二大怪獣と黄昏の狙撃手 ダタラガマ ガンリュウゴ
闇の一派が暴れまわるなか、別件で一つの事件が起きた。
ある日、アンコウ鉱山近くの岩盤が崩れ、そこからモンスターが出現したのだ。
この被害を受けた人からの依頼が、れなたちの事務所に飛んできた。
その日、事務所にいたのはれなとれみの姉妹だった。
二人はテレビに映るそのモンスターの姿を見て興奮していた。
岩の兜、岩の鎧を纏った、四足歩行の怪獣のようなモンスターだ。見るからに強そうな外見のそのモンスターは、現在森林で暴れ回っているらしい。
木々が薙ぎ倒され、多くの生物が逃げ出している。既に被害は甚大だ。
「現地から中継です!げ、現在、正に地獄のような状態です!やばいです!うおおお!!」
テレビ画面のなかで、アナウンサーが飛び交う木々から逃げ回る、映画のワンシーンのような映像が映し出されていた。どんな言葉よりも伝わりやすい映像を展開するアナウンサーも凄いが、その光景を映し続けているカメラも凄い。
そんな映像を見たれな姉妹は、一刻も早く現場へ急がなければと足を焦らせた。
それにしてもアンコウ鉱山…あそこは最近何かと忙しい現場のようだ。
午後十四時頃。
二人はアンコウ鉱山の近く…今正にあの怪獣が暴れているあたりまでやって来た。
丁度二人がやって来た頃には怪獣は眠っていたらしく、被害進行は一時的に収まっていた。
それでも木々はへし折れ、あちこちに破壊された地面や岩盤の破片が散らばった惨地と化している。凄まじい暴れぶりが目に浮かぶようだ。
とりあえず、今回は今この山のどこかで眠っている怪獣を倒し、どこかで大人しくしてもらう事が目的だ。いつも通り、戦って倒し、力を弱くしたところで地中にでも送り返そうとしていた二人。
まずは見つけ出す事が先だと、山道を歩いていく二人。
…が、予想外の人物に出会った。
「よお、お前ら。何してんだ」
誰かが声をかけてきた。
現れたのは…カールだった。
襲撃を免れた木に寄りかかり、マグナム銃を片手に能天気な様子だ。れなは、妹であるれみを守るように彼女の前に立ちつつ、カールに問い返す。
「ま、まさかこんな所でまた会うとは。お前こそ何してるんだ?私達は依頼を受けてここへ来た。仕事だ!!!」
「そうか。なら俺も仕事だ」
カールはポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつける。
「うちの組織がこの辺りでやらかしてな。その結果、元々地中で眠っていた怪獣を起こしちまった。俺達が責任をとるしかねえだろ」
一通り言い終わると、カールは煙草に口をつける。れなとれみは互いに顔を見合わせた。
…と、その時。
突如、静寂のなかに豪音が飛び込んできた。
地面を勢いよく叩きつけるような…巨大なものが歩く音だ。
れなはよろめきながら慌てふためく。
「な、何だ何だ!!何が起きてる!?」
「何だ何だって、思い当たるの一つしかないでしょバカ姉貴…」
れみは姉を守るように、その小さな体で彼女の前に立つ。
足音がどんなに近づいてきても、カールは全く動じなかった。
…そして、ついにお出ましだ。
木々の上からこちらを覗き込むように、巨大な怪獣が現れた!
やはり実際に見ると違う。テレビで見た時以上に大きく見える。
怪獣は気が立っているらしく、真下の三人を咆哮で威嚇してくる。
飛び散る葉っぱや草に軽く顔を覆いながら、カールが歩み出た。
「おいでなすったなガンリュウゴ。元はと言えば俺らがやらかしたのが原因だ。痛めつけるのも気が引けるが、この辺荒らし回るのはまた別問題だよな?」
そう言うと、カールはガンリュウゴの顔目掛けて、煙草を投げつけた。
顔にぶつかるのと同時に、カールのマグナムが叫ぶ!
火花を散らして放たれた弾丸は煙草を撃ち抜き、無数の白い煙にして煙幕を張る!
ガンリュウゴは驚き、確実な隙ができた。その瞬間、カールは地を蹴って飛び出し、その顔面に蹴りを打ち込む!
