワンダーズ

事務所メンバー全員が集まった日の事だった。

彼等は、それぞれ思い思いに過ごしていた。れなとれみはしりとりをしていて、葵と粉砕男は雑誌を読んでいる。

ラオンは冷蔵庫を物色しており、ドクロとテリーは互いにジャンケン…見るからに暇そうだ。

暇な時間…思考に余裕が出てくるこの時間。れながふと、こんな事を言い出した。

「ねえ、事務所メンバーってダサくない」

む、と全員が視線を向けてくる。少しばかり焦りながらも、れなは続けた。

「アタシ達、全員を一括りに言うと事務所メンバーじゃん。単純にダサくない?何?事務所メンバーって」

「確かにダサい」

そう返してくれたのはラオンだ。冷蔵庫を開けっ放しにしながら腕を組む。

彼女に続くように、葵も雑誌から顔をあげる。。

「いわゆるチーム名ってやつよね。確かにこれから依頼をこなしていく上では肝心ね。事務所メンバーって、確かにダサいわね。誰?考えたの」

そういえば誰だろう…と、一同は上を見上げる。


そんな何気ない話題に幕を下ろしたのは、この話題を振ってきたれなだった。

「ま、依頼をこなしながら考えようか」

呼び名は何とでもなる、という事で、一同はつい先程届いた依頼に目をやる。



それは依頼ではなく、挑戦状だった。

テリーが骨の手で手紙を持ち、読み上げる。

「…『俺達はトリプル・アタッカーズ!お前らに決闘を申し込む!テクニカルシティ近くの森にて、お前らを待ってるぞ!事務所メンバー!』だそうだ…」



…ダサい。

決闘を挑まれた事よりも、自分達の呼び名の方に落胆した。



決闘を潔く受け入れた七人は、森にやって来た。

この森はいつも静かで平和な場所だ。七人が歩いていくと、桃色の髪の幼い少女の姿が見えてきた。

四葉だ。森の住人である彼女には、これからここで少々暴れる事を謝っておかなくてはならない。

こちらに頭を下ろす四葉に、葵が近づく。

「四葉、実はこの森で決闘をする事になってね。でも安心して。戦いつつ、森から離れていくつもりだから」

そんな葵の言葉に四葉が返した言葉は、かなり予想外のものだった。

「いえ、大丈夫です!」

笑顔を見せる四葉に、一同は互いに顔を見合わせる。森で暮らす四葉にとって、森での決闘など家荒らしも同然ではないかと。

四葉は両手を広げて説明した。

「その決闘を送り込んだお相手は…私の仲間、つまりこの森の住人なのです」

まさかの展開に、葵は口を開けた。



「待ちわびたぜ」

声が聞こえた。四葉はその声を聞くと、また笑顔になる。


木々の横を通り抜けてやって来たのは、一人の怪人だった。

大きな頭を持ち、草でできた髪を生やしてる。両手は白い雪に包まれており、燃え上がる尻尾を持つ。三つの属性を合わせたような怪人だ。

四葉は彼に手を添えながら、紹介してくれた。

「私達クローバー族と森を守ってくれる戦士、トリプウスさんです!」

トリプウスは冷たい雪の手で四葉の頭を撫でる。どうやら本当に四葉の仲間のようだ。

なら、そんなに危険なやつでもないという事。だがまだ不可解な要素があった。

ラオンは警戒する足取りで近づく。

「おい、お前が決闘を挑んできたんだな?でもお前一人じゃんか。他の仲間はどこだ?」

横を見ると、四葉が両手の平を向けて凄い勢いで頭を横に振ってる。自分じゃない、という事だろう。

トリプウスは不敵に笑いながら、拳を握る。その拳からは、白い冷気が静かに上がっていた。

「戦えば分かるさ。かかってきな」

何故戦いを挑むのかも分からない、未知の相手だ。

ここまで来たらやるしかない。ラオンはトリプウスに背を向け、皆に指示をする。

「皆、こいつと戦う代表戦士をジャンケンで決めるぞ!手ぇ出せやゴラァ!!」


「その必要はない!」

代表決めジャンケンを止めたのは、トリプウスだった。

驚いて振り返るラオン。

トリプウスの顔は自信に満ちている。どうやら間違えて言った訳でもないようだ。

ここにいる七人を同時に相手?何という自信なのだろうか。

そういうやつほど、自信をへし折ってやりたくなる…ラオンの悪い癖が出た。

「なら容赦なしだ!皆、やるぞ!」

声を上げながら向かっていく一同。凄まじい勢いの突撃にもトリプウスは動じない。

最初に攻撃を繰り出したのは、粉砕男はだった。彼の大きな拳が振り下ろされる!

攻撃は命中…するはずだった。



粉砕男の拳は、トリプウスではなく、地面に衝突、地響きで周りの皆が飛び上がる。

次々に地面に落ちていく皆を見て、粉砕男は慌てふためく。

「あっ、外したのか?!」

やつは今の今まで棒立ちしていた。瞬時に回避の姿勢に移るのは至難の業。しかも粉砕男一人だけでなく、こんなにも大人数が揃ってるというのに。




「上です!」

四葉が叫ぶ。

その声は、何故か少し得意げだった。




その時、突如何かが倒れる音がした!

