9<絶望の大鬼>
前回のあらすじ
彼の親友は変わり果てた姿で発見された。
先生「絶望の大鬼については諸説あるが、決定的な物が無い。」
「え?」
先生「絶望の大鬼は別名で文明の破壊者とも言われている。その名の通り世界中で暴れまわった事により歴史書の多くも焼失したと言われている。」
ショウジ「ああ、なるほど。」
先生「現存している記録によれば始原の加護持ちは早々に戦死し、その後、人類が追い詰められていく様子が生々しく記録されているので実在したのは間違いない。」
「その記録にはどの様な存在だったのか記述はないのですか?」
先生「記録自体はあるのだが統一性がない。唯一共通する特徴は赤い目を持ち白い剣を持っていたという記述だが、災厄が武器を使うのは考えにくい。」
「でも、鬼って言うことは人間に近い姿なのですよね?剣を持っていてもそこまで不自然じゃあ・・。」
先生「共通点だけを挙げればそこまでおかしくもないが、文献によっては体格が成人とほぼ同じという記述もあれば、別の文献ではその剣が魔法でできていて刀身が成人男性5人分の長さで大鬼自体は人間の3倍の体格あったとの記述もある。」
「後者は確かに体格の割に剣が不自然に大きすぎる気がしますね。筋力はどうにかなっても重心はどうしようもない筈ですからね。」
先生「ニノマエは・・そうか、兄が剣聖か。」
ワタナベ「・・・・。」
先生「さて、次の疑問としてこのような怪物をどうやって倒したかだが、始原の加護持ちがやられた後、人類は人柱を用意して大鬼の行動を観察することにした。最初の絶望である妖狐の時にならってな。」
「絶望の白狐の事かな?」
先生「具体的にはまず最初に闇魔法で剣を打ち消せないかを試した。」
「金属性の魔法って打ち消す意味あるのか?」
先生「普段授業を真面目に聞いているやつは分かったかもしれないが、金属性魔法で生成された物質は魔法では消せない。それでも試したのはどんなに攻撃してもその大剣は刃こぼれ1つおこさないことから魔法で修復し続けているのではないかと予想したわけだな。」
「刃こぼれしない刃物か。あったら便利かもな。」
先生「次に考えたのは魔法で遠距離から倒せないかという案だが、これもうまく行かなかった。」
ショウジ「何故ですか?」
先生「信じ難い事だが、大鬼は大量の攻撃魔法を全てそのたった一本の剣で打ち消しながら人類めがけて切りかかったという記録が幾つかある。」
ワタナベ「魔法って剣で打ち消せるのですか?」
先生「熟練した剣聖や勇者ならば専用のスキルで消せるが通常の方法では消せないとされている。」
「先生、そんな化け物をどうやって人類は倒したのでしょうか?流石にそこは記録に残っていますよね?」
先生「有名な一節だからそのまま暗唱する。
突如、空より一筋の黒い線が降りてきたかと思うとそこには成人大の黒い服を着たヒトが静かに立っていた。その黒きヒトは黒剣を構えたと思うとただの袈裟斬りを絶望の大鬼に向かって放ち大鬼をその大剣ごと両断、大鬼は再生せず消滅し魔石のみがその場に残った。黒きヒトの技は凄まじくその衝撃波だけで地面に大きな溝ができていた。
その御方は災厄を倒した後、その場に居た人間にとある言伝をして音もなく消え去った。
とある。」
「黒い神様と言うともしかして・・。」
先生「その黒い御方はマルモ様だと言われている。」
「マルモ神はなんと仰っしゃられたんでしょうか?」
先生「・・残念ながら何かを言ったということまでは複数記録があるが、その内容については記録が全くない。」
「どういう事でしょうか?不自然ではないですか?」
先生「そうだ。国の図書館に行けば分かるが、記録がないというよりはどの記録も悉く黒塗りされている。先生が確かめたのはこの国の文書だけだが他の国の同様の記録も消されていると聞く。」
「都合の悪い事でも言ったのかな?でも、神の言葉だぞ?人間が勝手に消していいのか?」
先生「過去の記録には時々、隠蔽や改竄の痕跡が見られる。一つの記録を鵜呑みにせず複数の記録を確認するようにな。」
ワタナベ「えっと、マルモ様が現れなければ人類は滅んでいたのでしょうか?」
先生「十中八九ワタナベの言うとおりになっていただろうというのが定説で、俺もそう考えている。」
「先生、災厄って大陸は超えないと聞いた事がありますが、最悪、人類が他の大陸に引きこもれば無害だったのではないでしょうか?」
先生「それがそうも行かなかった。世界中で逸話が残っていることからこの災厄は大陸を超えて移動したと言われている。」
「もしかして泳いだとか?」
先生「いろんな説がある。例えば氷魔法で足場を作ったとか、剣で海を斬り続けながら歩いたとか、ごく普通に金属性魔法で鋼鉄の小舟を作ったなどの説があるが、決定的な物はない。」
「そもそも絶望の大鬼はどのように現れたのでしょうか?」
先生「それについてこれから話そうと思っていた。絶望の大鬼に限らず災厄は幾つかの共通した状況になった時に発生しやすい事が知られている。皆は何か思いつくかな?先程答えの1つを言ったものもいたが・・。」
***「黒い霧。」
***「始原の加護持ち?」
***「百年毎?」
先生「結構知っているな。今誰かが言ったとおり災厄の発生に前には必ずと言っていいほど始原の加護持ちが神より選定される。1〜4人とその時により違うが、必ず勇者だけは発生する。後は、発生地としては黒い霧が溜まっている土地に発生しやすい。」
ここで一旦先生は言葉を止める。
ワタナベ「先生?どうしたのですか?」
先生「ここまでは少し詳しい者なら知っていただろう。今日の授業はこの先を伝えたい。」
ゴクリ
先生「災厄は必ず人の住む近くでナニカを中心として黒い靄が集まり発生する。」
「ナニカとは?」
もし気に入りましたら評価をお願いします。