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8 港町へ

 

「それじゃ、行ってらっしゃ〜い!」

「ソニア姉様もお元気で」


 姉様が気を遣ってくれて、服の汚れも落とすことができた。


「ねえクロエ、昨日の夜何かしてた?」

「え? 昨日? な、何かあったかしら?」

「いや…なんかギュウギュウされたような気がして…」


 えっ、もしかして起きてた!?

 昨日あったことって言ったらそれは――


 ♦♦♦


 なんだか今夜は寝れない。

 ハンターとしてやっていけるかっていう不安もあるのかもしれないし、はたまた何か別の…


「クロエ、まだ起きてるかしら~?」

「はい? 一応起きてますけど…」

「よかった~、私寝れないのよ。こういうの久しぶりだからかしら。それよりも隣の寝顔を見てくれない?」


 ファリスを見ると、すごくかわいい寝顔で静かに眠っていた。ソニア姉様が近くのスタンドを点けているのに意に介してない様子。


「この子、こうして見るとまだ幼い少女みたいだけど、立派なハンターなのね~」

「はい、ファリスに比べたら私なんて下の下以下です」

「あらあら。それよりもあなた、ファリスのことが気になっているんじゃない?」

「え? ま、まあ、かわいいなぁ…とは」

「抱きついてみたりとか…したくない?」


 えぇっ!? た、たしかにしたいけど、そんなことしたら流石にファリスだって起きるだろうし、寝てるところを起こしたら怒られるって!

 口に出すよりも早く、ソニア姉様はファリスのベッドに入り込んでた!


「ぎゅ~っ! ほら、全力でやったけど起きないわよ?」

「んぅ……すー……」


 うわ、全然起きない。ってことは……ぐひひ、これは好機! 昨日はいろいろ気にして手を出せなかったけど、今日は抱き枕にしてやろうじゃないの!

 私も潜り込んでソニア姉様とファリスを挟み込んだ!


「ふふ、あなたそんなに抱きしめちゃって、ファリスちゃんのことが好きなのかしら~?」

「えっ…いえ、その……」

「いいのいいの! 思う存分やっちゃいなさい!」


 ああ、抱き心地最高…癖っ毛の髪も小さくて鍛えられた身体も含めて、本当に心地いい…抱いてるだけで幸せが溢れてくるみたい。

 もうめちゃくちゃに眠くなるまでギュウギュウした。


 ♦♦♦


 流石にこんなことファリス本人には言えないわよね。


「どうしたの?」

「な、なんでもないわ。それよりどこに向かってるんだっけ?」

「北西の港町だよ。そこに行けば道中でガイザロスの痕跡を拾えたりするかもね」


 ガイザロス…そうだ、あの時ファリスが戦ってからまだ一度も姿を見てない。

 近くにそれらしい反応はない。っていうか、居たらファリスが気が付いてるはずだし、一体どこへ?

 結局、遭遇することなくあっさりと港町には辿り着いた。


「ドルセット…さすがは大陸の玄関ね」

「遠征で来たことあるの? でも妙だね、結局ここまでガイザロスと一度も遭遇してない」

「そうね、方向変えて逃げたのかしら?」

「どうかな、仮に討伐か捕獲がされたならクエストボードに…まだ張り出されてないね」


 町内のボードに何もないってことは、まだガイザロスは生きているってことね。

 すると、港の方から人々が次々と走ってくるのが見えた。

 どうやらかなり焦ってるみたい?


「あの、何かあったんですか?」

「港に海の悪魔が出た!」

「悪魔?」

「サザルゲニアだよ! その腕章を持ってるってことはあんたたちもハンターなんだろ!? どうにかしてくれ!」


 町人の男性はそう言って走り去っていった。


「サザルゲニア…乱海竜だね」

「どんなやつなの?」

「名前の通り水棲生物なんだけど、水を圧縮したカッターとか粘性の液体とかを吐いてくる…って聞いた」

「戦ったことはないの?」

「うん。楽しみだね」


 なんだか嬉しそう。

 とりあえず、現場にたどり着くとそこには既に何人かのハンターが交戦してる!


