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40<不自然な依頼>

前回のあらすじ

超絶美少女リサ・サンクトゥーロさんは聖女様だった。

先程から彼の隣で声がする。流石に気になったようで彼はそちらを向く。


「ん?」


彼の目の前には赤髪茶目の少女がいた。深緑色のローブを被っている。地味だが品は良さそうなローブである。恰好から判断するに恐らく裕福な平民かお忍びの貴族の御令嬢だろうか?


赤髪の少女「・・・・え?」


その少女は彼の顔を見て絶句している。


「赤髪?・・・ああ、パトリシア?か?何の用だ?」


彼はうろ覚えだったのか疑問形で相手の名前を告げた。


赤髪少女「アナタ、同じ孤児院に居た・・・よね?」


彼女は少し混乱した様子で返答をした。


「・・・。多分な。で、何の用だ?化けネズミでも食いたくなった・・・・はないよなあ。多分。」


パトリシア「・・・。」


パトリシアは黙り込んでいる。


「どうかしたか?」


パトリシア「・・・。貴方、そんな人だったかしら?」


「君が俺をどう認識しているかは知らないが、大して変わったつもりはない。そもそも、俺がどうこうは君にとってはどうでも良い事だろう。で、ご要件は?」


パトリシア「・・手伝ってほしいの。」


「何をだ?」


パトリシア「学校の課題。」


彼女は現在、貴族の養子で15歳という立場である。この国では貴族は王立のセレスタ貴族学園に行くことが義務付けられている。


「まともに教育を受けていない俺に学があると思うか?俺に頼むのは完全に人選ミスだと思うぞ。魚は陸上を走ることはできない。」


パトリシア「座学ではないわ。実習に付き合って欲しいの。」


彼は少し考え込んでから質問をする。


「具体的にはどの様な実習なんだ?君の言い分だと外部の人間でも手助けはしても良いみたいだが。」


パトリシア「チエロ近郊で洞窟探検の実習があってグループを作って探検するんだけど、私元孤児だから誰も手伝ってくれなくて・・。」


「洞窟探検?」


パトリシア「うん。」


パトリシアは縋るような表情をしている。


「君は俺に具体的に何を求めているんだ?もし護衛が必要だったら騎士とかを雇ったほうが良いんじゃないか?彼らは強いぞ。」


パトリシア「貴方はあの周辺の洞窟に何度か行ったことがあるって受付の方から聞いたけど。」


彼は受付嬢のほうに視線をやる。


受付嬢「・・・ふん。」


その胸元にはセリスと書いてある。


「プライバシーもへったくれもないな。ああ、君の言う通りだ。確かに俺は何回か行ったことはある。」


パトリシア「道案内をしてほしいの。」


「道案内はできるが・・あの近辺は洞窟によっては魔物が出る。魔物が出た場合は俺一人ならどうにか逃げられるとは思うが、誰かを護衛しながらというのは流石に自信はないぞ。」


