7 お泊り
ゲレンデプスとの戦いから戻ってきたボクたちは、村の入り口でソニアさんと合流した。
「あら、お帰り~。どうだったかしら?」
「姉様、なんとか上手くいきました。こっちは見ての通りだけど……」
「あらあら、すごくべとべとしてるわね。何があったの?」
「ゲレンデプスに私が丸呑みされたんですよ…。死ぬかと思いましたけど、ファリスが助けてくれたんです」
あのモンスターがあんな攻撃をしてくるなんて見たことなかったから、完全にボクも失念していたな……。
「そうなの~。でもよかった、クロエが無事で本当によかったわ~」
「まだ死ねませんからね。絶対にフランの陰謀を暴いてやりますから!」
「その意気だわ! じゃあ早速、宿に行きましょうか」
クロエ、さっき死にかけたのにまだ諦めていない。やっぱり、彼女は強い心を持ってるんだね。
宿に場所を移したボクたちは、早速シャワーを浴びてきた。
「……なんで一人ずつ入らずにみんな一斉にシャワーに入るの?」
「いいじゃない、これなら背中もちゃんと洗えるでしょ?」
「ちょ、ちょっと狭い……」むぎゅ
二人ともボクよりずっとスタイル良くて大きいから身体に挟まれる。
このシャワー室、入れてせいぜい二人位が限界だと思うんだけど……。
「ファリス、服脱ぐとさらにちっちゃいわね…。本当はいくつなの?」
「ぼ、ボクは一応15歳だよ。いつもちっちゃい子扱いされるけど、成人してるからね」
「じゃあいっぱい食べて大きくならないとね~」
肉ならいつも食べてるんだけどなぁ……きっと栄養がどこか別のところに行ってるんだ。
「二人の服は洗濯して明日には使えるようにするから、その間はこの服を着てね」
ソニアさんから貰ったのは普通の無地の服だった。いつも身に付けているあのハンターの服以外を着るのは久しぶりだなぁ。
「割と地味な服装ね……。ファリスはいつも通りに見えるわ」
「ま、まあね。いつも着てる服とあんまり変わらないし」
違うのは着てる感触だけかな。といっても、ボクたちハンターは服の下に衝撃吸収のインナーを着てるから本当に微々たる差だけどね。
夕食を食べた後、クロエが何か思いついた顔をしていた。
「そうだ。ゲレンデプスの肉をちょっと味見してみるわ」
「え? 今ここで?」
「キッチンとかはないけど、コンロ替わりなら私が居るわ」
「クロエは手から火が出せるものね~。お姉ちゃんも食べていいかしら?」
「もちろん!」
剥ぎ取った肉の量は割と多かった。全部で300グラム近くはありそう……。
「これだけあれば重さで足腰が鍛えられるかと思ったのよ」
「な、なるほど……」
早速一口サイズに切り取って、クロエが焼き上げて、受け取ったボクらは口に運ぶ。
「……うっ、あ、脂身が多いわね~。私はちょっと慣れないかも……」
「確かに、脂肪分が多くて肉の部分が少ないね」
これは癖がある……。
「なるほどね、二人の言う通りだわ。これは工夫が必要かも」
この場じゃ調理できないけど、クロエはどんな料理に仕上げるんだろう。
癖があるとはいえ、きっとボクがいつも食べてる物より絶対美味しいはずだよね!
すると、外からノックが聞こえた。
「はーい」
ドアが開くと、そこには受付で見た女の人が居た。
「失礼します。あの、ゲレンデプス討伐のクエストを達成していただいたのはあなた方でしょうか?」
「ええ、私とこっちのファリスが……」
「ありがとうございます。おかげで友人が無事にまた働くことができるようになりました!」
ん……? あ、そうか、ゲレンデプスが炭鉱夫の障害になってたんだっけ。ボクたちが討伐したからその人たちが働けるようになったんだね。
「些細なお礼ですが、こちらを受け取っていただけますか」
野菜を手渡された。これは人参?
「わぁ、エノクニンジンだわ! いいんですか? こんな高級品……」
「いえいえ。私にはこれくらいしかお礼ができないので……では、失礼しました」
ただのニンジンじゃないってことはボクでも分かった。
「これ、王都で買うとすごーく高いはずなのよ。それこそ、10本で家が建つくらいにね」
「そ、そんなに!?」
「クロエ、あなたならきっとおいしく調理できるはずだわ」
ボクもソニアさんと同じ意見だな。料理上手なクロエなら、きっと美味しい料理に仕上げてくれる!
クエストっていうのは人助けでもあるから、こういうことがあると嬉しい。
「あら? ファリスちゃん、目がトローンってしてる」
「あぁ、ちょっと眠くて……」
「じゃあそろそろ寝よっか。 ベッドは三つあるから、それぞれ一人ずつってところかしらね」
ふぅ、寝床に着くと、途端に瞼が下がってきた……。