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32.お別れ


「僕たち、そろそろ帰ろうと思ってさ」



「え?」


 襲撃事件があって少し経ち、シャルルたちの住処を訪れたエリックが、茶を飲みながらふと切り出した。


「え、ってソニアさん。何をとぼけているんですか。僕たちはカラディスの学生なんです。学校の復旧も終わりましたし、ここのいざこざも落ち着いてきましたし、ここにいる意味はもうないから帰ろう、って言ってるんです」

「あ、そ、そうでしたね……」


 二人がここにいるのが当たり前になりすぎていました、とソニアは少しバツが悪そうに呟いた。


「僕もずっとソニアさんと一緒にいたいけど……悲しいかな、僕たち、結ばれない運命みたいだからね……」

「何を言っているんだ、お前は」

「あはは、冗談。わかってるだろ?」


 エリックはカラカラと軽く笑う。それからスッと目を細め、真面目な表情を作った。


「――誰も欲しがらない土地だからこそ、ティエラリア王国はいままで狙われなかった。けれどこれからは狙われることが増えるかも。豊かになってきていいことばかりじゃなくて大変なことも増えるだろうけれど、頑張ってね」


 エリックはそう言って微笑む。

 皮肉っぽい捻くれた言い方だが、飄々とした風に見せたがる素直でない彼にしては、精一杯の激励なのだろうとシャルルは深く頷いた。



 ◆



 そして迎えた別れの日。


 二人の見送りにはシャルルとソニアだけではなくて、辺境領の人間たちも集まっていた。


「エリック様、またぜひ来てくださいね。カラディスの農耕技術は興味深いです」

「いいとも。君たちはみんな僕たちの友人だ。これからもカラディスと仲良くしてくれ」


 エリックはソニアにちょっかいを出す傍ら、辺境領で農耕に携わる人間たちとも関わってきていたらしい。しっかりと慕われている様子に、ソニアは感心する。


「ノヴァ。ちゃんと兄貴や義姉にも手紙を書くんだよ、特に義姉はよく君を心配しているから」

「わ、わかってますよ」


 シャルルに言われるとノヴァは少しきまずそうに眉を寄せた。話を聞くところによると、ノヴァは母・マリアのことは少し怖いと思っているらしい。


「引き続き、カラディスで多くのことを学んで、ティエラリアを導く善き王を目指してくれよ」

「はい。もちろんです、おじさん」


 シャルルの大きな手のひらが、大きくノヴァの髪を撫でる。シャルルの激励を受けたノヴァはわかりやすく嬉しそうな顔をしていた。


「ノヴァくんはきっと素敵な王様になりますよ、頑張ってくださいね!」

「言われるまでもありません、当然ですよ」


 ソニアが言うと、ノヴァは相変わらずのツンケンとした態度を取るが、ややしてからノヴァは背けた顔をそっと戻して、まっすぐソニアの顔を見上げて、口を開いた。


「……おじさんのこと、幸せにしてくださいね」

「はい! もちろん!」

「……」


 ノヴァはくるりとソニアに背を向ける。

 なぜか、鼻をすするような音が聞こえてソニアは首を傾げた。


 そのまま、二人は出発する流れとなり、ソニアはノヴァがどんな顔をしていたのかを見ることなく、見送ることになってしまった。

 ふふ、とシャルルが小さく笑う。


「ノヴァもね、素直じゃないやつなんだよ。エリックほどじゃないけど」

「あ、え、えっと、オトシゴロ……ってやつですね!」

「うん。これからいろんな出会いや別れを経験して、善き王になってくれるといいんだけどな」

「……ノヴァくんならなれますよ。ノヴァくんも、優しい人ですもんね」


 ソニアがそう言うと、シャルルは遠くを見つめながら「ああ」と深く頷いた。


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