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呪いの一族と一般人

言の葉集め4



***病原菌***


日和(ひより)碧真(あおし)君、迎えに来てくれてありがとう」

碧真「……なんか声が変じゃないか?」


日和「昨日お店のお客さん多くてさ、暖房が効いている中でいっぱい話したから、乾燥で喉がやられちゃったみたい。あ! 風邪とかじゃないから、そこは心配しないで」


碧真「そんな心配はしていない。馬鹿は風邪を引かないからな」


日和「……ねえ、ここは優しい言葉をかけるのが一般的な対応じゃない?」

碧真「馬鹿への言葉としては一般的なものだろう」


日和「絶対に違うから! 人を(けな)す言葉を生み出さないでよ!」

碧真「生み出していない。昔からある(ことわざ)だ。そんなことも知らないのか?」


日和「それは知ってるから! 何で貶し言葉を量産していくの!?」


碧真「相手が誰でも良さそうな病原菌にすらモテないのかよ」


日和「新しい貶し言葉の作成もしなくていいから! てか、病原菌が寄り付かないって良いことじゃん! 非モテ扱いして可哀想な奴に仕立て上げようとするのやめてよ!」


碧真「何故、まだ自分が可哀想な人間じゃないと思っているんだ?」


日和「もうヤダ! 碧真君なんて菌まみれになってしまえ! 人にモテない分、病原菌にモテてよかったね!」


碧真「あ゛? その口、塞がれたいのか?」

日和「ヒッ! ま、待って! 口を縫うとか流石にやめてよ!?」


碧真「安心しろ。そんな手間はかけない。土葬する」


日和「安心要素マイナス方面に全力で振り切ってるから! てか、土葬もだいぶ手間がかかるからね!」


碧真「爆発術式を使えば、土なんてすぐに掘り起こせる。上から土を被せる手間はあるだろうが、日和が絶望していく顔を見ながらやれば、笑いながら出来そうだ」


日和「ドS通り越してサイコパスだよ! ちょっと、カーナビで近場の墓地を検索しないで! そんなお手軽感覚で埋葬されたくないよ! ごめんなさいぃっ!」



***お菓子を渡しただけなのに***


日和「そうだ! 碧真君にこれあげる」

碧真「何だよこれ」


日和「私が働いているお店の新商品のカスタードケーキ! カスタード味と苺味があってね、カスタードの方を試食した時に、碧真君が好きそうな優しい味だと思って買ったの。よかったら食べて」


碧真「……ああ」


日和「これね、羽矢太(はやた)君も美味しいって言ってたんだ。六個もまとめ買いしてたし、相当気に入ったみたい」


碧真「……は? 誰だよそいつ」


日和「え? 私の職場の人だよ。あれ? 羽矢太君のこと話したことなかったっけ?」


碧真「興味ないからな」

日和「少しは私の話に興味持ってくれてもよくない?」

碧真「そっちじゃねえよ」

日和「ん?」


碧真「……何でもない。そいつとは仲がいいのか?」


日和「仲良いよ! 羽矢太君は優しくて気配り上手で頼りになるし。同い年だから話も合って楽しいの!」


碧真「……へえ」

日和「聞いておいて冷たい反応はやめようよ」


碧真「馬鹿の相手をしてくれるような奇特な奴がいて良かったな」


日和「そこで棘がある返答をする? 私、お土産のお菓子を渡しただけなのに」



***信頼するところ***


日和「コンビニ来るの久しぶりだ! 碧真君はよく来るの?」

碧真「近所の店が閉まっている時や運転の途中で立ち寄ることはある」


日和「碧真君の方がコンビニのプロなのかあ」

碧真「コンビニのプロって何だよ?」


日和「あ、見て! 新発売のお菓子だって! 早く中に入ろう!」

碧真「おい、引っ張るな」


日和「碧真君が手を離してくれたらいいと思うんだけど。そうしたら、別行動できるじゃん」


碧真「方向音痴と馬鹿を直してから言えよ」


日和「確かに私は方向音痴だけど、馬鹿じゃないから! 人間的にしっかりしてる方だから!」


碧真「しっかりしている人間は、エレベーターに乗って階層ボタンを押し忘れない。服の表裏を間違えて着たまま外に出ない。自分が手に持っていた傘に(つまず)いて転びかけたりしない」


