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沙悟浄の娘  作者: 紫草 友紀子
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 婚礼の大宴は、それはそれは絢爛豪華なものでした。


 東海竜王様のご兄弟はもちろん、天界仙界仏界から名だたる方々が列席され、まさに綺羅星の如き華やかさ。広間の中央には泉が湧き出ていて、そこに無数の牡丹の花が浮かんでいます。高い天井のあちらこちらに飾られた真珠や宝玉の輝く様は、天の川のようでした。


 西王母様の桃酒が惜しげも無く振る舞われ、酔いの回った宴席で天女仙女が螺鈿の琵琶や月琴、笛を奏でて舞い踊り、詩を作って歌います。

 山のような贈り物も届けられました。

 

 その時の乙姫様も浦島様もとてもお幸せそうで、今日が二人にとって一番華やかな日になるだろう、これから、いつまでも心安らかな日々を送ることになるだろう、そう思いました。

 

 その方が姿を見せたのは、王宮中が宴もたけなわなその時でした。

 白髪の老女に手を引かれ、珍しく盛装した豊玉姫様が広間に現れた時、一瞬、纏った深縹と藤色の衣擦れの音が聞こえるほどに静まりました。楽を奏でる仙女も、舞う天女もその細い指先や白い足が止まってしまいました。

 中央で、あふれる泉の水音だけが響きます。


 私も竜宮に身を置くことになってから、姉宮様のお姿を拝する機会は何度かはあったものの、あの方はいつも顔を扇で隠し、慎ましい身なりで豊海宮におこもりでした。

 ですからまさか姉宮様がこれほどの絶美の方とは思いもしませんでした。しかし思えば、幼い頃、覗き見た豊玉姫様のお姿は大変麗しかったことを思い出しました。私は毎日、乙姫様のお姿を見ていましたから、次第にその記憶は薄くなっていたのでしょう。それは、他の者とて同じだったのではないでしょうか。


 姉宮様は視線が集まり、静まる会場で居心地悪そうにしながらも、乙姫様に遠慮がちに微笑みをかけると、足早に竜王様や妃様のいる席へと移ったのでした。恐らく、本当はこのような席に出るのは憂鬱なところを、妹の婚礼を祝うために出席なさったのでしょう。

 この時、誰もが豊玉姫様に視線を注ぐ中、一人だけ別のところを見ている方がいました。

 それは私のお慕いしている乙姫様です。

 乙姫様は、浦島様を見ていました。

 浦島様は、豊玉姫を見ていました。

 その時の、乙姫様の蒼い顔と震える唇を、私は一生忘れることは無いでしょう。

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