20.アイラチェック
「はー、いいわね、お姉様。無理矢理お嫁に行かされたけど、シャルルもイケメンだったし、雰囲気いい国だし、お姉様の力だってありがたがられてるような環境で、結果的に大勝利で」
「だ、だいしょうり?」
愚痴っぽくなっているのか、アイラはため息交じりに話す。
「でも、あいつ、結構変なやつってか、ヤバい感じするからお姉様気をつけなさいよ。すげえ重そう」
「ええ?そう……?」
口を尖らせながら言うアイラにソニアは首を傾げる。
しばらくアイラは不機嫌そうに眉をしかめていたが、やがて「はあ」とため息をついて姉の顔を見上げた。
「……お姉さまはよかったんじゃないの。ティエラリアに嫁ぐことになって」
「そ、そうですか?」
「イケメンだし、それはいいんだけど、あたしはあの手の男は無理だわ。……そう思ったのは、まあ、それだけじゃないけど……」
アイラは一回口を噤み、それから少しして口をもう一度開いた。
「変わったわよ、お姉様」
「え、そ、そう?」
「そのめんどくさいジメジメ感は変わんないけどさ」
ふん、とアイラはそっぽを向く。
「ここに来てからやっと『聖女』として評価されるようになったんだし、アルノーツじゃお姉様そんな顔したの見たことなかったし、あたしとだって、前はこんな風には……」
「え、えっと、アイラ……」
ソニアは戸惑いながらも、目をパチパチと瞬かせてアイラを見る。アイラはソニアと目を合わさないままだが、ポツポツと独り言のように言葉を紡いでいった。
「あたしはおこぼれで力を使っていたことがわかったわけだけど。……でも……」
「でも?」
「――ふん、なんでもないわよ。ちょっとは自分で考えなさい」
首を傾げる姉にアイラはべっと舌を出した。
「……変わった? これでも? 前はどんなだったんですか、あなた」
「え、ええと、私も自分ではちょっと……」
「全く、あなたは。そういうところですよ、そういうところ」
はあ、とノヴァは呆れて肩をすくめ、ソニアは「すみません」とまた小さくなってしまった。
「おや、見ない顔のお嬢さんだね」
そこに軽い調子の声がして、エリックがひょっこりと現れる。
「初めまして、僕はエリック。もしかして君がソニアさんの妹の?」
「あっ、はい、そうです、アイラと言って……」
ソニアが応えると、アイラは「ちょっと」とソニアの服の裾を掴んで引っ張る。
「……だれ?」
「あっ、エリックさんと言って、ノヴァくんとシャルル様のご友人で……カラディスの第三王子だそうです」
「……なるほど、王子……」
アイラはじろりとエリックの顔を眺める。
(な、なんだか品定めモードに入っている気が……)
そういえばアイラは結婚のいい相手がいないかとも悩んでいるのだった。第三王子ならば、婿入りもやぶさかではないかもしれない。
エリックはシャルルとは系統が違うが、中性的な雰囲気で美しく整った顔をしている。イケメンと言って差し支えない。
ソニアはなんだかドキドキとしながらアイラの表情を追っていたが、アイラはやがてエリックから目線を放し、そっと小さく首を横に振った。
「うーん、姉妹水入らずってところかい? ノヴァ。邪魔しちゃ悪いよ、今日のところは僕と一緒に遊ぼうじゃないか」
「えっ、でも、僕はおじさんに言われて……」
「いいのいいの、ほうら、それに一番警戒してるのはこの僕のわけだろ? 君が僕と一緒に遊んでくれるなら、僕がソニアさんにちょっかい出す心配もなし! こういうのwin-winって言うんだぜ」
「な、なに言ってるんですか意味がわからない……ちょっと! 引っ張らないで!」
(い、いってしまった)
エリックはソニアとアイラの様子を見て、なぜかそそくさと退散していってしまった。ノヴァの首根っこを引っ張って軽やかにどこかへ去って行くエリックをソニアはポカンと見送る。
「……逃げたわね」
アイラは険しい顔でぽつりと呟く。
「心配しなくても好みじゃないから別にロックオンしたりしないのに。結構、遊び慣れしてるみたいね、あの男」
「そ、そうなんですか」
「ええ。あれは、品定めされたり、狙われたり、狙ったりに慣れてるわね。そして、面倒事は嫌いで面倒くさそうなことにはこんな感じでぴゅっと逃げ足の速い……」
「遊び界隈って奥が深そうですね……」
大真面目な顔をしたアイラに合わせてソニアも神妙に呟く。
「でも、エリックさんはお顔も整ってますし、結構アイラの好みにも合うんじゃ……?」
「うーん。顔はいいんだけど、ちょっと優男すぎるのよね……」
「優男だとダメなんですか……」
そうよ、と腕組みしてしかめ面のままアイラは頷く。
「アイラはどんな人だったら……」
「そりゃあ、イケメンなのは絶対でしょ。顔が良くても背が低かったら嫌。あたしも背が低いから背が低い同士じゃ締まらないでしょ。エリック、ってのももう少し背が高かったらワンチャンあるんだけどなー」
「なるほど……?」
「爽やか系じゃなくて、しっとり系だしさ。あたし、爽やかな方が好きなのよねえ」
「爽やか……しっとり……」
エリックの雰囲気がしっとりというのはなんとなくわかる気がする。
「にしてもお姉様、アイツ、間違いなく遊び人だと思うけど、平気? なんかされてない?」
「えっ?」
アイラは腰に手をあてて、ムッとした表情を浮かべる。
「お姉さまも一応人妻なんだからボーッとしてちゃダメよ!一応お姉さま見た目はいいんだから、見た目は!」
「い、いちおう、みため」
「中身は残念だけど、火遊びならそれくらいがいいっていうああいうやつああいう奴もいるんだから気をつけなさいよ!」
「ざ、ざんねん」
ノヴァにも散々『残念』と言われてるソニアは素直にショックを受けた。
そしてアイラはひとしきり男性に対してああだここだと話して帰って行った。
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