日和「ちょっと! 私のここ最近の失敗を掘り返さないでくれる!? そのくらいなら誰にでもあることだからね!」


碧真「少なくとも、俺はやったことないが? 日和が自分のことをしっかりしているなんて思うだけでも烏滸(おこ)がましい」


日和「なんか、いつも以上に当たり強くない? とにかく、買い物しにくいだろうから手を離してよ」


碧真「……一人で店から飛び出さず、物や他人にぶつからないように気をつけられるならいいが、日和には無理だろう」


日和「完全なる幼児扱い。私、成人しているんですけど。三十一歳なんですけど。子供から見たら、大人でしかない年齢なんですけど」


碧真「それ、子供の前で言わない方がいいぞ。三十年以上生きていて、こんな未熟な人間がいるんだって憐れまれるし、大人がこんなに残念なモノだと思って未来に絶望するかもしれない」


日和「辛辣すぎてそろそろ泣くからね! 公衆の面前で泣き喚くよ!?」

碧真「勝手にしろよ。泣いている間に置き去りにする」


日和「待って! ここ初めてくる場所だし、山の麓だよ!! 私が一人で帰れると思う!? 百パーセントの確率で遭難するから!」


碧真「日和の生命力なら、山の中でも百パーセントの確率で生き抜けるだろう」


日和「信頼するとこ、生命力(そこ)じゃないから! もっと一般的な信頼を頂戴よ!」



***コンビニで別行動で買い物後***


日和「お菓子買えた。碧真くんも食べる? 干し芋!」


碧真「いらない。飲み物買いに寄ったのに、何で余計に喉が渇きそうな物を買ったんだよ」


日和「芋けんぴか迷ったけど、干し芋の方が水分多いから飲み物と同じじゃない?」


碧真「狂った考えに同意を得られると思うな」

日和「オ芋、美味シイ」


碧真「何でカタコトなんだよ。つうか、飲み物は買ったのか?」

日和「……忘れてた! 出発するの待って! 急いで買ってくる!」


碧真「買ってあるから行かなくていい。緑茶でいいだろう?」

日和「ありがとう。お金払うよ。いくらだった?」


碧真「いらない。受け取るのが面倒だ。それに、日和から金を受け取りたくない。人間的能力が下がりそうな気がする」


日和「人を疫病神扱いしないで。感謝の気持ちが一瞬で消え失せたわ。碧真君、本当に当たり強くない? 私、何かした?」


碧真「……別に、いつも通りだろう」


日和「これを通常対応にされたら困るんですけど。私が嫌なことをしているなら言ってよ。真面目に聞くから」


碧真「手に干し芋を持ったまま言われても説得力がない」


日和「干し芋に罪はないし。これチャック付きじゃないから食べ切るまで待って!」


碧真「この話の流れで、芋を優先するな」



***当たりが強い理由***


日和「お芋おいしかった。さあ、当たりが強い理由を話してよ」


碧真「だから、別に普通だろう」

日和「いや、絶対にいつもより酷さが二十パーセント増量中だもん!」


碧真「そういうキャンペーンなんだろう」


日和「私への当たりが強くなるキャンペーンって何!? そんな鬼畜で誰得なものがあってたまるか! ねえ、本当に何で!?」


碧真「……」


日和「言わないつもり? なら、勝手に推理するから! ……お菓子と羽矢太君の話をしてたよね。……よし、謎が解けたよ! お菓子が一個じゃ不満なんだね!」


碧真「……」


日和「やっぱり! ”羽矢太君が六個買ったのに、俺には一個なのか”ってことだよね! すごい推理! 名探偵爆誕だわ」


碧真「そのまま爆散しろ」


日和「言葉強っ! もしかしてハズレなの? 嘘でしょ!?」


碧真「俺が菓子の個数に文句を言うとでも思ったか? 食い意地張っている日和じゃあるまいし」


日和「ええ? じゃあ、苺味の方がよかったとか!?」

碧真「違う。何でそうなるんだよ」


日和「名探偵でも、人の心の謎は解けないってことだね」


碧真「良い感じの雰囲気を出して締めくくろうとしているが、ただ迷走していただけだろうポンコツ」


日和「ポンコツって、そんなに酷くないじゃん! 第一、一般人に探偵役を任せるのが悪いよ!」


碧真「日和が自分から勝手に言い出したんだろう。責任転嫁するな」


日和「すごい正論すぎるや。今回は私が悪いから反省するよ。でも、苺味は入荷待ちだから、すぐには買えないかも。残っていた分は、羽矢太君が彼女さんの為に全部買ったからなあ」


