89<紅眼の死神>
前回のあらすじ
あの休日に蚊帳の中がどうなっていたかが判明した。
聖女は一瞬だけ彼を凝視したが、彼はそれに気が付かなかったようだ。
パトリシア「もう、ジョンさんの意地悪〜。」
ソフィア「ジョンはこういう風にさり気なく酷いことを言うんです。正に女の敵よね。」
「なんてことだ。ここに案内したのは間違いだったか。敵だらけだ。」
モニカ「ジョンさん?何を言っているんですか?正解じゃないですか?このままソフィアさんに貴方のことを根掘り葉掘り聞かなくちゃ。」
「聞くにしても俺の居ないところでお願いしたい。流石に目の前で言われるといたたまれない。」
ソフィア「あら?本当にいいの?あることないこと喋っちゃうかもしれないわよ?」
ソフィアは楽し気に揶揄う。
「貴女はそんなことはしないだろう。」
彼は真面目な声で返答した。
ソフィア「!!」
ソフィアは静かに息を吸った。
パトリシア「・・・ソフィアさんの言うとおり、本当に女の敵ね。」
「酷い。俺が何をしたと言うんだ。ともかく外に出ています。店の近くには居ますので何かあれば呼んで下さい。」
リサ「・・・・。」
彼は店の前にあるベンチに腰を下ろす。
「ん〜、これ以上、案内する場所がないぞ?明日からどうしよう?」
遠くにいる護衛達の彼を見る視線が優しい。似たような経験があるのかもしれない。
「正直この村って唯のセレスタへの中継地点だから1日いや・・半日いればお腹いっぱいって感じだろう。」
彼はベンチの上で伸びをする。
「後は適当に村を見てもらおう。災厄に対峙するための努力をしている限りは俺もある程度、自由に動いていいはずだ。あ、この隙に今日のノルマをこなそう。」
彼は雑貨屋の前にある空き地に移動し、雪月白桜を引き抜き、斜め上に高く掲げる。
柄の端に逆の手を添え、右脚を前に、左脚は下げて、その膝を地面ギリギリまで落とし体重を乗せながら刀を素早く振り下ろす。
ギィイン!!!
といつも通り甲高い音が辺りに鳴り響く。
**「・・・・!!」
護衛達が息をのむ。
「これを連続で休むこと無く振り続けられないと勝負にすらならない。災厄ってのはどれぐらい体力があるんだろうな。」
彼は雑貨屋をチラリと見るがしばらく出てくる様子はない。
彼は再び雪月白桜を掲げ、再び振り下ろす。
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギ・・・・・・。
辺りに甲高い音が連続で鳴り響く。
彼はやがて疲労したのか少しふらつきながら素振りを停止する。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・。今ので半刻と行ったところか。全然駄目だな。これでは地面のシミになる未来しか想像できない。」
ザッ。
彼が息を落ち着けていると足音が背後からする。彼は音の鳴った方向にゆっくりと振り返る。
いつの間にか3人が無言で彼を眺めていた。
「えっと、この村で案内できる場所はこの雑貨屋が最後です。あとは御三方の気の向くまま観光頂くのが宜しいかと。楽しいと感じていただけるかどうかについては保証はできませんが。」
パトリシア「貴方なら紅眼の死神と真正面から打ち合えるかもしれないわね。」
「紅眼の死神?どういった存在かわかりませんが、なんだか物騒なお名前ですね。」
モニカ「私達が探している魔物の名前です。」
リサ「外見は黒髪紅眼の人間の男性の姿をしていて、物凄い剣の使い手です。」
「聖女様、その説明だけだと俺にはその存在が唯の剣術マニアに聞こえてしまうのですが・・。」
彼はあくまで惚ける。
リサ「一見ただの怜悧な美貌を持つ人物です。しかしながら其の者には神の加護がありません。」
「神の加護がないですか。多分そいつは前世かその前かで何かやらかして神様に嫌われたのでしょうね。可哀相に。」
彼は淀みなく返答する。
リサ「・・・・。」
リサは少し困惑した顔をしている。
「賢者様はそれを探していると言っていましたが、もし見つかったらどうするつもりですか?」
モニカ「そこが問題です。始原の加護持ち四人に王宮筆頭魔道士、王城の上級騎士を揃えても捕まえる事が出来ませんでした。」
「それはなんとも逃げ足の速そうな魔物ですね。」
パトリシア「しかもどうやら手加減をしていたみたいなのよね。多分殺そうと思えばあのときに始原の加護持ち一人二人ぐらいは仕留められたと思うの。」
「そいつには人類と積極的に戦う意思はないんじゃないですかね?俺が会ったわけじゃないので唯の予想ですけど。」
リサ「・・・それでも、人間に害を及ぼす危険性がある以上、野放しにすることはできないのです。」
リサは沈んだ声で告げた。
「・・・。そうですか。」
彼は仮面越しに真顔で聖女を観察する。
リサ「あ。ごめんなさい。」
「いえ・・。お気になさらず。」
彼は何かを確認するかのように三人を見回す。
「まあ、ともかくそう言った危険な存在がいるんですね。もし、俺が見つけたら脇目も振らずに逃げることにします。その後に騎士団に通報すれば宜しいでしょうか?」
モニカ「え?ジョンさんは戦わないのですか?」
「そりゃ最高の護身術は逃げることですから。まあ、守りたい存在が狙われたら戦うしかないですが、今の俺にはそう言った存在はいないので。」
モニカ「でも、ジョンさんは災厄には自分から挑むんですよね?矛盾してませんか?」
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