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24<彼の名>

前回のあらすじ

彼は強かった。

ケイゴ達は『彼』が白い狐と度々、買い物に行っていた町の一つに立ち寄る。


町民「剣聖御一行様?化け物は倒せたのですかな?」


ケイゴ「その化け物に関して、町長と話をさせてほしい。案内頼めるか?」


町民「あ、はい。」


町長「それは何と言ったらよいのか。」


石造りの建物の中、ケイゴと髭を生やしたオジサンは対するように木製の椅子に腰かける。


ケイゴ「供養の意味も兼ねて彼とあの白い狐が忘れられることがないようにしたいのです。報酬は大した物は用意できませんが。」


町長「分りました。ところで、その狐の性別は分りますでしょうか?」


ケイゴ「性別?恐らく雌だったと思うが確証が持てない。誰か分るか?」


ケイゴの後ろに立つ兵士達は一様に頭を捻っている。


町長「もし、分らないのでしたらメスということにさせてください。」


ケイゴ「それは何故?」


町長「いつの時代も男女の話というのは一定の人気がある物語となりやすいので。」


ケイゴ「分りました。」


町長「細かいところは町内で相談しようと思いますが、決して尊厳を貶めるようなものにはしないと約束します。」


ケイゴ「ありがとうございます。」


町長「黒髪紅眼の御方は何か好物とかありましたか?出来ればそれも取り入れたいと思いますので。」


ケイゴ「確か桜の木を良く眺めていたな。あとは卵焼きが好きだったな。」


ケイゴは懐かしいのか少し穏やかな顔をしている。


町長「これは是非取り入れないといけませんな。」


ケイゴ達はその後幾つかの村や町で同様のお願いをした後、ハルモニーオに帰着した。


ユリ「ケイゴ様!!!」


ケイゴを玄関先で迎えたのは少し年老いたユリであった。


ケイゴ「只今。ユリは変わりないか?いや、少しやせたか?」


ユリ「ええ、ええ、・・グスグス。」


ユリはケイゴに抱きつきながらケイゴの服を濡らす。


ケイゴはそんなユリの髪を愛撫する。


ユリ「あ・・・。」


ケイゴ「全部終わった。落ち着いた場所で詳しく話をしたい。」



ユリ「彼は人間だったのですか。」


ケイゴ「ああ。」


ユリ「このことは何方が知っているのでしょうか?」


ケイゴ「あの場にいた者達が母国でどのように報告するかは知らないが、彼らを除けば少なくとも帝様そして君は知っている。途中立ち寄った村等では詳細は伏せた。」


ユリ「カズマには知らせますか?」


ケイゴ「迷っている。俺はいつか伝えたいと思っているが、アイツは叔父が魔物扱いとなり何かと苦労をして育った。今更蒸し返すのも憚れるとも考えている。君はどう思う?」


ユリ「しばらく伏せた方が良いと思います。」


ケイゴ「そうか。そうだな。遺言にとっておくか。」


ユリ「もう、寂しいこと言わないでください。後は・・幾人か彼と縁があった人物がいますが、それらについては私にお任せ下さいませんか?」


ケイゴ「ショウジの所とかか?」


ユリ「はい。」


ケイゴ「恐らく君の任務にも関わるのだろうからそのあたりは任せるよ。」


ユリ「ありがとうございます。あと、その、ケイゴ様、久しぶりですので、その・・。」


ユリは胸元をはだけさせながら濡れた瞳でケイゴを見る。


ケイゴ「君は何歳になっても可愛いな。おいで、ユリ。」


ユリ「はい♡」



ユリ「スー、スー、スー・・」


ケイゴ「ありがとう、ユリ。気が紛れたよ。」


ケイゴは隣で寝ているユリに服を着せながら話しかける。


ケイゴ「思えば君にも苦労をかけたな。君はただ命令されただけだ。必要以上に気に病む必要はない。」


ケイゴはユリに布団をかける。


ケイゴ「お休み。ユリ。」


ケイゴはユリの頬が濡れていることに気がついていた様子だがそれを指摘することはなかった。



黒髪のボブヘアの女「お久しぶりですね。ユリさん。」


数日後ユリは木造の建物の一室、畳の部屋で彼の元クラスメートと正座をしながら向かい合っていた。


ユリ「そうですね。面と向かって話すのは5年ぶりぐらいでしょうか?」


ケイコ「フフ。ところで本日はどういった御用で?世間話という様子ではなさそうですが?」


ユリ「『彼』について知らせたいことがありまして。」


ケイコ「『彼』ですか?」


一瞬だけケイコは顔を顰めた。


ユリ「『彼』は死にました。」


ケイコ「・・・・!」


ユリ「ケイゴ様によれば戦闘後、ルミオ様が顕現され『彼は人間だった。』と告げられたそうです。」


ケイコ「そんな事って・・・。」


