13<安居危思>
前回のあらすじ
卵焼きをすり替えた犯人は無事折檻された。
ケイゴ「うん?」
女子「どんな女性がタイプですか?」
ケイゴ「む?そうだな、長い黒髪が美しい・・・」
心なしか剣聖様の鼻の下が伸びているようにも見える。
「これは何かに使えるかもしれないな。」
彼は徐にメモを取り出し、日付、天候、そして聞き取れる限りの会話の内容にケイゴの表情を記録していく。
ショウジ「何やってんだ?」
「至高の卵焼きを手に入れるための先行投資だ。」
ショウジ「何だそれ?」
「説明が難しいが・・あまり気にするな。ヒデは損はしない。」
女子達が離れたタイミングで彼がケイゴに近づく。
「ケイ兄は何してんだ?アルバイト?」
ケイゴ「本来は軍の中に専用の者がいるのだが体調不良になったらしくてな。急遽卒業生でもある俺にお鉢が回ってきた。特別な手当てはない。」
「ユリ姉は知ってるの?」
ワタナベ「!!」
ショウジ「ワタナベさん?」
どういう訳かワタナベがユリ姉という単語に反応した。
ケイゴ「ああ、しばらくの間、授業を受け持ったと伝えてある。」
「以上が本日の剣聖殿と女子生徒達との会話の報告となります。ユリ・アサノ様。こちらは拙いですが報告書の原紙となります。ご査収願います。」
帰宅後、彼は自室にて恭しく腹黒割烹着殿に資料を提出した。
ユリ「・・・。坊ちゃまの献身には後日、高級卵による卵焼きという形で報いましょう。」
「はは~、ありがたき幸せ~。」
彼はお芝居のように大げさに土下座をしつつ謝意を示す。
ユリ「さて、私はヤることができましたので失礼します。」
頭を下げている彼からは見えないが、ユリは舌なめずりをしている。
「報告の繰り返しになりますが、ターゲットは髪毛フェチの様です。髪の毛で縛り上げてください。」
ユリ「フフ。」
ケイゴ「お前は校庭をあと3周だ。」
一週間後、彼は校庭を走らされていた。
「え?俺だけ多くない?」
ケイゴ「俺の弟なんだ。他の者と同じとはいかんだろ。」
妙にげっそりしたケイゴが理不尽なことを言っている。
「理不尽~。ユリ姉に言いつけるぞ~!!」
ワタナベ「ニノマエ君、あんなに走らされているのに余裕ありそうね。」
ショウジ「不思議だね。」
ケイゴ「魔物から逃げるには持久走はとても有効だ。だが、頑張って逃げた先が文明圏とは限らない。砂漠や樹海、無人島にたどり着くという可能性もあるだろう。という訳で今日のテーマは・・」
「はあ、はあ、はあ、さすがに少し疲れたな。」
ケイゴ「お前はこれを持て。」
彼が息をと整えていると布と何か硬い棒がいくつか渡された。
「今日は何の授業?」
ケイゴ「サバイバル術だ。」
「ケイ兄は一体何を目指しているんだ?」
ケイゴ「サバイバルで重要なのは飲み水の確保、寝床の確保、火起こしに食料の確保だ。」
ケイゴは彼の質問を無視し授業を進める。
ケイゴ「実際に魔物から逃げた状態において専用の道具を持っていることは稀であろう。周囲の物を使って代替する必要があるが、これは学生用の授業なので砂漠等のように本当に何もない状況ではなく森の中に逃げ込んだと想定する。」
「結構本格的だな。」
ケイゴ「まずは比較的簡単なものから始める。今お前には木の枝と紐と布を渡している。」
「うん。そうだね。」
ケイゴ「紐と2本の木の枝でやぐらを組むように組んでみろ。」
彼は言われた通り2本の枝を二つそろえて端の方を紐で縛り片方を広げた。
「こんな感じ?」
ケイゴ「ああ、そんな感じだ。それを10個位作れ。」
彼は言われた通りに作る。
ケイゴ「それらを広い側を地面に当てて上側に一本の枝を置いて紐で固定しろ。」
彼が言われた通りに作る。はた目には三角柱が寝たように見えるかもしれない。
ケイゴ「最後に布をかぶせろ。これが即席のシェルターだ。布がなければ土と植物の葉っぱを混ぜたものでもよい。」
何とか仮眠がとれるといった程度だが、何もないよりはましなのだろう。
ケイゴ「次は飲み水の確保だ。川が見つかればよいがそうでない場合はいくつか方法がある。」
「水たまりでも探すか?」
ケイゴ「それもいいが都合よく見つかるとは限らない。例えばひざ下に布を巻いて草むらを歩く。すると朝露が布にしみ込み水を入手できる。」
**「あまり量がなさそうだな。」
ケイゴ「確かにそうだ。別の方法として穴を掘って地中の水を集めるという方法がある」
今度はケイゴは彼に木の棒を渡した。
ケイゴ「植物が生えている脇を掘れ。」
「え?」
ケイゴ「掘れ。」
彼は言われるがまま穴を掘る。
ケイゴ「しばらく放置すると水が染み出てくる。水を待つ間に火をおこそう。」
ショウジ「木の棒と木の板で起こすんでしたっけ?」
ケイゴ「良く知っているな。木の棒を穴の開いた木の板の上で往復回転させて、火種を乾燥した枯草や細い枯れ木に落とすという方法だな。ナイフなどを持っていてそういった道具を作れる状態ならばその方法も有効だ。後は虫眼鏡を使って太陽光を集めて火をおこすという方法もある。もちろん火の魔法を使えるならばそれを使うのが一番簡単だ。」
そう言いながら彼に木の板と木の棒を渡す。
「ケイ兄?」
ケイゴ「やれ。」
彼は言われるがまま木の板の上に棒を擦り付けながら往復回転させる。
手が痛いのか、顔をしかめているが、しばらくすると煙がでてきた。
ケイゴ「火種ができたら枯草にそれを落とす。」
彼は火種を枯草の塊に落とした。
ケイゴ「そしたら息を長く弱く吹き込む。決して強く吹き混むな。周囲の空気を巻き込むように長く弱くだ。」
言われた通りに彼は吹き込む。
ぼお!
