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誰も幸せになりません。
こんなことになるのなら、あなたに私の想いを伝えていれば良かった。
そう後悔してももう遅い。
教会では結婚式が行われている。
かつては将来を誓い合った彼の横に立つ花嫁は私ではない。
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「ルーナ。誕生日おめでとう。早速だが、婚約が決まったよ。」
そうお父様に言われた私は胸をときめかせていた。
「お父様、それって!」
「そうだ。イーサンだ。」
「あぁ!ありがとうございます!こんなにもうれしいことはほかにないわ!」
そういってはしゃぐ私をお父様とお母様は微笑ましそうにみていた。
私、ルーナとイーサンは小さなころからの幼馴染だった。
領地が隣同士であったことと、お互いの両親がとても親しかったためだ。
イーサンのほうが2つ年上だが、物心がつく前からずっとそばにいたことでお互いに恋心が芽生えるには時間がかからなかった。
『ルーナ。大きくなったら僕のお嫁さんになってくれる?』
『もちろんよ!大好き!イーサン!』
そういうとイーサンは私に口付けをした。これがイーサンとの初めてのキスだった。
大きくなったら結婚する、それは幼い頃からの約束だが、私が16歳を迎えたことで正式に婚約することが決まったのだ。
「後ほど、カリーナたちもイーサンとこちらにいらっしゃるそうよ。」
お母様はそういった。カリーナとはイーサンのお母様だ。
私はこの日が来るのをずっと心待ちにしていた。
__コンコン
「失礼いたします。お客様がお見えになりました」
「きっとイーサンたちだわ!私お出迎えにまいります!」
「こらこら、そんなに急がなくても」
そんなお父様の声を背中に、私は玄関へ急いだ。
「マクレガー様!ようこそいらっしゃいました!」
「やあ、ルーナ誕生日おめでとう。イーサン、ほら。」
「ルーナ。誕生日おめでとう。今日という日を無事に迎えられて本当にうれしいよ。これでやっと正式な婚約者になれたんだ。ずっとルーナのこと大事にする。これからもよろしくね。」
そういって、イーサンはピンクのバラを4本くれた。
「ありがとう!マクレガー様もありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」
イーサンとの婚約からしばらく、私たちは幸せな日々だった。思えば、この頃が一番幸せだったのかもしれない。
婚約から1年経ったある日、私と両親は王宮へと招集がかかった。
王が謁見する部屋にはなぜか顔色の悪いマクレガー様とイーサンがいた。
「皆の者、面を上げよ。此度は突然申し訳ない。」
そういって頭を下げたのだ。
なんでも、我が国の貿易相手である隣国の末の姫がどういうわけかイーサンを見初めてしまったらしい。
イーサンには婚約者がいると伝えたが、かの国の王は姫をいたく溺愛しており姫の18歳の年には婚姻を結びたいと、どうにか姫の恋をかなえてほしいと。叶えられれば、今後貿易で優遇すると叶えられなければ、今後を考えねばならぬとのことだった。
「恋愛結婚がほとんどの我が国。我と妃もそうであったためすでに婚約しているもの同士を引き離すことはとても心苦しいがこの国の穀物の6割をかの国から輸入している。今後を考えるとまで言われた以上どうにか前向きに考えてはもらえんだろうか。」
といわれたが頭が真っ白だった。
「ありがたいお言葉ですが、まだ二人も婚約を結んだばかりです。今婚約を破棄するとルーナの将来にも影響します。隣国の姫君は14歳だったと記憶しております。姫君が成人するまでの2年間猶予をいただけませんか。」
「…本当にすまないことをした。」
そうして幸せだったはずの生活が2年という限られたものになってしまった。
それからというもの、私とイーサンは婚約を解消はされなかったものの今まで通りには過ごすことを許されなくなった。
まず、隣国の王族が嫁いでくるため、イーサンは婚約までの2年で隣国のことや言語について学ぶ必要があったため必然的に私と会う時間は減っていった。
そして私と会うときはなにか間違いが起きてはならないからと必ず王家から派遣された衛兵と文官が同席することとなった。会話は記録され、手紙も満足にかわすことはできなかった。
それでもイーサンは私への愛情を隠そうとはしなかった。
言葉にできない代わりに目線で、手紙に書けない代わりにバラの花を4本。
つらくもあったが、その心遣いがうれしかった。
だけど次第に私はいつかイーサンはほかの女性のものになると思うと心を返すことができなくなっていった。
そして2年の月日はあっという間に過ぎ去っていった。
2年ぶりに私や両親、イーサンたちは王宮へ呼ばれた。
「本日、婚約は白紙になる運びとなりました。最後にお二人には少しばかりですが時間をとの王命です。10分程度になるかと思いますが、我々も席を外します。お二人には本当に申し訳のないことをいたしました。」
王家から派遣されていた文官と衛兵は部屋を出、最初で最後の2人きりの時間となった。
「ルーナ。僕の気持ちはずっと「なりません。イーサン、いえマクレガー様。私への想いなどどうか捨ておいてくださいませ。姫君をどうか幸せにしてください。私はもう疲れてしまったのです。もう、婚約者でもなくなります。どうか名前で呼ぶのは今日限りとしてくださいませ。長い間ありがとうございました。どうかお幸せに。」
そういって私は家族とともに自領へと戻る馬車に乗った。
「ごめんなさいルーナ。私たちではどうすることもできないまま。…だけど本当に良かったの?」
「…良かったのです。イーサンがどれだけ私を好きでいてくれてももう一緒にいることはできません。それに姫君はイーサンのことお慕いしています。私への想いは姫君への裏切りになってしまいます。」
これでよかったのだ。そう自分に言い聞かせたが、無意識にも涙が頬をつたう。
「…ルーナ。」
お父様とお母様は何も言わず私を抱きしめてくれた。
それからすぐに婚約が結ばれ、姫君は我が国へ来るはずだった。
しかし、姿を現すことはなく、婚姻を結ぶ予定のさらに2年後の18歳の年それも結婚式当日にようやく我が国へと嫁いできた。
そのため、かの国の姫君とイーサンの婚姻は新聞や社交の場でも大きな話題となった。
なぜ、姫君が我が国へと来るのが2年も遅れたのか。
それはどうやら、この2年の間に姫君の想い人はイーサンではなく違う人になってしまったようだ。
相手はかの国の騎士。
一目惚れの相手とは2年会えず、厳しい教育を受ける中常にそばで支えてくれた騎士への恋心。
我が国へ外交の交渉をした手前、この話は2年間我が国へ伝わることはなかったのだ。
だが、姫君は婚約を結んだ場で、こんなことを平然と口にしたのだ。
「わたくし、確かにイーサン・マクレガーと結婚したいと申しました。ですが、心はもうございませんの。わたくしの後ろにいるユーインに心も体も一生捧げると誓いました。ですがユーインは爵位を持ちません。ですので婚約を結び、婚姻もイーサン様と行います。白い結婚としてくださいませ。」
その場にいた我が国の者だけでなく、かの国の王族やユーインという名前の騎士でさえ顔を真っ青にさせていた。
こんな話をしたにもかかわらず、姫君とイーサンの婚姻は結ばれてしまったのだった。
こんなことになるのであれば、私の想いをイーサンに伝えていればよかった。
そうすればもしかしたら…。
そんな思いばかりが頭に浮かぶ。だが口に出すことはできない。
どうかイーサンが幸せになりますように。そう願うしか私にはできなかった。
次の話はIFルートになります。
もしもルーナが想いを伝えていればどうなっていたのか。