「加勢します!」

「ん? レザー? やめとけ、下がってろ!」

「え…?」

「レザーじゃ危険だ。ここは俺たちに任せとけ」


 階級のことね! それだけでこっちのことを…でもたしかに、この男のハンターの人はすごい闘争心を放ってる。効果音を付けるとするなら、ゴゴゴゴ…って感じの。


「あの人、シルバーだったね」

「えっ、あっ! ほんとだ…」


 銀色に輝く腕章ってことは、私たちよりもずっと上の階級の人だ。しかも彼1人だけじゃなくて、銀色がもう1人と、銅色が2人居る。


「おいカッパーたち、水圧カッターは絶対に躱せ! 死ぬぞ!」

「「うっす!」」


 みんな上手い…当然だけど、私なんか足元に及ばない。

 水圧カッターは地面を容易く引き裂いてしまう威力を持ってるのに、銀色の人はそれに加えてファリスの言ってた粘性の液体も綺麗に躱してる…。


「グレン、もっと引きつけてくれ! そしたらアタシが決める!」

「わかった!」


 弓を持ったもう1人のシルバーからそう頼まれて、グレンさんはブロンズハンターたちの前に立った。


 ギュオオオオ!!!

 咆哮すると同時にサザンは水圧カッターを吐き出す…! 躱さなければ死ぬ一撃を前に、盾を傾けて構えて受け止めた!


「よし!」


 弓の人から放たれた全集中の一矢がサザンの頭部を貫く――その寸前だった。

 突如として横から何か黒い存在が遮って、サザンへ横から殴り込んできた!


 ギシャアアアァァァ!!! この咆哮、聞き覚えがある!


「こ、こいつは!? ぐあっ!」


 特徴的な逆鱗と大柄な体格を以ってグレンさんを吹っ飛ばした!


「ガイザロス!」

「ち、ちょっとこんなところで!? ファリス、私たちも加勢すべきじゃない?」

「……」


 まずいわ…。なんていうか、王都で遭遇した時よりもすごく強くなってる気がするっていうか…。

 でも、ガイザロスは何を思ったのかこっちを放って、トドメを刺したサザンに食らいついてる。


「な、何をしているんだあいつは!?」

「モンスターがモンスターを捕食するなんて珍しい光景…」


 シルバーの2人ですら見たことないってことは、これは異常事態!?


「どけ、貴様ら!」


 その声と共に、誰かが私たちを強引に割って突っ込んでいく。

 背負っていた巨大な剣を抜き、地面にガリガリ擦りながらガイザロスの脳天目掛けて斬り上げた!


 ギシャアッ!

 悶絶する声と共に、斬撃というよりは鈍器で殴ったかのような鈍い音が響いて、いくら食事中でも中断するしかなかったようね。


 だけどそれが頭に来たのか、強靭な前脚を使って大剣のハンターへ一撃を…受け止めた!?


「こんなもんかよ!? 笑わせるな!」


 受け止めている大剣を滑らせ、全身を使ってぐるんと回って繰り出した強烈な回転斬りがガイザロスの頭にクリーンヒット!

 またも怯まされたガイザロスは、身の危険を感じたのか口から粘液を吐き出した!


「あれってサザルゲニアの使ってた攻撃!」

「もしかして、食べた相手の技が使えるってこと!?」


 その様子に誰もが驚いたけど、大剣のハンターは全く動じず更に追撃を仕掛けようとする。

 しかし、ガイザロスは海へと飛び込んだ!


「あ、あれ? なんで海に…?」

「クロエは気づかなかった? さっきガイザロスの手足が変化して水掻きとヒレが生えてきてたんだよ」


 ハンターに夢中で全く気がつかなかった。

 ファリスの言う通りならあのまま海に逃げていけるのね。やっぱり、恐ろしいモンスターだわ……。


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