皆の首が、音のした方へと一気に動く。


そこには…うつ伏せに倒れ、必死にもがくドクロの姿があった。

彼女の背中を、トリプウスが踏みつけていたのだ。

だがこのトリプウス、何やら見た目がおかしい。雪に包まれてた両手は葉っぱに覆われ、尻尾も草にまみれてる。

だがそれも気にせず、テリーが駆けつける。

「てめえ!俺の可愛い妹に何すんだ!」

テリーがトリプウスを殴りつけようとした時…。


突如、テリーは何者かに突き飛ばされた!

兄妹仲良く倒れてしまう二人。テリーを背後から蹴ったのは…そいつもまた、トリプウスだった。

トリプウスが二人現れたのだ。新たに現れた個体は、頭と尻尾が雪に包まれていた。

この辺りになると、七人もそろそろ悟ったようだ。

トリプウスは分裂ができるのだ。そして、元々の外見を思い出してみると、分裂体が二人だけではない事も何となく予想がついた…!


「危ない!」

れみが叫び、小さな体で高く飛翔する。

直後、上から炎を纏いながら三体目の分裂体が現れる!

燃え上がる手と頭、尻尾を持つ、炎のトリプウスだ。

草、雪、炎。三体のトリプウスはニヤリと笑いながら、声を揃える。

「かかってこい!事務所メンバー!!」

七人の表情が気抜けする。

自分達のチーム名に気抜けする時が来ようとは…。

トリプウスは気にせず、こちらに飛び出してくる!

雪トリプウスと草トリプウスが、密集してる七人の左右に回り込み、囲みだす。

すると、彼らが通った後に冷気が吹き荒れ、その冷気と一緒に尖った葉っぱも飛び交いだす。

葵の声が歪む。

「くっ…下手に動けなくなったわね…」

そして、炎の分裂体は囲まれた七人に向かって、火球を次々に撃ち出してくる!

火球は全員に見事に命中、彼らの陣形が乱れたところへ、灼熱の炎に包まれた蹴りが飛んでくる!

蹴りはテリーに命中、骨の体に熱がこもり、衝撃と熱が彼にぶつけられた。

「あ、あちいいいい!!!焼骨にされちまう!!」

「へへへ、なら冷やしてやる!」

そう叫んだのは雪のトリプウスだ。口から吹雪を吹き出し、全員を凍えさせる。

熱された後、急に冷やされたテリーの骨の体はバラバラに。そこへ間髪入れず、三人の分裂体はテリーを袋叩きにし始める!

無数の殴打を食らいながら、テリーは痛がりつつも、それ以上に困惑した。

「お、俺にだけ当たり強くね!?」

その問いに対し、三人のトリプウスは拳を振り上げ、叫ぶ!

「特に意味はない!!」


しかし、テリーにとっての勝利の女神の声が聞こえてきた。

「お兄ちゃんに何すんじゃああ!!」

ドクロが、3人の分裂体に蹴りをかます!流れるように、三人の頭を一度に蹴飛ばした。

三人は怯みつつも、全員でそれぞれの属性の弾を撃ってきた!

尖った葉っぱ、冷たい雪の塊、小型の火球、三つの属性弾丸が七人を打ち付ける!

緑、白、オレンジ…一度に複数の色が視界を目まぐるしく動き、目眩がするようだ。

そんななか、葵が堪えながらハンドガンで三人に発砲する。

トリプウスは、自分達のターンだった事もあってか油断してたようで、弾丸は直撃。

三人は少しばかりバランスを崩すが、すぐに立て直す。

また新たな攻撃の陣形をとっているようで、今度は木から木へと飛び移りだす。

素早く動きつつも、目はこちらをしっかりと見つめてる。

嫌な予感が、七人全員の焦燥心を揺るがした。

トリプウスの動きを見つつ、葵が皆に言う。

「あいつら速いし硬いし滅茶苦茶厄介だわ…!こうなれば、私達全員が同時に動いて反撃するしかない!」

皆は頷く。チームワークにはチームワークをぶつけるのだ。

七人はそれぞれの構えをとり、トリプウスの攻撃を待つ。

何やら雰囲気が変わった一同に、トリプウス達も警戒を固める。

「あいつら、何か雰囲気が変わった。気をつけろ!」

三人は両腕で顔を覆いつつ、飛びかかってくる!

彼らがこちらに飛んでくる最中、葵が早口で指示をした。

「れみ、テリー、ドクロちゃん!蹴って!」

素早く動ける三人を選抜する葵。三人は言われた通り、トリプウス達に蹴りを叩き込む!

トリプウス達は痛みを堪え、空中で体勢を立て直そうとしたが、その明らかな隙を突いて粉砕男が三人の顔面を豪快な拳で薙ぎ払う!

