7<春の終わり>
前回のあらすじ
加護に代償はない。
「加護で覚えられる魔法の階級ってエト、無印、グランダ、グランデガの4段階だったよな?」
ワタナベ「ニノマエ君、中途半端に覚えているのね。グランデガは災厄しか使えないよ。人類では無理よ。」
「ああ、そうだった。エト〜グランダの三段階だな。」
ワタナベ「そうなるけど、金属性魔法は勇者は覚えないわ。あれはファリオ様の加護による生産職専用の魔法だから。」
「ありがとう。ワタナベさん。武器や魔法の属性とかは調べるよ。」
ヒデアキ「金属性も人間用は3種類あるんだっけ?」
ワタナベさん「ショウジ君。確か金属性は魔法自体は一種類だけど作れるものが人によって違うみたい。」
「ワタナベさんはよく覚えているな。」
ヒデアキ・ショウジ「俺達とは頭の出来が違うのかもな。」
ニノマエ「ほんとほんと、可愛い上に賢いんだもんな。反則だよ。」
ケイコ・ワタナベ「褒めても何も出ないよ。二人共。」
「そうか。景品は出ないのか。残念だな。ヒデ。」
ショウジ「ああ、とても残念だな。」
ワタナベ「もう!!」
「で、問題の物理スキル達だけれども・・これあってんのかな?」
ショウジ「教科書に書いてあるんだからあってるんじゃないか?」
ワタナベ「勇者や剣聖の専用スキルを除けばドゥオブロとムルトーブロしかないのよね・・。」
「まあ、武器ごとにあるから数だけは多いんだけど、なんというか・・。」
ショウジ「今度先生に聞いてみるか?」
そんなことを話していると鐘が鳴った。
ショウジ「って、もう閉門時間か。宿題自体は終わったから良いタイミングか。」
「そうだな。ヒデ、ワタナベさん今日はありがとな。」
ショウジ「おう。ニノマエ、ワタナベさんありがとうね。」
ワタナベ「それはこちらのセリフよ。2人とも。確かニノマエ君は途中まで私と同じ方向だよね?」
「ああ。確かそうだったな。」
ショウジ「っと、俺は先に帰るぜ。じゃあな。」
ワタナベ「うん。またね。・・で、ニノマエ君、私の言いたいことわかる?」
「じゃあな、ヒデ。う~ん。」
彼は少しニヤニヤしながら何かを考え込んでいる。
ワタナベ「ボケる必要はないからね。変なこと言ったら怒るからね。」
「・・途中まで一緒に帰ろうか。」
夕日が沈みかけ黒くなりかけた空の下、男女が連れ立って歩いていた。
ワタナベさん「そう言えば、昨日、私が知らない綺麗な女性と歩いてたよね?」
ビクっと彼は全身を震わせる。
「い、い、い、いや、あの女性は違うんだ。そういうのじゃないんだ。ただ、荷物持ちをさせられていただけなんだ・・。」
彼が言ったことは紛れもない真実ではあるが、それを他の人が信じるかどうかはまた別問題である。
ワタナベさん「荷物持ちなのに手を繋ぐのはおかしくないかな?かな?かな?」
「な、何で知ってるの?あれは勝手に繋がれたんだ。断ったのに無理矢理繋いできたんだ。本当なんだ。」
ユリ「あら、おぼっちゃま。その方はご学友の方ですか?」
誘拐犯が現れた。昨日の買い忘れだろうか 買い物袋を持っている。
ワタナベさん「あ、昨日の綺麗な人。えっと、貴女は・・・・。」
ユリはワタナベと彼を交互に見ながらニヤリと笑う。それは一見綺麗な笑顔ではあるのだが、どこか胡散臭い商人がするような表情であった。
ユリ「彼とはお付き合いさせてもらってます♪」
「ユリ姉!!付き合うの意味が違うよね!?昨日は買い物に無理やり付き合わせたよね?まさか、執拗に手を繋ごうって言ってきたのは・・・。」
ユリはいつものように彼の目の前で目薬をさす。
ユリ「あらあら、新しい女が出来たら年増女はポイっていうことですか、所詮はその程度の想いだったんですね。私には貴方だけだったというのに・・・グスグス・・・まあ、確かにそちらのお嬢様は可愛いくて若いですもんね。・・・グスグス・・・邪魔者は失礼します。・・・・。クスクス。」
明らかな嘘泣きをしながらユリは走り去っていった。
「ワタナベさん。今のは明らかに嘘泣きだったよね?わかるよね?ね?ほら?ね?目薬見えたよね?ね?」
彼は必死で身の潔白をアピールする。
ワタナベ「ニノマエ君。正座。」
「え?ワタナベさん?」
ワタナベ「正座。」
