19<唯一無二>
前回のあらすじ
捨てる神あれば拾う神あり。
ボロンに拾われてから3年後、彼は鍛冶屋として独立を果たしていた。
今日も近所の女の子から依頼された包丁を打っていると、久しぶりにボロンに声をかけられた。
ボロン「お〜い、黒髪。なんか変な人間たちが集落に来ているぞ。よそ者がこんなところに来るのはかなり珍しい。まあ、住み着く物好きもここにいるが・・。」
「変な人間?」
彼は村の入り口に視線を向ける。そこにはこの大陸の聖騎士に近い青い服装をした人間の集団が遠目に見える。一人だけ赤い服装をした人間がたまたま集落の入口に居た村人と何か会話しているようだ。しばらくするとその人物が彼の職場の方角を指差した。
「目的は何だろうな。ボロン師匠、念のため暫く俺から距離を置いたほうが良いかも知れません。他の村人にも伝えて頂けますか?」
ボロン「過去のシガラミてヤツか。分かった。やばいと思ったら全て捨ててでも逃げろよ。お前さんの目の色が赤でも青でも緑でも加護があろうがなかろうが、俺にとっては可愛い弟子で息子のように思っている。」
そう言いながらボロンは背を向け歩き出す。
「・・!!!師匠は気がついていたんですね。」
ボロンの背中からはどの様な表情をしているかわからない。
ボロンは立ち去り、それと入れ替わるように聖騎士達が彼の店にやってくる。騎士が鍛冶屋に来るのはそこまで不思議ではないが、表情などを見るに穏やかな理由ではないようだ。
「いらっしゃいませ。他所のお客さんとは珍しい。もし武器をお求めでしたらもう一個の鍛冶屋のほうが良いですよ。こっちは家庭用の包丁とかが専門ですので。」
赤服「いや、お前自身に用がある。」
「生憎、俺は鍛冶しか能がありませんが・・。」
赤服「お前のその黒髪は・・お前も他所から来たな?」
「まあ、そうですね。」
赤服「なぜ、この集落にいる?」
「どんなに発展した国よりもこの何もない集落の方が居心地が良かったので。」
赤服「お前はどこ出身だ?」
「黒髪の時点で想像できると思うが、海を挟んだ向こうのハルモニーオだ。」
赤服「だとするなら、お前はケイゴニノマエという名に聞き覚えはあるか?」
「懐かしい名前だ。剣聖の名前だったな。・・・なあ、軍人さん、さっきからなにかのテストか?軍人さんがいるとお客さんが寄り付かなくて商売にならないんだが・・。何か聞きたいことがあるなら早く本題に入って欲しい。」
赤服「・・おい。」
赤服は部下と思われる青服の一人に何かを指示し、しばらくした後、小さな水晶玉を持ってきた。
赤服「これに触れてみろ。」
彼は水晶玉に嫌な思い出があるゆえか、一瞬ためらった後、静かに触れた。
「はい。触りましたが、・・これがなにか?」
彼は平静を装っているが、首筋に一滴汗をかいている。
赤服「普通に触ったな。」
「うん?これはただの水晶玉でしょう?」
その返答に満足したのか騎士たちは立ち去った。
「ふう。とりあえず危機は回避できたが、まだ疑われている気がする。この集落はとても気に入っていたが、近い内に出ていったほうが良いのかも知れないな。」
翌日、包丁の納品が終わった頃に集落に再び騎士たちがやってきた。
集落の入口の近くにいた人に騎士たちが声をかけているのが遠目に見える。彼の位置からは人相までは確認できないが、今回は彼と同じ黒髪の人間が何人かいるようだ。そしてあのカーキ色をした服装は彼の祖国の軍服に酷似している。
「この集落は本当に気に入っていたんだけどな・・。ボロン師匠・・いや・・父上・・さようであるならば。お元気で。」
彼は急いで店の戸に閉店の看板を立て掛け、刀と貴重品だけを持って夜逃げした。
それから数日後、がれきの山となった元彼の店で一人の男が佇んでいる。
ボロン「派手に荒らされているな。」
ボロンは何かを探すかのように荒れた店内を散策する。
ボロン「う~む。どうやら雪月白桜だけは持って行ったみたいだな。」
ボロンは偶々無事だった椅子に腰掛ける。
ボロン「強く生きろよ。黒髪・・いや・・人間のとまり木。その内、己の役割がわかる日が来るだろう。」
その後、彼は何十年に渡りいくつかの村、集落を渡り歩いたが、数ヶ月〜長くて数年いると必ず祖国の兵士が近くにやってきた。結局、彼は辺境の山奥に一人で暮らし、必要な時以外は村や街に近づかないようになっていった。
テルーオ歴5020年5月27日
「・・・疲れたな。ここまでして生きていることに何の意味があるのだろうか?
