カールの秘密基地 スモクトパス
事務所に届いた依頼に、れなたちは準備を進めていた。
テクニカルシティの近くの森で、怪しげな男が確認されたというのだ。
今回はメンバー全員が事務所に揃っていた。
いつもなら届いた依頼を手分けしてこなしているのだが、その日は暇だった。
アンドロイド姉妹、れなとれみ。死神兄妹ドクロとテリー。武装アンドロイド、葵とラオン。人工生命、粉砕男。
七人の戦士全員が、戦いに出向く事に。
怪しげな男。
最近の傾向ではやはり闇の一派か白の刺客を思わせるが、その男は、両勢力の特徴であるアーマーを身に着けていなかったらしい。
どちらの勢力でもない可能性が高い。恐らくただの不審者の類だろうと、一同は思った。
そんなただの不審者が、この七人の戦士に襲われるのだ。何と不幸な不審者だ。
…が、その森にいたその男は、ただの不審者ではなかった。
「…白の刺客がアンコウ鉱山に近づいてきたか」
深刻そうに、木々に覆われる空を見上げていたのは、黄昏の狙撃手カール。
いつものように煙草を咥え、登り立つ煙が視界の隅を横切る。
彼の表情は深刻だった。
ブルムの組織に所属するカール。現在、ブルムの方針により、白の刺客の拠点星…「白の明星」と地球をテレポート装置で行き来している。
今は故郷である地球に戻り、次の行動を考えていた。
ブルムの最終目標…つまりカールが導くべき計画は、白の刺客と闇の一派に武器を売り渡す事。
更に隙を突いて闇の一派にも武器を売り渡し、両勢力の戦力をより強める事で戦争を存続させる。
そこから金を巻き上げる事だ。
だが、カールの心はあまりにも曇っていた。
もしも白の刺客がアンコウ鉱山に辿り着き、その力を手に入れたら…。そして、闇の一派にまでその武器を渡せば…戦争は更に凄惨な事態になる。
「…だが、ブルムを切る訳にはいかないんだよなあ」
カールは仕方なさそうに笑った。
「よし。こうなりゃ、少し無茶してみるか」
カールは、何かを思いついたようだった。
立ち上がり、歩き出すカール。生え揃う草をどかしながら、ある道を歩いていく。多くの木々が壁のように立ち塞がるなか、迷わずに足を進めていく。
彼にとっては行き慣れた場所ではあるが、何だか今日は違う場所のように見えた。
しばらく歩いていくと、ある巨木が現れた。
他よりも一際大きなその巨木には、人工的な穴が空けられていた。
ここがカールの目的地のようだった。彼の足が止まる。
…そこへ、こんな森にはあまりに不似合いな、賑やかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
…れなたちの声だった。
「あっ、やべえ!ここを見つかる訳には…!」
珍しく慌てるカール。この巨木には、見られてはいけない物があるようだった。
カールは二、三度の忙しない瞬きの後、巨木の根本から何かを取り出す。
それは、七色に輝く妙な弾丸だった。
彼はポケットから取り出したハンドガンにその弾を込めた後、地面に向かって撃ち出した。
すると、放たれた弾から激しい閃光が走り、周囲を照らし出す。
カールは、腕で顔を覆いながらニヤリと笑う。
「わりいな嬢ちゃん達。お前らをあまり巻き込みたくないんだよ。手荒な真似、させてもらうぜ」
…光が晴れ、何かがその場に現れた。
それは、灰色の蛸のような大型のモンスターだった。
全身に謎の突起物が生えており、どこか機械的な印象を受ける。
「やれ、スモクトパス!ここへ近づく者を撃退しろ!」
スモクトパスというそのモンスターは、突起物から白い煙を放った!
煙はあっという間に周りに広がり…。
そして、すぐ近くまで来ていたれなたちのもとにも届いてきた。
皆で世間話を交わしながら歩いていた一同だったが、突然立ち込めてきた煙を見て、何事かと口を揃える。
煙は木々をすり抜け、あっという間に全員の視界を包んでしまう。その瞬間、周囲にいた仲間達の気配を感じなくなってしまう。
視界だけではない。感覚までもが煙に覆われ、薄れてしまった。
粉砕男と葵は冷静に周囲を見渡すが、ドクロとテリーは兄妹仲良く騒ぎたて、れなとれみは互いに頭をぶつけ合ってる。
何も見えないが、勿論声は煙をすり抜ける。葵は周りにいるであろう仲間に向かって呼びかける。
「落ち着いて皆。飛行して煙を抜けるわよ」
その手があったか、と一同は一斉に空中に向かって飛び上がる!
葵の見立て通り、煙の背は高くなかった。山の上空で皆は再会する。
粉砕男が皆の顔を一通り見渡す。
「よーし、全員いるか、点呼をとるぞ!まずは葵!」
こういう時は皆いるか確認するのが一番だ。葵が真っ先に呼ばれるが、葵は他の誰よりも、一人の不在に気づいたようだった。
「ねえ、ラオンいないわよ」
…ラオンだけは、かなり離れた場所に移動してしまっていた。
ここまで煙は届いていない。一応煙から脱出はできていた。
「はあはあ、何だったんだあの煙は?」
膝を曲げ、息を切らす。
そして、気晴らしにれなにでも声をかけようかと振り返った時…。
皆がいない事に気がついた。
「え、え!?」
流石に焦る。まさか自分だけがどこかに先走ってしまったのかと、焦りに焦る。
「い…いや!他の皆が私を置いて勝手にどこかに行ったんだ!私は悪くない!悪くない!!」
一旦落ち着こうと、その場であぐらをかくラオン。先程の光景を、脳内で再生する。
…真っ先に浮かんだのは、走り去る自分の足の感覚だった。
「…やっぱ、私が勝手にどっか行ってたのか…」
凹むラオン。皆の足手まといになっているのであろう自分を責めていた。
その場に留まってても仕方ない。今自分が通ったであろう道を後戻りしようとしたのだが…。
「ん?」
ふと、妙な物を見つける。
大きな穴が空いた奇妙な木が、そこに立っていた。
その穴は自然にできた物にしては妙に綺麗だ。
そういえば、この付近だけはやたら草が刈られており、邪魔な枝もほとんど落ちてない。
違和感のあるその木に、ほんの興味本位で近づくラオン。
「…っ!!」
茂みが激しく揺れ、殺意が放たれた!
