19.王族同士の会話
すみません金曜更新し忘れていました…!!
アイラはその翌日もまだティエラリアに滞在していた。あのままウロボスの家に泊まって行ったらしい。
(結構ウロボスさんもアイラを気に入っているのかしら)
二人の不思議な親しさに感心しつつ、ソニアはアイラと一緒にいつもの畑に向かった。
途中、ノヴァとも合流する。
ノヴァとアイラは当たり障りなく初対面の挨拶を交わしていた。アイラは相変わらず上から目線で偉そうな態度だったが、ノヴァがそれを気にする様子はない。
(……やはり、私に足りないのは……この堂々さ!)
ソニアは確信する。間違いなく、ノヴァは王族に相応しくないソニアのおどおどとした態度が気に入らないのだろう。
「……あんまり似てないんですね」
「そっ、そうでしょうか。あ、アイラは犬歯が尖ってるからですかね……」
「ぜんっぜんそこじゃないです」
「お姉様、ちょっとそれはさすがにどうかしてるわよ」
「え……」
ソニアはアイラとは姉妹だけあって、わりあい似ているつもりでいた。同じ金髪で髪質も同じだし、目の色だって同じだ。アイラが童顔で小柄だから、実際の年齢差よりも離れて見えるかもしれないが。
「大変ですね、姉が嫁いでしまって。あなたが婿をとることになるんでしょう?」
「ええ。婿探しはなかなか難航しそう。うちの親族はみんな似たようなもんだから、外国から良い人が見つけられないかしら、って思ってるんだけど」
「そうですね、やはり近親でよい相手がいれば縁談としては一番スムーズですが……。ティエラリアのほうがアルノーツよりも外交は盛んです、微力ですが力になれると思いますからよければ父にも相談してみては」
「あら、ありがとう。気がきくのね、ノヴァ殿下」
(……とても、王族同士らしい会話のやり取りの気が……します!)
ソニアがはずれものにされている間、閉鎖的な国ではあるがそれでも最低限ある外交の場にアイラは出席していたのだ。場慣れしているのは当然だろう。
(ううん、やはり、アイラを参考にするのは結構いい気がしますね……)
ソニアは希望を持って、アイラの横顔を見つめた。
「なんかまた妙なこと考えてるでしょ、お姉様」
「いえ、そんなことは……」
しずしずとソニアは答える。
「ふうん、こんなことしてるのね、お姉様ったら。お似合いだけど」
「えへへ、恐縮ですね……」
「嫌味だってば」
「あ、そうだ。アイラ! あの、アイラにも私と同じことをやってみてほしいんです」
「はああ? あたしに? 土仕事をぉ?」
「今、色々と『聖女』の力について調べてまして……。どうも私が種に触れたり、水をやると普通よりも生育が早いみたいなんです。アイラだったらどうなのかな、って」
「……早いですむレベルじゃないですけど……」
ノヴァが小声で口を挟む。アイラは「なんとなくわかったわ」となんだかげんなりとした顔を浮かべた。
「まっ、いいわ。あたし、今ティエラリアにお願いをしている立場なわけだし。なに? 畑に種蒔けばいいの?」
「はっ、はい! 耕すのもやってほしいけどさすがにそれは大変だと思うので……」
「……ティエラリアは野菜類を育てるのは大変って聞くけど、お姉様にそんなことさせて色々試すくらいアレなのね……」
アイラのぼやきにノヴァが頷く。
「一応、魔石を使って温室の開発もしていますが……。魔石は有限な資源ですからね。現実的な解決策ではないのです」
「でしょうね。温室で野菜の国内生産率をあげるよりも魔石を直接取引して野菜を輸入したほうがマシ、ってわけね」
「そうです。アルノーツから生産物の提供をしていただけることになったわけですが、これから先何があるかわかりませんから、自国での供給量を増やす努力は絶やさずしませんと……」
「いままで無計画に適当やってたお父様がおかげで苦しんでるわ、まっ、王様なんだからそれくらいのことはしないとね」
アイラは呆れたようにため息をついた。アイラはずっと父親にべったり甘えていた印象がソニアにはあったのだが、ソニアが嫁いで以来、ずいぶんと意識が変わったようだ。