この先もずっと仮に何十年も逃げ続け生き残れたとして俺は一体何がしたいんだ?
思えば今までで一番幸せだったのは案外、あの黒髪ボブの少女の前で正座させられたあの日か卵焼きをウッカリ取られそうになったあの朝だったのかも知れないな。
いずれにしろこれから先あの時のような幸福は訪れない気がする。それならばいっそ・・・」
彼はとある山道の大岩で崖を見ながら人生を振り返り、何かを決心した様子で岩の上に立ち次の行動をとろうとすると、ふと目の端に動く白いものを見つけたようだ。
「ん?」
白い狐「クア・・。」
「白い子狐?」
そこには真っ白い狐が倒れていた。怪我をしているのか背中の辺りが赤くなっている。
彼は無言で狐を抱きかかえ、岩の上にゆっくりと寝かせる。
「これも何かの縁・・・か。」
彼は狐の傷口を持っていた度数の高い酒で消毒し、薬草でグルグル巻きにした。白い狐は消毒時はギョッとした顔をしたがその後は安心して眠ったのか気絶したのか目を閉じている。
「おいおい、狐っていうのは人間には懐かず、逃げるか威嚇するかって聞いてたけど、この狐、無防備過ぎないか?俺が狩人だったらどうするつもりだ。」
彼は独り言を言いつつ、子狐を両手で抱えながら小屋に戻った。
「暫く狩りをしていなかったからな、どこかに干し肉の一個ぐらい転がっていると良いんだが。」
ふと彼が白い狐の様子を見ると見慣れた簡素な寝床の上でお腹を出して無防備に寝ている。
「安心しきっちまってんなあ。」
彼が笑ったのは鍛冶屋ボロンに居た時以来、約二十年ぶりである。
「さて、あのお間抜けな狐のためにも久々に狩りに行くか。」
その後、俺はなんとかバケネズミを捉え、油揚げを作っていた。
「確か狐はネズミの油揚げが好物だったよな?塩だけでよいか?尤も調味料はそれ以外無いわけだが。いや、動物に塩はまずいか?とりあえず調味料なしで良いか。」
白い狐「!!、クア〜?」
狐は一瞬びくりとした後、間の抜けた鳴き声を上げた。
「気がついたか?キミが人間の言葉を理解できるかわからないが、これは俺が作った会心のバケネズミの油揚げだ。遠慮せずに食べろ・・・と言えれば格好良いんだが、すまんが俺も3日ぐらいメシを食っていなかったから半分こな。」
白い狐「クア〜♪」
「あ〜、勘違いして欲しくないのは俺の狩りが下手だとか、そういんじゃなくて敢えてとってなかったのだ。粗食は体に良いというしな。一時期食べすぎて太ってしまっていたから調整のため我慢していたのだ。そういうことだ。良いな。俺は狩りは結構上手いんだ。そこだけは誤解するなよ、良いな?良いな?」
黒髪紅眼の男は子狐相手に見栄を張っている。
白い狐「クア〜?」
狐は彼の言っていることを理解しているのかいないのか、そもそも興味がないのか、定かでないが返事のような鳴き声を一つ返した。
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