この後、彼は桜の花びらが散らばっている地面の上で正座をさせられた。寒い季節は過ぎ去っているが、さすがに夜になると地面が冷え少し寒いと思われる。
ワタナベ「ニノマエ君。女の子を泣かせたらダメなの。」
「あれは明らかに嘘泣き・・」
ワタナベ「嘘泣きでも泣かせた時点でダメなの。」
「そんなあ~。」
ワタナベ「だいたいね・・・。ニノマエ君は・・・・」
ワタナベの話は延々と続く。もはやその内容がユリとは全くの無関係な物となった頃、彼は飽きたのか、聞いているフリをしながら周囲を観察している。地面には桜の花びらが地面に残っており春の終わりを感じさせる。さて、そういえば先ほどから辺りが静かになっている。
ワタナベは彼を無言で眺めていた。
ワタネベ「ねえ、ニノマエ君、私の話ちゃんと聞いてる?」
彼はゆっくりと目の前のボブヘアの女の子を見据える。
「もちろんだよ。要は女の子には甘いもん食わせて適当な劇場にぶっこんでおけばいいという話だよね?」
彼が自信満々に宣言した瞬間、空間が凍った。
ワタナベ「貴方が私の話を全く聞いていなかった事だけは分かりました。ニノマエ君には教育が必要みたいですね。」
とても静かな声が彼女から発せられた。
「ヒ、ヒイ!!」
その後、怒涛の攻撃もとい口撃が彼を襲った。
ワタナベ「まずねニノマエ君はよそ見をし過ぎなのよ貴方の目の前には可愛い可愛い女の子がいるのだからそれに注目するべきだわ貴方が入学式に脳貧血で倒れそうになったボブヘアの女の子を助けたのは称賛されるべきことだと思うけどその後がいけませんその女の子は必死にアピールしているのに先生に押し付けようとしていたのは分かっていますよでも残念でした私はあきらめが悪いのですクラスの女の子も貴方の横顔をポーとみていることがあるしモモコも怪しいしともかくニノマエ君はそういつもしかめっ面をするべきなのよあとそうそうショウジ君に私を押し付けようとしているけど大迷惑だからあんな私の胸元ばかり見る男の子よりも飄々としながらも実際に助けてくれる人の方が良いからでも鈍感な振りをするのは大減点ねともかく・・・・・・・・・・・以下略。」
「うう。酷い目にあった・・・。」
数時間後、彼はどうにか帰宅し自室で赤くなった膝を摩っていた。
「それもこれも全部あの腹黒割烹着のせいだ。」
**「へ~、腹黒割烹着って誰の事です?」
彼の独り言には反応するように返事が返ってきた。
「そりゃもちろんユリ姉の・・・うん?」
**「うう、ケイゴさま、おぼっちゃまが虐めてきます~。」
いつの間にかユリ姉とケイ兄が部屋にいた。
「ノックぐらいして欲しいんですけど。ケイ兄、ユリ姉。」
ケイゴ「・・・飯だ。」
ケイゴはユリに抱き着かれながら告げる。
「はいはい。今行きますよ~。」
ユリ「お坊ちゃま、何か言うことはないのですか?」
「何か。」
彼は著しく不機嫌なようだ。
ユリ「ケイゴ様~。ヨヨヨ。」
ケイゴ「・・・コホン。先に行っててくれ。俺にはユリを慰める必要がある。」
「具体的に何するかは聞かないけど、俺の部屋は汚さないでね。ケイ兄に乙女なユリさん?」
ケイゴ「余計なお世話だ!!さっさと行け!!」
彼は兄の言葉を背に受けながら食卓に向かう。
ケイゴ「で、どうであった?」
剣聖は彼が立ち去ったのを確認してから静かな声で尋ねた。
ユリ「約束は取り付けました。後日詳細を詰めていく予定です。先方も乗り気の様です。」
対するユリも普段とは異なる真面目な声色で返答する。
ケイゴ「それは良かった。君には苦労をかけるな。」
ケイゴはユリの髪を愛撫する。
ユリ「そう思うのでしたらご褒美を頂けませんか?ケイゴ様♡」
ケイゴ「じゃ、一回だけな。」
ユリ「はい♡」
そのまま布が擦り切れる音が部屋に響いた。
食卓には3人分の夕飯が置いてある。彼の父と母は今日は不在のようだ。
「おやおやおや~、卵焼きがあるじゃないか~。む?ケイ兄の奴は少し色つやが違う気がする・・。」
彼は戸の方に視線を向ける。
「しばらくはお楽しみ中か?ならば・・・剣聖よ、油断したな。フフフ。」
この日、彼はとてもおいしそうに夕飯を食べた。
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