41<王子様>
前回のあらすじ
赤髪の幼馴染に絡まれた。
パトリシア「何よ。」
「俺は学校に行ったことがないから分からないが、それは教育ではなく唯の選別作業ではないか?俺にはそう聞こえる。少なくとも高い学費を払ってまで行きたい所だとは思えない。」
パトリシア「・・・・・。確かにそうかもしれないわね。」
「話しを脱線させてしまったな。そもそも戦闘訓練の一環なのに何故護衛を使えるんだ?まあ、資金力も戦闘力の内と言えばあながち間違ってはいないのだろうが。」
パトリシア「建前上は学生が自力で切り抜け、護衛はあくまで緊急時の保険という扱いだけど、形骸化していて、女子の間では護衛の自慢大会みたいになっているわ。」
「そういう目的ならば繰り返しになるが俺は不適当だな。孤児なんかじゃなくて騎士の一人でも雇ったらどうだ?見栄えもそちらの方が良いだろう。」
パトリシア「お金がないの。」
彼は周囲を見回す。遠くでは庭師のオジサンがこちらを時々チラ見しながら生け垣を整えている。少し離れた場所では侍女が何人か控えている。更に遠くには先ほどまで乗っていた質の良い馬車が見える。
「お金がない?」
彼は心底不思議そうな顔をしている。
パトリシア「正規の騎士は雇うのが大変なの!」
「そうかい。まあ、孤児なら安くつくだろうな。」
彼はこれ以上聞いても無駄だと思ったのか話しを終わらせた。
「で、その課題はいつだって?」
パトリシア「一か月後。」
「そうか。では一月後、この豪邸の玄関の前に来れば良いか?俺がこの場にいるのが気にいらない人達だらけみたいだし。」
先ほどから時々使用人達が彼に不躾な視線を送っている。
パトリシア「待って、私に剣を教えてくれない?」
「え?」
彼は目を見開き驚いている。
「なぜ俺が剣を使えると思った?この刀は単なる護身用の飾りかもしれないぞ?」
パトリシア「そ、そ、それはあの受付嬢から聞いたからよ。」
彼はパトリシアを無言で観察する。
パトリシア「な、何よ。」
パトリシアは彼に見つめられ落ち着かないのか、前髪を整えている。
「まあ、そういうことにしておこう。俺の剣だが技術的には大したことはない。教えることはない。」
パトリシア「どういうことよ。」
「その様子だと君は具体的に俺がどんな剣を使うかは知らないんだな。」
パトリシア「もったいぶらないで教えてよ。同じ孤児院の仲間でしょ?」
「・・・。」
パトリシアのセリフの最後辺りで一瞬だけ彼の雰囲気が冷たいものとなった。
パトリシア「え?」
「・・。俺の剣術はただの袈裟切りと補助的に居合切りをするってだけだ。君がどんな剣術を使うかは知らないが技術的には恐らく既に知っている筈なんだ。」
パトリシア「貴方のセリフじゃないけど、どうして私が剣を使うと?」
「体重移動が滑らかなこととから良く運動をしている事と予想される。後は今この場において紅眼の得体のしれない男がいるというのに君の護衛がそばにはいない。かといって使用人たちに疎まれている様子もない。恐らく君自身に何かしらの戦闘の心得があるのだろう。そのうえで俺に剣を教えてくれと言ってきた。そこから推測した。」
彼の視線はパトリシアを観察するように動いている。無表情ではあるが。
パトリシア「ジロジロ見て・・変態!!!」
現在の彼女の格好は緑のローブを脱いで白いシャツとホットパンツに黒パンストとかなり煽情的な恰好をしている。
「自意識過じょ・・・・コホン。君は俺の好みからは完全に逸脱している。世界が滅亡したとしても俺が君に欲情することはあり得ない。安心しろ。」
パトリシア「な、な、何様よ!!この変態!!!」
パトリシアは顔を赤くしている。
「話しならんな。・・まあ、変態でも何でも良い、で、どうなんだ?俺の予想はあってるか?」
パトリシア「少しだけ剣を習っているわ。」
「それなら俺の指導は不要だろう。君のお師匠さんにも失礼だしな。」
パトリシア「で、でも、一回だけで良いから貴方の剣を見せて欲しいのよ。・・ほら・・・えっと・・・あ!・・護衛としての能力を確認したいし・・。」
「平場での剣舞と咄嗟に行動できるかどうかはまた別な気がするが、まあ、君の言う事も一理あるか。」
パトリシア「じゃあ・・・。」
「分かった。いいぞ。後で披露しよう。」
パトリシア「うん。」
「ところでセドリックはどうしたんだ?多分同じ学校だろう?彼も貴族に引き取られたとか言ってた気がするし。協力しあえばいいんじゃないのか?」
彼は依頼の話がひと段落したと判断したのか金髪の幼馴染のその後について尋ねた。
パトリシア「・・・・。」
「もし言いたくないなら無理には聞かないぞ。唯の興味本位の質問だからな。」
パトリシア「貴方は知らないわよね。彼ってこの国の王子様だったの。」
「・・!?・・そうだったのか。」
彼は流石に驚いたようだ。
パトリシア「彼の本当の名はセドリック・ユベラージョイ・セレスタ様。私が気軽に話しかけてはいけない方だったの。」
「直接、本人から話しかけない様に言われたのか?」
パトリシア「ふぇ?・・うん。それに彼は高位貴族令嬢を複数侍らしていて、もう、私が話しかけても反応してくれないの。」
「・・・そうか。悪かったな。嫌なことを言わせてしまった。まあ、学園にはいい奴もいるだろう。彼に固執する必要もない。」
パトリシア「・・・・。」
「パトリシア?さ、約束の剣技を披露しようか?早い方がいいだろう?」
パトリシア「うん。お願い。」
善行度+50
彼は刀を斜め上に高く上げ、柄の端に逆の手を添える。
「構えはこんな感じ。」
パトリシア「妙に高く掲げるのね?」
「まあな。防御を捨てた剣だからな。」
彼は利き腕側の脚を前に、逆側の脚は下げて、その膝を地面ギリギリまで落とし体重を乗せながら刀を素早く振り下ろした。
キン!という音があたりに響いた。
女神には及ばないが、女神と同様に刀をどこにも当てずに甲高い音を出せるようになった。
パトリシアは彼を凝視している。
「パトリシア?どうかしたか?」
パトリシア「・・うん。何でもない。」
「次に抜刀術を披露する。」
彼は刀を腰の利き腕とは逆の位置に差し、利き腕で柄を親指が刃先に近くなるように握った。
パトリシア「普通の構えね。」
「まあな。さて構えたらこんなふうに振る。」
彼は体を前方に倒しながら、利き腕と同じ側の脚を前に踏み込みつつ、素早く剣を片手で振り上げた。
キン!という音があたりに響いた。
こちらも女神には及ばないが、甲高い音が出せるようになった。
「パトリシア?どうかしたか?」
パトリシア「・・!!・・うん。な、何でもないよ。」
パトリシアはやはり彼を凝視している。
「ともかくこれで俺の剣技は全てだ。護衛として合格か?もし不合格なら他を当たってくれ。」
彼は雪月白桜を静かに鞘に納める。
パトリシア「ふぇ?・・ご、合格よ。」
「そうか。では1月後だな。」
パトリシア「え?」
「ああ、言い忘れてたが報酬は後払いでいいぞ。じゃあな。」
彼はパトリシアの返事を待たずにその場を後にした。
パトリシア「・・・・。釈然としないわね。この可愛い私がお願いしてあげているのよ。なんであんな淡白な反応なのよ。」
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