アイラはソニアから種を受け取ると、言われたとおりに種を蒔いてくれた。
「では次はお水を……」
「はいはい」
アイラはじょうろで少し面倒くさそうに水をやる。
「……あれ、芽、出ませんね……」
「出ないのが普通なんだってば。どうせ、お姉様がやったらぴゅって芽が出るんでしょ」
「は、はい」
はー、とアイラはため息を繰り返した。
「あたしはお姉様の力をちょーーーど良い感じに使えるようにお借りしてる身分だから、お姉様と同等のことはできないわよ、どーーーせ」
「ソニアさん、そういうの、配慮が足りないですよ」
「すすすすすみません」
「いいわよ、別に、謝られるほうがムカつくし」
アイラは半目で頬を膨らませる。
「代わりにあたしは……こういうのはできるわけだし」
アイラは畑に屈み、手をかざす。
すると、みるみるうちに発芽し、葉が伸びていった。アイラは少し面倒くさそうに、根元の土をほじって、太い葉を引っ張って引き抜く。立派な大根がアイラの手にあった。
「ア、アイラ、すごい……」
「お姉様と比べたら器用さだけが取り柄なわけですもの。これくらい」
「……これが、本当の聖女の力なんですね……」
胸を張るアイラを、ノヴァが感心した様子で眺める。
「そうよ。お姉様が植物に直接力を使ったところ、見たことある?」
「資源の無駄になるので実際には見てませんが、話には伺ってます」
「そう。お姉様がやると、一気に成長しすぎて枯れるの。しかも、周りの植物まで巻き込むし。それでお姉様はアルノーツにいた頃は『災厄の力』を持った聖女と扱われていたの」
「すみません……」
「ま、でも、その有り余った聖女パワーのおかげで、力を使おうとしてなくても、勝手になんか発動してて、蒔いた種がすぐ発芽したりとかそんな風になってるわけでしょ?」
「そうみたいです……」
「なんで小さくなってんのよ」
アイラがソニアの背をバンと叩く。
「いいんじゃない? ティエラリアの食糧問題を解決したいなら、お姉様の無意識加護パワーのほうが。種触ったり水ちょっとまいただけで効果があるなら、そっちのほうが大規模に恩恵が受けられるわけだし」
「そうでしょうか……」
「だってあたし、嫌よ。全国民のためにひたすら大根に力使い続ける毎日とかさ」
「私、結構そういうの向いてそうな気が……」
だだ広い畑で一本一本大根に力を使っては収穫していくのを想像してソニアは真剣に答える。
「お姉様の性格的には向いてるんだろうけどさ、まあとにかく、現実的じゃないでしょってことよ」
呆れたようにアイラは頭を振る。
「……でも、ちょっと話が変わるんだけど、ティエラリアにいると少し力が使いにくくない?」
「え?」
「今、力を使ってみて少し違和感があった。いつもよりも意識的に出力を上げないとうまく育たない感じがあって……。お姉様は力のコントロールとかガバガバだからわかんないか……」
「あっ、でも、あの、シャルル様に力をお見せしたときに、そういうことがありました! いつもなら力に巻き込まれた植物は一気に枯れていたのに、ティエラリアだとちょっと成長したくらいですんだことが……」
「……巻き込まれで、ソレ……ね」
アイラは複雑そうに顔をしかめる。
「まあいいわ。土地の影響ってあるのかしら。ここ、大神の祝福がない国なんでしょ?」
「あ、そ、そう言われてますね」
「あたしたちの力って大神の寵愛のおかげで与えられるみたいだし、そういうことかしらね」
「多分……」
「……なるほど、大神に与えられた力だから、土地神の影響がある……と。説得力はありますね」
ノヴァは大真面目な顔でアイラの推察に頷きを見せる。
「まっ、よかったんじゃない。お姉様の過剰すぎる力がほんのちょっとでも緩和されてて」
それはそうかもしれない、と自覚がないなりに、ソニアもそう思う。
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