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番外編/シャルルとソニアとヒグマ②



「すまないな、事前に話しておくべきだった。ティエラリアの山や森にはクマが出る、と」

「い、いえっ、だ、大丈夫です! すぐに助けにきてくださいましたし!」

「でも、なんだかずっと不安そうだ。すまない、怖い思いをさせて」

「そんな! シャルル様は……その……か、かっこよかったです!」


 シャルルはオリーブグリーンの瞳を見開く。頬にわずかに赤みをさし、シャルルは「本当?」とソニアを見つめながら問う。


「そうか、俺も君にいいところ見せられたかな」

「ま、まさかヒグマを! 殴り飛ばせる人がいるだなんて思ってもいませんでしたから! ビックリしましたけど! とても! すごいなあ、と! 驚きのあまり!」

「うん?」


 ソニアは胸の前で両手をそれぞれ力強く握りしめてシャルルを熱心に見上げる。


「シャルル様にとってはたいしたことではなかったかもしれませんが、まさか、ああも拳ひとつでヒグマが宙に舞うなど……! 衝撃的で……!」

「……すまん、俺が君を驚かせたことはよくわかった。……君にそういう感じで言われるのはなんだか心外なんだが……」

「えっ!?」

「だって、君のほうがよほど規格外じゃないか。どんなにたくさん魔物がいてもあっさりと全て消し去って平然としている君を見た時、俺はいつもそういう気持ちになっている」

「ええっ!?」

「まあ、怪我もなかったし、ヒグマに恐怖心を植え付けられたわけでもないのなら、よかった。ちょっと心外だけど、君にいいところは見せられたしね」

「は、はい、シャルル様はすごい方です」

「ありがとう。君ほどじゃないけど、俺も結構強いんだよ」

(私ほどじゃないって、どういうことだろう)

 どう考えても、私はヒグマを殴り飛ばせる人には勝てませんが……? と不思議に思いながら、微笑むシャルルにソニアも微笑み返した。


 さて、とシャルルは地に伏したヒグマを振り向く。


「このままだと持って帰りにくいから捌いていこう。鍋にするとうまいんだけど、それは帰ってからゆっくりやろうか」

「は……はい」


 巨体を見下ろしながらソニアはこくこくと頷く。それからシャルルは非常に手際よくクマの皮を剥ぎ、血抜きを行い、あっという間にヒグマの巨体を解体していった。


 ◆ ◆ ◆


「俺はこのヒグマ鍋が好きなんだ。君と一緒に食べられて嬉しいよ」

「あ、ありがとうございます」

 何度かのアク抜きを繰り返し、シャルルいわく秘伝のタレという赤茶色の液体とたくさんのネギとで煮込んでできあがったヒグマ鍋。アルノーツにはクマを食べる食文化はなかった。初めての体験にどきどきとしながら、ソニアはそっと、クマ肉をスプーンですくい、口に運ぶ。

「……おいしい……!」

「だろう?」

「は、はい。思っていたよりもずっと柔らかくて! 脂がとろっと……!」

 語るソニアに、シャルルはニコニコとしながら頷く。

「外で食べるとこのとろける脂が余計に身にしみて旨いんだ。よくヒグマ狩りにでかけてはラァラと一緒に食べてたよ。まあ騎士団長なんて肩書きがついてからはそんなに頻繁にでかけられなくなってしまったけどね」

(……シャルル様は一体何歳ごろからヒグマを殺せたんでしょう……?)

 そんなことを思いつつ、ソニアは器についでもらった汁をすする。脂が溶けて、甘みの出た極上のスープだ。お腹の中から身体全体がぽかぽかしてくる感じがする。

「兄貴は脂が苦手だからあんまり好きじゃないらしいんだけど。兄貴は赤身肉が好きなんだ」

「そうなんですね、柔らかくてとろとろで、私はすごい好きです!」

「はは、俺と一緒だ。まあ俺は肉ならなんでも好きだけど」

「ティエラリアのお肉料理は種類が豊富でおいしいですよね」

 ソニアがそう言うと、シャルルは「ああ」と顔を綻ばせる。

「貴重な生きる糧を無駄にすることはないように、この地がティエラリアという国になる前からずっとみんなが一生懸命考えて、いろんな食べ方でいろんな命をいただいてきたからね」

 すっと目を細めながらシャルルは言う。

「魔物の多いティエラリアに生きる動物たちはみんな強いんだ。ヒグマは小型の魔物程度なら敵ではないし、戦う術を持っていなくとも隠れる技術に秀でている動物たちが生き残っている」

 シャルルの声には、この地に住まうものへの尊敬の念が宿っていた。

「野菜が育ちにくいティエラリアでは、肉は食の要だ。この地にたくましく生きる彼らのおかげで、俺たちもまた生きていける。だから、彼らへの感謝は忘れてはいけないんだ。それで、肉の食べ方はずいぶんとレパートリーが増えていった」

「……それは大切なことですね」

 どこか誇らしげに、そして嬉しげに語るシャルルにソニアもまた目を細め、微笑んだ。

 二人で笑みを浮かべながら、そっと器の汁を飲む。芯に熱が宿るような熱いスープに胸がいっぱいになるようだった。

お久しぶりです!

お知らせも兼ねての番外編投稿でした!


実は元々書籍の特典SS候補として書いていたのですが「女性向け作品の特典でクマを解体して食べるのはちょっとハードルが…」とのことでもう一つの糖度高めのお話が採用され、ボツとなったお話しになります!

個人的にはめちゃくちゃ気に入ってるのでWEB番外編としてアップした次第です!

クマと戦える男っていいですよね。

お読みいただきありがとうございました!


【お知らせ①】

11/10(金)に書籍が発売されます!

加筆改稿に書き下ろし番外編も頑張ったのでぜひお手にとっていただけたら嬉しいです〜!

(ページ下部に書影と出版社のリンクあり)


【お知らせ②】

発売日の前後で二章更新予定です!

毎日更新ではなくて週1投稿の予定ですが二章も読んでいただけたら嬉しいです。復興編です!

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よければお手にとっていただけると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍のラァラ可愛い… もちろんソニア&シャルルも素敵なんだけど最初に目についてしまったぜ [一言] シャルルは騎士団長なんだからそりゃがっしりしてるはずなんだけど、細マッチョぐらいのイメー…
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