二話:他人
やばいやばいやばい。
お父さんを殺した。
どうすればいいんだ?
僕は玄関に張り付いた血肉に戸惑いながら今後のことを考えていた。
夢ならば僕は全能なはずだ。記憶の中にあることならできる。
警察が僕を追ってきても返り討ちにすればいいだけだ。
よし、早速ゲームの続きをしよう。
カップ麺が入ったビニール袋を持って僕は階段を駆け上がった。
_____1ヶ月後
ピンポーン
カチャカチャカチャカチャ
あー、すげぇ僕こんなに自分の好きなことしたの初めて、
パーティは解散したけど、ムカついた相手に思ったことをぶちまけるのは楽しかった。
父さんはいつもこんな気持ちだったんだな。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
「うるせぇッ!」
なんだよったく。
階段をおりて玄関の覗き窓を見る。
そこには制服を着た警官2名が立っていた。
僕はドアを少し開ける。
「なんですか?」
「あー黒崎英二さんが行方不明になっているんですが、ここは黒崎さんのお宅でよろしいですかね、?」
左側にいる女の警官が僕を真剣にみる。
僕は真面目に生きてきたこの女が羨ましくて妬ましくて腹が立った。
「はい。そうですが。」
「君、黒崎さんの息子さん?お父さんって今どこにいるか知ってる?」
今度は右側にいる男の警官が口を開いた。
どこか面倒くさそうで整った面は僕のことを見下しているようだ。どうせ左の女とヤってんだろうなと僕はまた腹が立った。
このふたりの警官は-20点、ゴミだな。
「あー、父なら後ろにいますよ。」
僕はバカにしながらドアを大きく開けて真っ赤に染った玄関を見せる。
腐っている父さんの下半身を踏みながら。
「ほらっ早く歩け!」
顔も知らないお母さん、僕は今、警官に手錠を嵌められて連行されています。
前にイカついおっさんが座ってる。
アクリル板越しだ。本当に刑務所ってこんなんなんだ。ドラマで見た通りでびっくりする。パイプ椅子に座らされて質問が始められた。なんか精神疾患が疑われてるらしい。笑える。
「黒崎。単刀直入に言うけどなんで父親を殺したんだ?」
殺すつもりはなかったけど気づいたら潰れてた。はは。
前髪をかきあげて口を開く
「えーと、ムカついた、、?から、です?」
「ムカついてそこまですることは無いだろう。お前、1人の親を殺したという自覚があるのかッ!」
まーた説教かよ。おっさんが切れ始めた。ここに来るまで奴隷のように扱われてきたってのに。
「僕、喉乾きました。」
「ふざけるなッッ!!!!」
結局この後も色々質問されたが面倒くさくなって途中から無視していた。
まあ親戚が来て裁判だったり、とにかく色々あって少年院に送られた。
誰がなこうが喚こうが所詮は他人、大変な時に助けてくれるのは自分しかいないのだ。僕はそのことを今回改めて身に感じたし、欲望のままに生きることへなんの抵抗も無くなったのだ。
僕は身体検査をしたあと監房にいれられた。ちなみに髪も前髪だけ切られた。
中には3人の男がいた。
「今日からよろしくお願いします!黒崎玲です!!」
「…おう、よろしく。俺は渡辺創。18歳だ。」
丸坊主で床に寝転んでいるでかいのがそう言った。
「俺は齋藤源。源って呼んでよ。」
ロン毛でセンター分け、首筋に刺青の入った僕と同じぐらいの男がそう言った。
「硯太一です。14歳です。」
僕より少し小さい。茶色い短髪の可愛い子がそう言った。
ここでの生活も楽しそうだ。僕は早速雑談への身を乗り出したのだ。
雑談していくうちに好きな食べ物から最後に食べた食事、犯した罪の話題になっていった。
「俺は友達を刺しちゃって傷害で捕まっちゃった。」
源がそう言うと創が続けた。
「俺は放火と住居侵入だ。どうしても晴らしたい恨みがあってな。後悔はしていない」
「僕は窃盗。お金持ちが羨ましいです。」
「結構みんなひでぇことやってんだな。」
僕が笑いながらそういった。
「そういう玲は何したんだよ。」
僕はニヤリとはにかみながら口を開く
「僕は殺人。親殺しちゃった。お前らもやっちゃうかもね。はは」
所詮他人。僕は決めたんだ。自分の好きなことをするって。嫌なことは嫌というから。この頃には僕もこれが夢だなんて馬鹿なことは考えなくなっていた。これは紛れもない現実だ。