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22.聞いてない

 ハラハラとしつつ、ソニアは子フェンリルたちと全力でボール遊びをして、フェンリルたちのお昼ご飯の時間に合わせて切り上げ、厩舎の中に戻っていった。


「わうっ」


 厩舎の入り口には子フェンリルのディアナの母であるラァラが待ち構えていた。


「ラァラ、ただいま。今日もディアナは元気でしたね……」


 ラァラは激励するかのように、べろりとソニアの頬を舐めてくれる。そんなラァラの後ろには、ひときわ大きな体躯を誇るフェンリル・シリウスがいた。


「こんにちは、シリウス。調子はいかが?」

「……」


 シリウスは静かにソニアに近づくと、ぐりぐりと目をソニアの手に押しつけた。そんなシリウスの目を、閉ざされた瞼の上からそっと撫でる。


 これもソニアの日課のひとつになっていた。


「私にシリウスの目も治せたらいいんですが……」


 すでに失われたものを取り戻すことなど、できるのだろうか。

 そう思いながらもソニアは自ら目を擦り付けてくるシリウスに、どうか何かの奇跡で、シリウスの視力が戻るように祈るのだった。


「……」


 ずっとむっつりとしているノヴァだが、そのやりとりもまた一段とむっつりとしてノヴァが眺めていた。


「……? ノヴァくん?」


 あまりにもずっと怪訝な様子なので、ソニアは窺うように声をかける。


「……あなたをずっと見てて、あなたがお人好しなのはわかりました。それだけですけど」

「は、はあ」

「それだけです。まだまだ、ふさわしいとかは、全然ですけど」


 ノヴァはしばらくソニアを見つめながらも押し黙り、ようやっと口を開いて言葉を続けた。


「――僕、生意気でしょ。なんとも思わないの」

「えっ、生意気?」

「よく言われるんだ。小さいくせに、って」

「うーん、色々と考えててすごいなとは……」

「子どものくせに、大人をバカにしてるとか思わないの?」

「えっ、それは全く」


 どうしてそんなことを言うのだろうと見当もつかずソニアは驚きで目を丸くした。

 ノヴァはしかめ面で唇を少し尖らせている。


「なんで僕みたいな小僧に色々言われなくちゃいけないんだ、とか思わないの?」

「ノヴァくんは真っ当なことしか言いませんもの」


 ノヴァは元々大きな目をますます見開き、きょとんとしたようだった。少ししてから、眉を歪めてしかめ面を作る。


「なにそれ、あなたって結構変だよね」

「そ、それは、その、申し訳ございませんとしか言いようがないのですが……」


 ノヴァはソニアよりも早く厩舎を出て、さっさと歩いて行ってしまう。本来は、ノヴァはソニアのお守り役らしいから、ソニアの後をノヴァがついていくべきなのだが、ノヴァがそばにいることに慣れてきていたソニアは「ノヴァくん」と慌ててそのあとを追っていった。


「次はどこに行くんですか?」


 前を歩くノヴァがそう言ったことで、無視はされてないのだとソニアはホッとする。


「ええと、次は……いま、私が触った種を試しに育てていただいている農家さんがいるので、そちらのほうにお邪魔して生育状況の確認を……」


 ソニアは小走りで駆けて、ノヴァの隣に並ぶ。ソニアはノヴァにはにかむと、ノヴァはわざとらしく顔を背けた。


 そのとき。遠くの空から、耳をつんざく鳴き声が聞こえてきた。

 鳥――いや、牛のような身体に、鳥の羽と頭が生えたような姿をした生き物――魔物だ。


「あぶない!」


 ソニアは魔物の存在に気がつくと、咄嗟にノヴァを突き飛ばし、こちらに向かってくる魔物に向かって腕を伸ばし、力を使った。


 この辺りでは見かけない姿をした魔物だった。聖女であるソニアを滅ぼすために現れた魔物だろう。この世のものにあらざる形をした、大きな魔物であった。


(そういえばずいぶんと久しぶりでしたね……)


 自分を狙って魔物がどこからともなく襲ってくることがある。近ごろは久しく現れなかったので、忘れかけていた。たまたまだが、見通しのよい屋外にいるときでよかった。


 ソニアは魔物が塵になっていくのを見届けてから、ノヴァを振り返った。


「す、すみません。急だったので突き飛ばしてしまい……」


 ノヴァは尻餅をついて、ぼうっと塵が空に舞っていくのを眺めていた。ソニアの声かけにも応じない。


「……」

「だ、大丈夫でしたか?」


「大丈夫、でしたけど……」


 ソニアがもう一度声をかけると、ようやくノヴァは反応を示し、眉をひそめ、口を尖らせる。


「……いまの、どういうことですか?」

「あっ。すみません。わ、私、どうも、魔物を引き寄せてしまう……ことがあるらしく。シャルル様いわく、弱い魔物は近寄ってこないけど、その代わりにまれにとても強い魔物が『聖女』を殺そうとやってくるのではないか、と……」


「……」

「あっ、す、すみません! こういうことは情報共有をしておくべきでしたよね……」


 ノヴァはシャルルに頼まれて、自分のお守り(?)をしてくれているというのに。それならば、『こういうことがあるかもしれない』と予め注意しておくべきだったとソニアは反省する。


「それはその通りですけど、説明をしてくれなかったのはあなただけでなく、おじさんもそうですし」

「あっ。シャ、シャルル様を悪く言う意図ではなく……」

「わかってますよ、そういう態度、むしろ人に失礼だと思いますけど」

「は、はい!」


 ツン、と唇を尖らせたままのノヴァにソニアは頭を下げたのだが、たしなめられて慌てて背筋を正す。



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