言われずとも、速さに特化した三人が攻撃し、直後の隙を力に特化した自分が攻撃するという作戦を読んでいたのだ。

葵は微笑みながら、ハンドガンで三体に銃撃する。

蹴り、拳、銃弾…コンボは綺麗に繋がった。

トリプウス達は痛がりつつも、それぞれ手の平を広げ、また属性弾の準備をする。

葵は一瞬気が緩み、口が歪む。

…が、直後、れなが指揮をした!

「皆!魔力波を放てえええい!!」

異常に気の込もった声に従い、一斉に魔力波を手から撃つ仲間達!アンドロイドであるラオンと葵の手からは、熱を帯びたエネルギー波がぶっ放される。

それぞれの体力を消耗する大技ではあったが、トリプウス達の属性弾はこれによって完全に消え失せる。

木々をすり抜ける波動は、トリプウス三人を包み込み、彼等の全身を焼き払う!

「うごあああ!!」

分裂体というだけあり、三人の叫び声はタイミングも長さも高さも全く同じ。波動で光が放たれる中あげられたその声は、芸術的にさえ感じた。

それでも三人は諦めない。

光の中から飛び出し、互いの体をぶつけ合う。

すると、三人の体が輝き、一人のトリプウスに戻る。

三人の力を一つに合わせた本来の姿。拳を握り、その拳にエネルギーを集めてるようだ。

空中から向かってくるトリプウスにも、一同は怯まない。

粉砕男が、瞬時にとんでもない提案する。

「れな!ドクロちゃん!俺がお前達を持ち上げ、あいつ目掛けて投げ飛ばす!」

予想外の攻撃手段に一瞬戸惑う二人だが、直ぐ様頷く。

粉砕男は二人を片手ずつ持ち上げ、トリプウスに向かって投げ飛ばした!

一気に距離を詰め合い、空中で対峙する。

トリプウスは、まさか投げてくるとは思わなかったのか、一瞬拳が緩まった。この隙が勝利への糸口だ!

れなとドクロはトリプウスの顔面を殴り、彼の視界を妨げる。

地上の葵がトリプウスに発砲、弾丸にぶつかったトリプウスは完全に攻撃の姿勢が崩れる。

次にれみが指先からレーザーを発射、テリーは空中に骨を形成して撃ち出す!

無数の攻撃にトリプウスは悲鳴を上げる。

「ちょ!!やり過ぎ!!やり過ぎだ!!」

だがもうお構いなしだ。

空中から落ちてくるトリプウスに、ラオンがナイフを向ける。

「喧嘩にやり過ぎもクソもないぜ!」

ナイフに紫電を纏わせ、疾走、飛び上がり、トリプウスが地上に着地する前に強烈な斬撃を放つ!

紫の光を放ちながら痺れるトリプウス。そんな彼に、最後に打ち込まれるのは、粉砕男の蹴りだった!

振り上げられる足に打ち上げられる。

もはや痛みなどなかった。トリプウスは瞬時に気絶し、草の上に叩き落された。


「…やった!勝ったー!!」

れなの声と共に、皆は両手を振り上げた!

慌てふためく四葉を背に…。



…夕方頃、四葉の仲間の動物たちに看病されるトリプウスを目に、一同はようやくやり過ぎたと理解した。

草のベッドの上で動物たちに囲まれながら、痙攣しつつもトリプウスは親指をたててくれた。

「お前ら…凄いな…。俺はかつて五百人の巨人兵を倒した男だった。そんな俺をここまでボコすとは…」

気まずそうな顔の一同の前に、れなが歩み出る。

「一同を代表して謝罪します。過度な攻撃、申し訳ありませんでした!」

土下座するれな。

誠意は込もっていた…。



帰り道、森から出た一同は、テクニカルシティに立ち並ぶビルを眺めながら歩いていた。

れなは両手を頭の後ろで組みながら呑気な口調で言う。

「にしても、勝てるとは思ってなかった。あいつやたら強かったし」

れみもまた、姉の意見にうんうんと頷いている。葵も自身の相棒であるハンドガンに不備がないか確認しつつ言う。

「百人の巨人兵を倒した…あの分裂体のチームワークなら納得ね」

その会話に感極まったのか、ラオンがナイフを頭上に向けて叫ぶ。

「そんなやつに勝ったのが、私ら事務所メンバーって訳だがな!!」


…沈黙がよぎる。


やはり、何だかしっくり来ないネーミングだ。



恥ずかしそうな一同の中、一人だけその言葉に待ってましたとばかりの反応を見せた人物がいた。


れなだ。


「ねえ、名前考えたんだけどさ」


視線が、れなに集中する。

オレンジ色の光の中、れなは静かな声で命名した。


「ワンダーズって、どう?」


ワンダーズ…。皆は互いの顔を見合う。

全員が、全員の顔に視線を寄せる。


そして、最後にれなを見る。



「…ワンダーズ!それ、良いな!」

テリーが、顔の関節をガタガタ言わせながら、骨の手を握る。

他の皆もしっくり来たようで、頷きながら笑顔を見せてくれる。


どうやら決まりのようだ。



ワンダーズの仲間達は、次の戦いに身構えるのだった。

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