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90<彼の唯一>

前回のあらすじ

雲行きが怪しい

「矛盾はしてませんよ。災厄を倒すと俺せば欲しいものが手に入るのです。」


リサ「欲しい物ですか?」


「ええ、大切なモノを見つけられるんです。とても・・とても大切なものをね。」


リサ「・・・それは女性ですか?」


「何故、女性だとお考えに?」


リサ「なんとなくです。」


「そうですね。俺にとっては彼女は世界一尊い女性です。」


昔、似たようなやり取りをした黒髪紅眼の男がいた。その時の相手は金髪茶眼を持つ白ローブを纏った女である。


リサ「・・・・・・。」


「聖女様?」


リサ「受け答えまで全く同じ。貴方は本当に私が大嫌いで本当に憎たらしい殿方に良く似ていますね。まるで本人みたい。」


「うん?」


彼は太古の剣聖のように冷や汗をかいている。


モニカ「リサ姉の言っていることがわかるかもしれません。多分想像している人物も同じでしょうね。女の心を弄ぶ悪魔みたいな殿方でしたね。」


パトリシア「わ、わ、私はアイツのこと大き、き、嫌いだったけどね。何考えているかわからないし、どんな理不尽な目にあっても飄々としているし、何より私がおねだりしても迷惑そうな顔するし、剣聖の私より強いし・・・・妙に容姿が整ってるし・・・学がない筈なのに教養を感じることがあるし・・・あれ?」


リサ「・・・・。」


聖女は彼に無言で近寄る。


「聖女様?何故近寄ってくるんです・・・か?」


聖女は無言で彼の仮面を取り、じっと観察する。


リサ「フフフ・・・改めて見ると「相変わらず」綺麗なお顔。」


モニカ「・・・リサ姉、茶色い百合は海岸に生えるでしょうか?」


「?」


彼がモニカの発言の意図を考えている脇で、護衛達が腰を落とす。


パトリシア「それとも赤いハトは黒い夢を見るかな?」



「???」


**「「・・・・・!!!」」


彼が謎の会話に戸惑っている間に護衛達の手が懐に伸びる。


リサ「そうねえ。私は白いカラスは紅眼の黒竜を狩るのではなくその背で夢を見るだと思うわ。」


**「・・・!!!・・・・・。」


「?」


彼は気が付いているのかいないのか、リサのこの発言の瞬間、その場の緊張感が霧散し、護衛達はゆっくりと元の姿勢に戻った。


「皆さま、先ほどから発言の意味が・・・。お貴族様特有の何かの言い回しなのでしょうか?」


リサ「ジョンさん、何でもありませんよ。今の貴方は気にする必要は全くありません。」


モニカ「・・・・リサ姉、本当にいいの?十中八九・・。」


リサ「私達はこの村には休暇も兼ねて来ていますので、明らかな問題が起きていないのですから良いのではないでしょうか?どうですか?将来の王妃様?」


パトリシア「・・そうね。先程の事もあるし、今は事を荒立てることはないと思うわ。誰も得をしないわ。」


モニカ「・・・・。分かりました。ジョンさん。」


「はい、なんでしょうか?賢者様。」


モニカ「案内はここまでで大丈夫です。明日からは三人で適当に暇をつぶします。」


「そうですか。まあ、何もない所ですが、ゆっくりと過ごしてください。では自分はこれで失礼します。」


彼は足早に踵を返し、それを確認した後、茶髪と赤髪の令嬢は宿の方に向かって歩み始める。


パトリシア「リサ姉?」


モニカ「?」


リサ「二人は先に行ってて下さい。後から追います。」


モニカ「気を付けてね。」


リサ「心配いりません。」


リサは彼の後を追う。


リサ「ジョンさん。」


「・・・・!な、なんでしょうか?」


背後から声をかけられた彼は一瞬驚いた後、ゆっくりと振り返る。


リサ「・・・。」


「聖女様?宿はこちらではありませんが・・。」


リサ「ジョンさんは私のことどう思いますか?」


「それはどういう意味でしょうか?」


リサ「もし、私と貴方の立場が同じだったとしたら貴方は私にどういった評価をするのでしょうか?」


「そうですね・・・・。恐らく貴女様とは仲のいい友人になれると思います。例えば・・、俺が時々変なことを言って貴女様を怒らせ、冷たい土の上で正座でもさせられたりするんじゃないでしょうか?」