勢いよくよろめくガンリュウゴ。流れるような動きに、れなとれみは思わず魅入っていた。
ガンリュウゴは岩の兜を被っているが、覆われていない僅かな隙間を攻撃すればまともなダメージは通るようだ。カールはその隙間に拳や足で打撃を加え、的確なタイミングで撃つ事で弾を節約しつつ戦っている。
木から木へと飛び移り、時々ガンリュウゴの顔面を蹴る事で滞空し続けるカール。彼は、地上のれなとれみがこちらを見上げているのを見てニヤリと笑う。
「おい嬢ちゃん達。俺に惚れるのは構わねえが、手伝いに来てくれたんじゃねえのか?」
はっ、とするれなとれみ。
そうだ。元はと言えば目的はガンリュウゴ。ついさっきまでやつの名前さえ知らなかった自分達を悔いた。
二人は拳を握り、ガンリュウゴの顔面に飛んでいく!
その頃…。そう離れていない森林地帯にて。
青い髪の女性が無数の研究員を引き連れ、どこかを目指しているようだった。
その女性…ブルムは、一人の不在に困惑し、研究者の一人に聞く。
「おい。カールはどこだ」
「ガンリュウゴの相手をしてますよ」
ブル厶は深くため息をつきながら、目の前に生えた小さな苗木を乱暴にどかす。
「やつは昔から甘っちょろい。怪獣の一匹二匹、暴れ出しても専門の戦士に任せれば良いじゃないか。アンコウ鉱山の調査にもエライ否定的だしな」
彼女の声を聞きながら、研究者達は周囲の岩や地面の一部に虫眼鏡型の機械をかざしていた。この辺りの地質を調べているようだ。
耳を済ませると、僅かに戦闘音が聞こえてくる。ガンリュウゴは今正に興奮の真っ盛りだ。
ブル厶達はある地点に辿り着く。
そこには何本かの白黒の結晶が生えていた。山の中なのに、洞窟にでも生えていそうな物体だ。それを見たブル厶は興奮気味に語りだす。
「こんな所にも生えているとはな…!これぞアンコウ鉱山の力の結集、アンコウ希石だ!」
ブル厶はポケットから何かを取り出す。
それは、へし折れたナイフだった。意外な物の登場に、研究者達は疑問を隠せず、どこか間抜けな表情に。
ブル厶はナイフをアンコウ希石に掲げる。
…すると、ナイフは突如白と黒の光を放ち、折れた刃の先端部に、二つの光が集中していく。
研究者達の顔は、一気に驚愕のものへと変化。光に照らされながら、ブル厶は不敵に笑っていた。
みるみるうちにナイフは完全に修復され、新品同然に。
更にブル厶は、そのナイフを地面に突き刺してみせる。
…頑強な山肌が、一瞬にして貫かれた。通常のナイフでは中々出ないであろう威力だ。
得意げにナイフを振るいながら、ブル厶は研究者一同に解説した。
「アンコウ希石はこのように、物体を光と闇の力で修復する力を持っている!これを人体に活かせば、人類にとってこの上ない療法として活躍するだろう。…しかし!」
ブル厶は、ナイフを掲げたまま、アンコウ希石を指さした。
…先程まで白黒に光っていたアンコウ希石は、半透明になっていた。
「たったこれだけの希石では何もできん。一本だけでは力が足りないのだ。人体療法に活かすのは愚か、現在の我々の目的である闇の一派と白の刺客への支援物資としてもあまりに不十分だ。だから、アンコウ鉱山本土への潜入が必要なのだ」
彼女の策を知らされた研究者達は、興味深そうにそれぞれ話し合う。
ブル厶は周囲を見渡し、続けた。
「アンコウ鉱山にはエネルギーの根が存在しているらしい。今からその根を破壊し、アンコウ鉱山本土に満ちる危険なエネルギーを撤去する実験に移る。またガンリュウゴのような怪獣が現れるかもしれないが、構うな。その時は専門戦士に頼むか、カールが勝手に片付けるだろう」
やや戸惑う様子を見せる研究者の姿もチラホラ見られたが、実験は始まる事となった。
…それからしばらくして、山には激しい爆発音が響き渡った。
何本もの木々が倒れ、地面からは黒と白のエネルギーが飛び出す。岩盤が崩れ、煙が登り…平和だったはずの山が、唸っていた。
その音は、ガンリュウゴと戦い続ける三人の耳にも飛び込んでくる。
カールが真っ先に音のした方向を見る。その方向が、自身の組織の目的地点である事はすぐに分かった。
「ちくしょう、ブルム達またやりやがった!遠くで何か破壊活動をしてやがる!」
振り下ろされるガンリュウゴの足を受け止める。上の方ではれなとれみが飛行しながらガンリュウゴを殴りつけるが、中々効かない。
「気ぃつけろ!また何か来るかもしれねえぞ!」
カールの声に、れなとれみは驚愕する。
そして、残酷にもその予感は的中。
ガンリュウゴのものとはまた別に、大きな足音が聞こえてきたのだ。
「嘘でしょお!?」
れながガンリュウゴから一旦視線をそらす。
…山の木々を蹴散らしながら、何かが近づいてきていた。
土のような質感の皮膚に、四つの青い目、鎌の腕を持ち、二足歩行の巨大な生物…また一体の怪獣が迫ってきていた!
