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30.交戦

 ◆


 間もなくして、地響きのように獣の足音が聞こえてきた。雪山から降りてくる魔物の群れ。その数は途方もなく多かった。


「……こんなことは久しぶりだな。君がティエラリアに来てから、現れる魔物の数は減っていたから……」


 ぽつりとシャルルが呟く。


「ここは君が暮らす王都からは離れている。もしかしたら、王都周りの魔物で君の力を恐れた魔物はこの集落近くの雪山にまで逃げていっていたのかもな」

「……アルノーツの力の恩恵があるとさきほどお話しされていましたが……」

「ああ。でも、今アルノーツにいる聖女は……なぜか力を失いつつある君の妹だけだろう?」

「――アイラは、間違いなく聖女のはずですが」

「その辺りの考察はまたおいおいだな、今はとりあえず、目の前の脅威だ」


 ソニアはなんとも言えない気持ちを噛み潰す。


 妹は紛れもない真なる聖女。今もアルノーツに聖女の加護を与えているはず――。


(だけど、もしも……アイラが、本当に聖女の力を失いつつあったとしたら……)


 ――魔物のいない平和な国アルノーツに魔物の群れが襲来し、そして定着する恐れもあるのでは?


 ふと頭をよぎった想像にソニアは一人息を呑む。

 だが、そんなことはないはず。アイラは真なる聖女だ。ソニアはずっとそばでアイラの力を見てきた。


(シャルル様のおっしゃる通り、今は、目の前の脅威に集中しなくちゃ……!)


 ソニアはかぶりを振って、しっかりと目を開き、魔物の群れを見据えた。


 狼型の魔物、ハウンドドッグ。猪型の魔物、雪豚(スノーピッグ)。この二種の魔物がほとんどだった。

 ソニアは手をかざし、いつものように魔物を消し去ろうと力を込める。


「……シャルル様! ごめんなさい、さすがにこの量だと、一度に全ては屠れないようです!」

「ああ! そうだろうな、そこまで万能じゃ都合良すぎだ!」


 ソニアが消しきれなかった魔物を大槍で薙ぎ飛ばしながらシャルルは頷いた。


「連続して力は使えそうか?」

「はっ、はい……っ」


 集中し直し、もう一度力を使う。

 使えたが、先ほどよりも消される魔物の数は目に見えて減っていた。


「すっ、すみません、出力は落ちています!」

「わかった。無理はするな!」


 ラァラが地獄の底から響くような声で吠えると、魔物たちの足は止まり、その隙をついてシャルルの槍が魔物を薙いだ。

 魔物たちと距離があるうちにもう一度力を使おうとソニアは深呼吸をし、再び集中し始める。


 魔物の群れに手をかざし、そして力を放出する。


 出力は落ちている。が、まだ力自体は使えそうだ。


(……あと、二、三回、力を使えば群れの大部分はどうにかできそう……!)


 ソニアは力を使うことに集中しようと心を定めた。ソニアがとりこぼし、近づいてきた魔物たちはシャルルとラァラに任せよう。

 シャルルとラァラは戦い慣れているだけあって、無駄のない動きで魔物たちを牽制していた。


 こんなふうに連続して魔物をやっつけるための力を使ったことはないけれど、二人がいてくれることでソニアの胸が不安で満たされてしまうことはけしてなかった。


 もう一度、力を使い、群れの三分の一を消す。さらに出力は落ちていたが、回数を重ねればなんとかなる。

 冷たい息を吸い、頭を冷やしてもう一度ソニアは力を使う。三分の二。

 あともう少し、あともう一度力を使えば。


 ソニアは完全に目の前の群れに集中しきっていた。

 それはシャルルも同じだった、そうでなければ魔物の牙がソニアに届きそうなほど、群れはすでに近づいてきていた。


 ――魔物の群れとは別の脅威に気付いているのは、嗅覚に優れたフェンリル、ラァラのみだった。




「ガウッ!」


 ソニアが最後の一回、魔物の群れを消し去るために力を使ったのと、獣の甲高い悲鳴と肉の裂ける音が響いたのはほぼ同時だった。

※短めなのですが、フェンリルが傷つく場面があるので区切ります。


犬が苦しむところを見たくない方は次話は飛ばして32話からお読みいただければと思います。(32話冒頭に31話ネタバレあらすじ載せます)

次話は明日更新予定です。

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