ユリ「正直、伝えるべきか迷いましたが、貴女には真実を伝えた方がいいと思いまして本日はお時間を頂きました。」


ケイコ「・・・・・。」


ユリ「・・・・・。」


ケイコ「彼の最期は・・」


ユリ「白い狐を守っていたそうです。」


ケイコ「狐?」


ユリ「ケイゴ様の眼には彼の家族の代わりに見えたそうです。彼の最後のよりどころだったのかもしれません。」


ケイコ「・・・・。」


ユリ「その狐を半ば事故のような形で殺害してしまい、彼がそれに激高し黒い霧が彼にまとわりつき災厄となったそうです。」


ケイコ「・・・・。」


ユリ「ルミオ神によれば彼と狐に何もせず放っておけば彼は人間のまま生を終えれただろうとのことです。」


ケイコ「・・・ニノマエ君・・・。・・・!!・・・ユリさん、申し訳ないですが・・。」


ユリ「そうですね。私はお暇します。」


ケイコ「・・!!・・!!・・ごめんなさい。ごめんなさい。・・ニノマエ君・・。」


テルーオ歴5043年3月13日


ユリ「ゴホゴホ。」


ケイゴ「ユリ、水だ。」


ユリ「ありがとございます。」


ケイゴ「今年もそろそろ咲きそうだ。」


ユリ「私はあと何回貴方様と桜を見ることが叶うでしょうか?そろそろお迎えが近いのでしょうか。」


ケイゴ「寂しいことを言わないで欲しい。」


ユリ「ケイゴ様が大好きだった長い黒髪もとっくの昔に白くなってしまいましたし・・。」


ケイゴ「!?」


ユリ「あら?ケイゴ様の珍しい表情が見れました。長生きはしてみる物ですね。」


ケイゴ「どこでそれを知った?」


ユリ「大昔、あの「人」が教えてくれましたよ。学校で女子生徒に好きな女性の特徴を聞かれて鼻の下を伸ばしながら答えていたと・・・クスクス。」


ケイゴ「アイツめ。卵焼きを取り上げるべきだったか。」


ユリ「今なら素直に思えるんです。あの時期は楽しく幸せだったと。」


ケイゴ「そうだな。アイツがいて君がいて、両親がいて・・・。」


ユリ「ねえ、ケイゴ様、手を繋いでくれませんか?」


ケイゴ「ああ。」


ユリ「少し眠いです。眠りに落ちるまでこのまま。今ならいい夢が見れる気がするのです。」


ケイゴ「ゆっくりお休み。ユリ。」


ユリは穏やかな顔をしながら眠りについた。


ケイゴ「・・・」


テルーオ歴5047年4月15日


ケイゴに似た白髪交じりの中年男「親父・・。」


ケイゴ「ゴホッ。カズマか。そろそろユリの所に行く事になりそうだ。」


カズマ「待ってくれよ。」


ケイゴ「俺はやり残したことがある。遺言と思って聞いてくれ。」


カズマ「なんだ?」


ケイゴ「お前の叔父についてだ。」


カズマ「!?」


ケイゴ「世間に公表するか胸に秘めるかは任せる。」


カズマ「なんだ?」


ケイゴ「アイツを討伐した時にルミオ神が顕現し告げられた。アイツは人間であったと。」


カズマ「え?でも、災厄だったんじゃ・・。」


ケイゴ「ああ。そうだ。人間も災厄になる可能性があるらしい。ルミオ神によればアイツも人間として穏やかな生をすごすという可能性もあったそうだ。」


カズマ「やるせないな。」


ケイゴ「俺は桜の木の傍らにアイツと狐をともに埋葬した。」


カズマ「狐?叔父さんはペットを飼ってたのか?」


ケイゴ「アイツの最後のよりどころだ。ペットという表現は使わないでやってくれ。話が脇道にそれたな。俺はアイツの名前を墓標に刻むことができなかったんだ。」


カズマ「そういえば叔父さんの名前を聞いたことがないな。」


ケイゴ「いざ刻もうとしたときにふと思い出したんだ。親父やお袋はアイツの名をつけなかったなとな。」


カズマ「え!?でも流石に名前の候補ぐらいはあったんじゃないのか?少なくとも加護判定の日までは普通に生活してたんだろ?」


ケイゴ「幼き日に一回だけお袋に候補を聞かされ、感想を求められたという記憶はあるのだが、肝心の候補を覚えていない。」


カズマ「なんか文書とか残っていないのかよ?」


ケイゴ「加護が出なかった時点で念入りに焼却処分されている。最初からそんな奴はいなかったとな。もし万が一、アイツの名前がわかったのならば墓に名を刻んでやってほしい。場所はフィーノだ。詳細は俺の机の中に地図がある。」


カズマ「分かった。だが、あまり期待しないでくれ。」


ケイゴ「ああ。無理だと思ったら忘れてくれていい。お前には責がない話だからな。」


カズマ「親父・・。」


ケイゴ「今日はそういえば・・あの日か・・・・・すまなかった。弟よ。」

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