ガンリュウゴに発砲しながら、カールはやれやれと首を振る。
「ダタラガマまで来やがった…。勘弁しろよ」
ダタラガマと呼ばれたそのモンスターは、鎌の腕を振り回して全身で怒りを表している。地中で眠っていたところ、先程起きたのであろう爆発で突然起こされたのだ。
被害者が増えた…。カールはやりにくそうに笑う。
れなとれみは互いに分散する。れなはこれまで通りガンリュウゴ、れみは新たに現れたタタラガマを狙う。
ガンリュウゴは強靭な力で土砂を巻き上げながられなを踏み潰そうとし、タタラガマは鎌で木々を切り裂きながられみを襲う。
カールはしばらく黙ってその光景を見つめていた。何かを考え込むように…。
「…くっそ。おい二人共!もうその辺でいい!この辺りにいる動物を何とかしてここから離せ!」
カールはガンリュウゴとタタラガマ、両方に発砲して自身のもとへ集める。何か策があるようだ。
れなとれみは従い、地面に降り立ち、ひたすら地面を蹴り出す。二人の足元から砂煙が吹き荒れ、拡散していく、
その時、木々に隠れていた鳥やリス等の小動物が散り散りに離れていく。何匹もの動物が現れては遠くに逃げていき…最終的にピタリと動物が現れなくなる。
二人は念のため、高速飛行しながら付近の木々を調べる。
動物は、一匹残らずその場から逃げ出していた。
「カール、おっけー!!」
れなが親指をたてる。カールは二大怪獣をそれぞれ蹴飛ばし、その勢いで空中に舞い上がる。
彼は空中でマグナムを構え、地上に向ける。対空しつつ全身の力を発動し、マグナムに力を注ぐ。
マグナムはオレンジと黄色の光を放ち、周囲を照らす。
「わりぃな…環境破壊させてもらうぜ!」
カールは引き金を引く。
凄まじい衝撃がカールを中心に周囲に流れ、燃え上がる弾丸が地上に直撃、大爆発が巻き起こった!
彼の力を込めた爆発だった。黄色とオレンジの二色の光が放たれ、ガンリュウゴとタタラガマの巨体がすぐに見えなくなる。
木々が倒れ、地面にはクレーターが発生。カールは飛んでくる石ツブテをかわしながら、地上に降り立った。
心苦しそうに、燃える森林を見つめる。
…その後、消防隊が駆けつけ、森林の炎は早急に消し止められた。
ガンリュウゴとタタラガマは、輸送部隊の協力で別の島へと送り込まれる事となったようだが、彼らの本来の住処は爆破によって住めなくなってしまった。
…良い結果とは言えないだろう。
「今回はありがとうよ」
カールは、尚もニヤリと笑いながられなとれみに手を振った。れなとれみは、複雑な表情を浮かべてる。
カールの笑顔は、どこかニヒルだ。何か冷たいものを抱えたような顔だった。
荒れ果てた森林に一通り目を通し、カールは言う。
「…だが、これから俺達組織を見ても決して関わるな。また嫌な思いしたくねえだろ?」
だが二人はこんな惨事を見ても、決して臆する事はなかった。むしろ二人の闘志はより強く燃え上がる。
そんな事ない、協力させてくれ。れながそう口にしようと歩み出たが…。
「おい、言う事聞けって」
カールは、マグナムを突き出した。足を止めるれな。
「喧嘩は、嫌いなんだよなぁ」
両手を頭の後ろで組みながら去っていくカール。
いつの間にやら、森林は黄昏に照らされていた。