碧真「……彼女?」


日和「そうだよ。羽矢太君はリア充なの! 羽矢太君の彼女さん、職場に来たことあるけど、めちゃくちゃ可愛くて良い人だった。お似合いのカップルだから、見ていてニヨニヨしちゃったし。今は彼女さんが仕事で忙しいみたいだから、再来年くらいに結婚しようって話してるんだって」


碧真「へえ」


日和(……あれ? 碧真君の雰囲気が少し柔らかくなった? 何故に?? あ! 碧真君も人の幸せを喜ぶ心があったのか! 理由はわからなかったけど、当たり強いキャンペーンが終わったみたいだからいいか)



***車の中の魔法(車の中での会話)***


碧真「まだ声が変だな」

日和「冬の乾燥度合いはエグいからね。のど飴買ってくればよかった」


碧真「グローブボックス( そこ )(※助手席前にある蓋付きの収納)にあるから、食べていいぞ」


日和「え? のど飴があるの? 本当だ。これどうしたの?」

碧真「……貰い物だ」


日和「なるほど。今の時季は、のど飴をもらう機会もあるよね。わあ、フルーツ味だ。嬉しい。ありがとう!」



ー別の日ー


日和「手が冷たすぎてヤバイ。冬も好きだけど、寒いのが難点だよね」


碧真「寒くなかったら冬じゃないだろう。グローブボックス( そこ )にカイロがあるから使えよ」


日和「え? カイロもあるの? 本当だ。体温が高い碧真君でも、カイロを使うんだね」


碧真「必要ないから使わない」

日和「え? それなら何であるの?」


碧真「……貰い物だ」


日和「なるほど。今の時季ならカイロを一個くらい貰う機会もあるよね。……ここには十個くらいあるけど」


碧真「……別に、そのくらい普通に貰うだろう」



ーまた別の日ー


日和「うう。外寒かったけど、車の中も寒いね」

碧真「暖房がついたから、(じき)に暖かくなる。これでも使っておけ」


日和「え? ブランケット? これどうしたの?」

碧真「貰い物だ」


日和「え? な、なるほど? 確かに今の時季なら貰う機会もある……のかな? それにしても、めちゃくちゃ良いものじゃん。可愛いし、分厚くて温かそう。なんか使うの勿体無い」


碧真「良いから使えよ」

日和「ありがとう。わあ、あったかー」



ーまたまた別の日ー


日和「え? なんかクッションある。これ座っていいの?」

碧真「ダメなら置かないだろう」


日和「あ、ありがとう。ふわふわであったかいし、可愛いね。……もしかして、わざわざ買ってくれたの?」


碧真「貰い物だ」


日和「……そっか。クッションも……。碧真君、随分と貰い物がいっぱいだね? 碧真君より人との関わりがある私ですら、こんなに短期間でたくさんの物を貰ったことはないよ」


碧真「日和に人望がないだけだろう」


日和「碧真君に言われたくない言葉ランキングの上位を言われた」



ーまたまたまた別の日ー


日和(なんか、助手席がどんどん快適になってる。今日も碧真君に会ってすぐに温かい飲み物を貰ったし。……は! もしかして、この車って、願えば叶う仕様なの!? そんな魔法のランプみたいなことが!?)


碧真「おい、どうした? いつも以上に馬鹿面になってるぞ」


日和「何でもな……って、いつも馬鹿な顔しているみたいに言わないでよ!」


碧真「日和の全てが馬鹿で構成されているから、顔面だけを馬鹿にするなら優しい方だろう」


日和「どういう理屈なの!? 全く優しくな……そうだ! 碧真君が私に優しい言葉をたくさんくれたらいいな!」


碧真「は?」


日和(いつも貶されてばかりで腹立つし。優しい言葉だけを貰えたら平和だし嬉し……いや、待って。想像しただけで寒気が……。忘れてたけど、優しい碧真君って、めちゃくちゃ怖かったんだ。優しい言葉をかけ続けられるなんて、怖すぎて鳥肌と震えが止まらないよ! どうしよう……)


碧真「日和に優しい言葉をくれてやる訳がないだろう? 優しくされたいのなら、少しは人間的な能力を上げたらどうだ?」


日和「よかった! キャンセル間に合ったー!」

碧真「は? 頭大丈夫かよ?」


日和「ヒッ! 大丈夫かとか、私を心配するのはやめて! 優しい碧真君はキャンセルです!」


碧真(?? ……貶しすぎて本当におかしくなったのか?)



明日12/10(日)にも言の葉集め5を投稿します(投稿時間は未定です)。


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