ラオンはいち早く察知し、身をかわす。横から大きな影が飛び出し、彼女に襲いかかる!
そいつはスモクトパスだ。触手をラオンの頭上から振り下ろしてきた!
ナイフで攻撃を弾くラオン。バク宙して一旦距離を離し、互いに睨み合う。
スモクトパスは触手を揺らしながらゆっくりと平行移動し、狙いを定めてくる。
触手の先端に力がこもり、灰色の体を奮い立たせる。威嚇だろうか。
ラオンはナイフを片手で回しながら、余裕を崩さない。
「森の中に蛸とは、世も末だ!」
格好良い台詞が思いつかなかったらしい。それを紛らわすようにラオンは勢いよく飛び出し、スモクトパスの顔にナイフを振り下ろす!
攻撃は命中。痛みを無視した触手打撃が飛んでくるが、ラオンはそれらを全てナイフで弾き尽くす。
触手攻撃の合間を見つけると、今度は蹴りを炸裂させた!
スモクトパスは後退、体を半分茂みに隠し、こちらを凝視したまま動かなくなる。ラオンが出るのを待っているようだ。
ラオンはナイフを振り回しながら、スモクトパスに突進する!
が、十分距離を詰めたところで、スモクトパスは口から煙を吹き出してきた!
「うわ!」
視界を完全に覆われたラオンに、スモクトパスは触手攻撃の嵐をお見舞する!
全身を衝撃が叩きつけ、痛手を負うラオン。地面に落ちたところへ、更に強力な一撃が飛んでくる!
…しかし、ここでラオンに救いの手が伸びる。
何か、小さな音が聞こえてきた。
同時にスモクトパスは触手に痛みを感じ、そのまま引っ込める。
直後、何かがスモクトパスの顔面を思い切り蹴飛ばした!!
「悪ぃなスモクトパス…!」
それは…カールだった。
れなたちの接近を避ける為にカールが呼び出したスモクトパス。煙を放たせる事で戦わずしてれなたちを追い払うというカールの作戦だったが、ラオンが偶然ここまで逃げてしまい、スモクトパスがラオンを襲うという事態が発生、思わぬアクシデントに駆けつけたのだ。
カールは申し訳無さそうに、スモクトパスの全ての触手にハンドガンで銃撃を仕掛ける!
触手に走る痛みに悶えながら、スモクトパスは退散、山のどこかに逃げていった。
そのハンドガンは、発砲音を抑える事ができるサイレンサー付きだった。
ここはカールにとって秘密の場所。派手に発砲すれば、今どこかにいるであろうれなたちにも気づかれる可能性がある。
…そして今、後ろにいるラオンを誤魔化すのだ。
カールは相変わらずニヤリとした笑みのまま振り返り、人差し指と中指をたてて軽く手を振った。
「無理すんなよ」
「助かった!!ありがとう!!!」
あまりに素直なお礼に、カールは一瞬たじろいだ。
…直後、予想していた質問が来る。
「…ってか、何でここにお前がいるんだ?」
待ってました、とばかりにカールは答えた。
「あのモンスター、スモクトパスを倒しに来たんだよ。やつをたこ焼きにすれば、焦げ風味たこ焼きができると噂で聞いたからな。でも可哀想になったから逃してやった」
「焦げ風味って、お前本気で言ってんのか?」
ラオンは目を細めて呆れた。
…先程追い詰められた緊張から、あの木の事は忘れたようだ。
ラオンはカールを指差す。
「さてはこの辺りで噂になってる怪しい男ってお前か!勘弁してくれよ。最近闇の一派、白の刺客とかいうやつらに振り回されてんだからな!」
カールは両手を合わせて頭を下ろしつつも、どこか舐めた笑顔を見せた。ラオンは舌打しつつ、「ったく」とだけ呟く。
「…でも、お前のおかげで本当に助かった。ありがとよ」
ラオンはそれだけ言い残すと、れなたちを探して去っていった。
…カールは、一人残っていた。
「人助けは、気持ちいいねえ…」
しばらくして、茂みからゆっくりとスモクトパスが戻ってきて、カールに寄り添った。
カールはスモクトパスの触手を撫で、頭を下げた。その顔には、笑みはない。
「さっきはすまなかったな。だが、なるべくあいつらを巻き込むのは避けたいんだ」
カールは、あの巨木に目をやる。
…巨木の中は、自然物とは全く違う。
木の中には、多くの銃器が壁にかけられていた。
どれもこれも軍事用だ…。
しかし、所々猟銃や、カール自身が作り上げたであろう特殊な形状の銃も存在する。
そしてその下に置かれた机には、長々と計画が書かれた紙が置かれてる。
「アンコウ鉱山。あれさえ諦めさせれば、両勢力の戦争は勢いを弱めるだろう。何とか策を練らないとな」