パトリシア「ねえ、ダメ?」


パトリシアは少し媚びるような声色でなおも懇願する。


「・・・・。・・・ふう。」


彼は一瞬だけ顔を手で覆った。手の陰で嫌そうな顔をしていたがパトリシアには見えなかったようだ。


パトリシア「?」


「君の要求は俺がその洞窟の道案内および道中の護衛をすること。それだけか?」


パトリシア「うん。引き受けてくれる?」


「・・・・。道案内だけならば引き受けよう。だが、護衛に関しては別に専門家を雇った方が良いだろう。それこそ君の安全を保障できる立派な人物をな。」


パトリシア「む~。初対面の人は怖いの。その点貴方なら変なことはしないでしょ?」


「・・・・・。」


彼は無言でパトリシアを凝視する。


パトリシア「ねえ?なんか言ってくれない?」


パトリシアはしきりに髪を触っている。


「・・・はあ。君が何を考えているか知らんが、引き受けよう。」


彼はギルドの窓の方を一瞥してからパトリシアに答えた。


パトリシア「え?本当にいいの?」


「ああ。詳しく聞きたいから落ち着いたところに移動しないか?貴族令嬢と孤児の会話は格好の暇つぶしになっているみたいだからな。」


いつの間にか俺達は注目されていた。


ざわざわ


パトリシア「じゃあ、私の屋敷に来ない?」


「・・・・。分かった。」


彼は一瞬だけ怪訝な顔をしたが了承の意を示した。


パトリシアに連れられ彼は町中に止められた大きな馬車の前に立つ。


「随分と質が良さそうな馬車だな。」


彼の視線は馬車の足回りに向けられている。


パトリシア「そう?地味じゃない?」


パトリシアは口ではそう言っているが何処か自慢げである。


「板ばねとゴム製のタイヤがついていて、あの円柱型の部品はエアダンパーか?軸受も摺動型ではなく転がり軸受か?ともかくよく寝れそうな馬車だ。」


御者が興味深そうに彼の言葉を聞いている。


パトリシア「え?え?え?」


「・・・・。今のは俺が悪かった。気にしないでくれ。」


彼は馬車の扉を開ける。


「・・・・。ほら。」


彼はパトリシアに手を差し出す。


パトリシア「・・・・・。えっと・・・。」


パトリシアは彼の手を見ながら何か躊躇っている。


御者「・・・・。」


御者は無言でやり取りを見守っている。


「・・・。ああ、密室では俺と二人きりにはなりたくないか。ならば俺が御者台に座ろう。」


彼は馬車から降り、御者の隣に座る。


パトリシア「え?」


御者「・・・・。」


「御者さん、良いか?」


御者「ああ。構わない。」


パトリシア「・・・・。む~。なんか釈然としない。」


パトリシアは不満そうな顔をしていたが、結局、馬車の中に一人で入った。


それから数時間後、彼はパトリシアに連れられ貴族の庭園で優雅に紅茶を飲んでいた。男爵とのことだがかなり裕福な家に見える。お手伝いさんも沢山いるようだ。高位貴族はこれよりももっとすごい豪邸に住んでいるのだろうか?


パトリシア「ねえ。」


「なんだ?」


パトリシア「貴方どこでテーブルマナーなんて習ったの?しかもかなり格式高いやつ。」


千年前のハルモニーオ国の庶民のマナーはいつの間にか国を超えて随分と格式高いものになっていたようだ。


「どこでも良いだろう。さて課題について話そう。君にだって用事があるだろう。」


パトリシア「・・・。チエロ近郊に洞窟が複数あるのは知っている・・よね?」


「ああ。」


パトリシア「その中で一番大きな洞窟で最深部まで行って証拠を入手して入口に戻ってくるっていう課題なんだけど・・。」


「あの洞窟か。魔物がよく出る所だな。」


パトリシア「・・・・。うん。だから・・・。」


「さっき聞いたな。だから護衛が欲しいのだな。」


パトリシア「うん。」


「依頼内容の大筋はわかったが、幾つか教えて欲しい。」


パトリシア「何を?」


「この課題の目的はなんだ?唯の度胸試しか?護衛を雇う練習か?目的によっては護衛の仕方に制限が課されるかもしれないからな。一応確認したい。」


パトリシア「この課題は戦闘授業の一環なの。」


「戦闘ね。加護の判定の前にそんな授業があるのか?」


パトリシア「皆、家で家庭教師から戦闘訓練を幼少期から受けていて加護の判定を待たずに自分の適性がある程度わかっていて、それに応じた訓練をしているの。でも私は・・。」


「ストップストップ。あまり細かい事は言わなくていい。誰が聞いているかわからない。弱みになるかもしれないから君の事情はそれぐらいでいい。」


パトリシア「・・・うん。」


もしかしたら彼女はもっと聞いてほしかったのかもしれない。


「俺は君の友人ではない。あくまで一時的な雇用関係ってだけだ。詳細は友人にでも漏らしてくれ。」


パトリシア「むう。」


「話を戻すが、学校ではどんな授業をしたんだ。流石にそれありきの実習だろう?まさか学園が家庭教師に頼りきりってことはないだろう。」


パトリシア「ただ生徒どうしで模擬戦をさせて強さの順位をつけてそれがそのまま成績になるだけよ。みんな何かしらスキルを使えるの。」


「・・・・ケイ兄はまともな方だったみたいだな。」


パトリシア「え?」


「何でもない。戦闘用のスキルがない場合はどうしているんだ?」


パトリシア「どうもこうもないよ。成績が下位になるだけよ。」


「教師は何も指導しないのか?武器の構え方とか振り方とか魔物からの逃げ方とか。」


パトリシア「ただ戦闘用のスキルを生徒の前で自慢気に撃って偉そうに講釈垂れて終わりよ。」


彼は何かを言おうとしてやめた。

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