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沙悟浄の娘  作者: 紫草 友紀子
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 それからは、とんとん拍子に事が進みました。

 竜宮につくと乙姫様はすぐに本来の姿にお戻りになり、その麗しさに浦島様も一目で心を奪われた様子でした。男女の仲というものは、こじれる時はどうしようも無いほどこじれますが、うまく行く時は驚くほどに話が進むものなのですね。


 竜王様へご挨拶に向かう途中、私たちは偶然にも散歩をしている塩土老翁様と会ったのですが、塩土老翁様は浦島様の顔を見て、二、三言話すと、すぐにご機嫌になられ、その人柄に太鼓判を押されました。


 竜王様におかれても、同様でした。


 浦島様は決して美男子というわけではありませんし、天界人でも、神仙、竜族、また血筋正しい貴人でもありませんでしたが、いくつか言葉を交わすと、その心根の優しさ、徳の高さが伝わってくる不思議な殿方でございました。

 恐らく、竜王様はすぐに西海竜王様の王子との縁談よりも、乙姫様のお相手に浦島様をとお考えになったのではないでしょうか。

 確かに天界や竜宮においても、その出自によって身分というものがあります。ですが、竜王様をはじめ、特に仏法に帰依している者は、相手の徳の高さをとても評価されるものなのでした。

 その点で言えば、浦島さまはまさに聖人君子と言って間違いのないかたでした。

 

 考えてもみてください。不浄な下界で、だれかに哀れみの心を持とうと思えば、それはまずは肉親であったり一族であったり、あるいは自分自身であるのが一般的です。


 あるいは僧侶のようにして修業をしたり、学問を治めて、人の道、仏の道というものを学べばそのように行動することもできるでしょう。けれどもそれがどれほど難しいというのは、わたくしごときが言う事ではありません。

 

 美女たちが舞う宴の席で、竜王様は浦島様に酒を勧めながら聞きました。


「ときに浦島殿。あなたは先祖代々、あの漁師をしていたのですかな」


「・・・いいえ。違います。実はあの村で暮らすようになったのは、昨年のことなのです」


 と、ここで竜王様をはじめ妃様や乙姫様、音色を奏でていた楽士や舞姫たちは耳を側立てました。もしや、由緒正しい血筋ではないかと思ったのです。


「それまでは、山で暮らしておりました。昔、ある時、人がやってきて、私に帝の位を譲りたいと言われまして・・・・」


「なんですと?!」


「もちろん断りましたが、それで身体が穢れたような気になって、父母と一緒に海で身体を清めようとあそこに住み着くことになったのです」


 と、浦島様は頭をかきながら何でも無い風に言いました。

 宴の調べは変わること無く流れていましたが、その場にいた者の内心は騒然としていました。

 つまりこの浦島という若者は、自分の国で至尊の地位を断って、心身を清めるために海辺に住んでいたと言うことではありませんか。

 仰天する一同の中、妃様は竜王様に耳打ちしました。


 「これは、まるで堯帝が帝位を譲ろうとした許由様の話ではございませんか。私が思うに、この方は乙姫の結婚相手に申し分の無い御方ではありませんか」

 竜王様は無言で頷きました。

 

 それからはまた全てがとんとん拍子。竜王様から乙姫様との結婚について進められた浦島様は、それを承諾なさり、すぐに婚礼の大宴が開かれたのでした。


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