26<善行度>
前回のあらすじ
彼は女神にナンパをした。
「ですが?」
女神「貴方は今世でも前世と同様にルーミオ様やマルーモ様、ファリーオ様の加護がありません。」
「・・・そうですか。」
彼は視線を落として答えた。
女神「そして恐らく次の生でも成人後の貴方が名で呼ばれることはないでしょう。つまり人間たちの意識は前回とさほど変わっていません。」
「・・・・・。」
女神「それらは貴方には全く非はなく、人間たちの愚かな風習のせいです。」
彼は目線を下げている。
女神「加護がなくても名前がなくても貴方は歴とした人間です。魔物ではありません。貴方は世界に必要な存在の一人なのです。存在して良いのです。」
彼は顔を上げた。
女神様はその大きな胸に押し当てるように彼を抱きしめた。辺りには彼女の甘い香りが漂う。
女神「ここには私以外は誰もいません。貴方がどんな表情をしていても見る人はいません。」
「う・・・。あ・・・・。」
女神「本当に辛かったですね。」
女神はそう言いながらまるで幼子に接するように頭を撫でる。
女神「よく頑張りましたね。」
「!!!」
女神「私にだけはいくらでも甘えていいんですよ?」
「女神様・・。」
彼からは見えないが女神の目元は髪の毛で陰になっておりその口は弧を描いている。
女神「感情に整理はつきましたか?」
「恥ずかしい所をお見せしました。おかげさまで・・。」
女神「それは良かったです。」
女神は花が咲くような笑顔で彼を見ている。
女神「もし、私で良ければ貴方に名前を与えたいのですが良ろしいでしょうか?」
「女神様がですか?本当に良いのですか?」
女神「条件付きでなら可能です。」
「条件ですか?」
女神「私が許可するまで人間にこの名前を知られないようにして欲しいのです。もし何か名乗る必要があったときは偽名を使って欲しいのです。理由は・・・出来れば聞かないで欲しいのです。」
「分かりました。俺に名をいただけますでしょうか?」
女神「・・・・。随分とあっさり了承するのですね?」
「貴女を困らせたくない・・いや・・何故か貴女の事は完全に信じられる・・いや・・これも違うな・・なんでだろう?多分、単純に俺は貴方に名前で呼ばれたいんだと思います。」
女神「クスクス。そうやって何人の女の子をひっかけてきたんですか?」
「な・・・!!心外です。」
女神「・・・・。今はそういうことにしておきましょう。さて、貴方の名前はノベロです。」
「ノベロ?初めて聞く単語ですが、どういった意味なのでしょうか?」
女神「古代語で高貴な物という意味です。」
「意味は偶には使いそうな単語なのに聞いた事がない。どういうことだ?」
女神「これはとある事件がきっかけで辞書から失われた言葉です。」
「その事件も気になりますが・・、まあ、それよりも高貴な物というと正直、名前負けしているような・・。」
女神「これは貴方にこそ相応しいのです。受け取ってくれませんか?」
女神の言葉にはどことなく切実な響きが混じっているように聞こえる。
「・・・・。謹んで御受け致します。」
女神「ありがとう。ノベロ。」
彼はポーと女神に見惚れている。
女神「どうしました?」
「名前で呼ばれるって嬉しいものなんですね。」
女神「ええ。そうですね。本当に。」
「特に貴女様のような素敵な女性に言われると勘違いしてしまいそうだ・・・。」
女神「クスクス。勘違いしても良いんですよ?」
女神はへその下をさすっている。
「ん、ん・・コホン。俺に伝えたかった事は以上でしょうか?」
彼は女神に見惚れていたのを誤魔化す様に告げる。
女神「あら、残念ですね。・・・幾つかあります。」
女神が再び凛とした雰囲気になった。
女神「今世でも貴方は恵まれた人生とはならない可能性が高いです。多くのことを諦めなければならないでしょう。それでも敢えて伺います。今、貴方がしたいことはありますか?」
女神が何を考えているかは予想できないが、敢えて辛い事実を伝えたようにも聞こえる。
「そうですね。敢えて言うならば、あの狐にもう一度会いたいですね。そしたら今度は名前で呼んであげたいんです。」
女神「・・・・・。」
女神様は先程と同じくへその下を無言で擦っている。
「彼女の名前も決めていたのですが結局、一度も呼ぶことができなかったので。」
女神「・・・・。非常に申し上げにくいことですが、その狐は貴方と同じタイミングでは現世には転生しません。貴方が次の生で地上で会うことは叶いません。」
「そうですか。」
彼は先ほどと同様に自然と足元を見ていた。
女神「ですが、貴方に覚悟があれば貴方の死後に再会することは叶います。」
俺は顔を上げた。
「何をすればそれは叶いますか?なんでもやります。」
女神「・・・・。善行です。」
一瞬、女神様の表情が曇ったように見える。
「ゼンコウ?」
女神「できるだけ多くの人間の助けとなる行動をとって下さい。」
そう言いながら女神は彼に手をかざす。
女神「恐らく貴方の脳裏に数字が現れたと思います。」
「はい。確かに0という数字が視界の中に見えます。」
女神「人間を助けるたびに数字が増えていきます。善行の度合いによっては一気に多く増える可能性もあります。」
「善行・・・か。」
女神「その数字は死後我々神による評価の対象となります。高ければ高いほど難しい願いを叶えることができます。貴方の願いの場合は100万が境界となります。本来地上の生き物には見ることが出来ない値ですが、貴方の場合は特例で見えるようにしました。」
「この数字は減ることはあるのでしょうか?」
女神「はい。貴方の行いによっては下がったり負の値になる可能性もあります。」
「具体的に善行とは何でしょうか?例えば俺が傷つき倒れ死にそうな人間に治療を施し食料を分けた場合、一般的には善行なのでしょうが、もしその助けた人間が未来で大量殺人を行ってしまった場合、俺は果たして善行をしたと言えるのでしょうか?」
女神「貴方の責任は善行を行う瞬間までです。助けた人間がどう行動するかまでは責任を取る必要はありません。」
「わかりました。」
女神「時には貴方につばを吐きかける人間を助けないといけない場面もあるでしょう。善行はあくまで行動のみで判断されます。その時の貴方の心は自由です。あと、人間の中には当然貴方自身も含まれます。」
「それはとても助かります。」
女神「お伝えしたい事は以上ですが、私から貴方にプレゼントがあります。」
「なんでしょうか?」
女神「貴方は神の加護が全く無い最弱の人間として生まれます。」
「冷静に考えると危ないですね。」
女神「もし貴方が望むなら私がこの場で剣の使い方を教えます。訓練する時間迄はありませんが、使い方を知っているだけでもだいぶ違うはずです。」
「是非お願いします。」
女神様は彼の言葉を受け片腕を体の前に持っていきそのまま横に払った。
ブオン。
妙な音がしたと思うと彼らは空の上から草原の上に移動していた。
「これは・・?」
女神「空の上だと味気ないですので風景を変えました。あとこれをどうぞ受け取り下さい。」
女神はそう言いながらひとふりの白い刀を差し出す。
「これは生前俺が使っていた刀にとても良く似ていますね。」
女神「それは訓練用の刀です。貴方の愛刀がどの様な刀かわかりませんが偶然だと思います・よ。」
彼女の言葉は少し歯切れが悪かったが、彼はあまり気にしなかったようだ。
「ありがとうございます。女神様。」
女神「クス。では、早速刀の握り方から教えましょう。」
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