彼は無意識なのか優しい目をしている。


リサ「・・・!!・・・・・。それは・・とても幸せそうな光景ですね。」


リサは彼の顔を凝視している。


「させられる方は初夏でも結構足が冷えるんですけどね。アレ。」


リサ「まるで実際に正座させられたことがあるように言うのですね。」


「遠い昔にある友人の話を上の空で聞きながら適当な返事をしたら烈火のごとく怒られて、問答無用で正座をさせられました。」


リサ「・・・・。」


「あ、すみません。聖女様を見ているとその友人の事を思い出してしまいまして。どうも聖女様とその友人は眼がとても似ていまして。」


リサ「その方は今は・・・。」


「残念ながら既に亡くなっています。ええ、もう会うことは叶いません。」


リサ「貴方の言う尊い女性というのはその方の事でしょうか?」


「いえ、別の女性ですよ。」


リサ「・・・。そうですか。多分、その御友人は貴方の事を一人の男性として好いていたのではないでしょうか?」


「何故、そうお考えに?ただ、正座をさせられたっていうだけですよ?というかよく女性だとわかりましたね。」


リサ「女の勘という奴です。」


「そうですか。」


リサ「お引止めしてしまいましたね。」


「いえ、貴女様のおかげで幸せだった時の記憶を思い出せました。では・・。」


リサ「あ、最後に一つだけお伝えすることがあります。」


「なんでしょうか?」







リサ「メルドの孤児院の子供達には紅眼でスケコマシなお兄さんは旅に出たと伝えました。」







「・・・・!!!!!」


彼は目を見開いた。


リサ「・・・・。今なら前衛もおらず私を殺すのは簡単ですがどうしますか?」


「どうもこうもしないよ。戦うのは嫌いだからな。」


彼の口調が変わった。


リサ「・・・。」


「保留としていた先程の答えは村で訓練とさせてくれ。」


リサ「それがいいでしょうね。」


「今度会う時は味方は・・難しいと思うが、災厄を倒すまでは仲良く共闘できることを祈る。では。」


彼はリサに背を向け自宅に向かった。


リサ「・・・。絆されてはダメですよ。リサ。」


リサは己に暗示をかけるように呟いた後、自らも宿に向かって歩を進めた。


「誤魔化せたと思ったが・・やはりばれていたか。まあ、今は戦う意思はないようだから良しとしよう。災厄を倒せさえすれば勝ち逃げできるはずだ。問題はない。」


シンディ「・・・・。」


偶々遠目にシンディが歩いているのが彼から見えた。その表情はどこか暗い。


シンディ「!!」


彼女は彼と目が合った瞬間、逃げ出すように走り出した。


「そこまで気にしなくて良いんだけどな。というかむしろ感謝しているんだがな。」



宿の部屋内で3人がベッドの上でダラダラしながら雑談をしている。


パトリシア「なんでこんなところにいるのよ。というかあの剣の速度おかしいでしょ。何あの変な甲高い音。」


モニカ「ハァ・・ええ、今思えば戦わなくて正解でしたね。・・そういえばリサ姉は彼と何してたの?」


リサ「少し雑談をしていました。」


モニカ「そう?何か面白い事でもあったの?」


リサ「いいえ、大したことはありませんよ。」


パトリシア「ふ~ん?ところでリサ姉はいつ彼の正体に気がついたの?」


リサ「最初に怪しいと思ったのはトリシャへの返答ね。」


パトリシア「私?」

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