ワタナベ「あ、ついた。」
ショウジ「結構大変なんだな。」
ケイゴ「さて、そろそろ穴に水が溜まっていると思う。それを器に入れて今作った火で沸騰させるぞ。」
「器?」
ケイゴ「今回は紙製の器としよう。」
「あれ?燃えちゃうんじゃ・・?」
ケイゴ「表面は焦げるが、水がある限りは燃えはしない。試してみろ。」
彼は言われた通り杯に水を入れ火にくべる。確かに燃えないようだ。
しばらくすると沸騰した。
ケイゴ「さあ、飲んでみろ。」
「え?」
ケイゴ「飲め。」
ゴクリ。
「・・・・。」
ワタナベ「ニノマエ君、大丈夫?」
一瞬彼はワタナベを見て目を細める。
ショウジ「・・・・。」
「意外と悪くない。ごく普通の白湯って感じだ。まあ、ちょっとじゃりじゃりするけど。」
ケイゴ「さて、後は食料だが、一つ言えるのはよく知らない木の実を口に入れるのは絶対やめろ。」
ショウジ「そうなのですか?」
ケイゴ「我々は普段野菜とか果物を食べているから感覚が麻痺してしまっているが、植物というのは基本的に全て毒を持っている。我々が食べているのはその中でも体内で解毒できたり、毒のない箇所を選んだり、又は調理によって毒を抜いたりして食べている。」
ワタナベ「え?お野菜にも毒があるのですか?」
ケイゴ「極微量ながらある。例えば玉ねぎを犬に与えてはいけないというのは有名だが、人間だって食べ過ぎれば中毒となる。」
「安全に食べられるのは?」
ケイゴ「ムシだ。」
「え?」
彼は顔を顰めている。まるで聞き間違いだと思いたいと願っているように見える。
ケイゴ「蜘蛛、コオロギ、蜂、蝗、・・」
女子「い、嫌~~~!!」
「キャ~~~(裏声)、死にたくない~~~(裏声)。助けて!!~~ママ~~!!(裏声)」
彼は女子に紛れて叫んでいる。
ショウジ「ニノマエ、キモイ。」
ワタナベ「流石に擁護できないわ。」
「二人とも酷いよ。今までの流れから考えると食べさせられる流れだぞ?お・れ・が。」
ワタナベ「ニノマエ君。ファイト。」
ショウジ「お前ならできると俺は確信している。」
「君たちな・・・。」
彼は心強い声援を受けながら剣聖に青い顔を向けている。
ケイゴ「もちろん、動物の肉なら内臓を避け火を通せば大抵のは食えるが、都合よく手に入るとは限らない。一番身近なたんぱく源は虫となるだろう。まあ、知識として覚えていてくれ。実演はさすがにしなくて良い。」
「朗報、剣聖にも人の心はあった。(ナレーション風)」
キーン、コーン、カーン、コーン・・・
ケイゴ「今日はここまでだ。次回は護身術の予定だ。」
「う~む。」
ショウジ「どうした?」
「ここって士官学校じゃないよな?」
ショウジ「ああ、普通の学校だったはずだ。」
-とまり木の一体が他種族により破壊されました。-
-正式な過程を経て処理されたため、とまり木が持っていた善行度は無視されます。-
-ウサギ族への罰則はありません。-
「うん?」
ショウジ「どうした?ニノマエ?」
「いや、何でもない。誰かに呼ばれたような気がしたが気のせいだ。」
ワタナベ「それって女の声?」
「え?」
ワタナベ「何でもない。」
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