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5 凌駕すべきは恐怖心

 

 しばらく進んでいたら夜も更けてきたし、森の中だけど野営をすることにした。


「とりあえずは焚火ね? 着火は魔法でやっちゃうから任せて」

「分かった」

「…そうだ、食べ物どうする? 私、なにも持ってきてないのよね」


 食べ物か…非常用に用意した物なら一応持ってきてある。


「これはお肉?」

「うん、さっき倒したジャギュアたちからいくつか剝ぎ取ってきたんだ。…口に合うかな?」

「ジャギュアの肉は初めて聞いたわ。私たちの間だと、肉食のモンスターは悪食だって忌避されてたから」


 やっぱりアルキノスみたいな草食モンスターがメジャーなのかな。肉食でもそんなに悪くはないと思うけど。

 運んできた枝木をクロエが着火し、ジャギュアの肉を焼き始めた。火打石とかマッチとか用意しなくていいからすごく楽だね。


「…ねえ、私って足手まといかな?」

「え? 急にどうしたの?」

「だってあのとき、私は斬るのに夢中で気が付いたら吹っ飛ばされて、その後全然動けなくて…」


 ジャックスのときのこと、気にしてたんだね。


「いや、初めての大型相手によく戦えたと思うよ。感情と動きの制御を同時にやるのは口で言うほど簡単なことじゃないからさ」

「でもあのとき、怖かった。死地にいるってあんなに怖いんだって初めて知ったわ。あんなことがこれからもあると思うと私…」

「…そっか、その感覚は間違いじゃないよ。誰しもが通る道だと思うし、ボクもそう思ったことがある」

「ファリスでさえも?」


 脳裏に師匠からの教訓が呼び起こされる。


「まあね…これは、師匠が言っていたことなんだけど、「恐怖を克服することがハンターの第一歩」なんだって」

「ファリスのお師匠さん?」

「うん、ボクのことを育てて、ハンターとして師事してくれたすごい人なんだ!」


 あの人は……


 ♦♦♦


「はぁ、はぁ…もう限界です……」

「よし、じゃああと一回だ!」


「はい…!」

「よーし、よく頑張ったな! これでお前は一歩先に進んだぞ!」


 ずっとずっと一緒に居て、誰よりもボクのことを愛してくれた大好きな人だった。

 毎日のように山登りと山下りを繰り返して、いろんな武器の練習もした。そして、練習の時には決まってボクが限界になると「あと一回!」と言って、限界から一歩先を行かせてくれた。


「いいか、ファリス。戦いで最も大事なのはメンタルだ」

「めんたる?」

「ああ、どんなに身体が仕上がっていても、メンタルがダメなら全てダメになる。だから、まずは恐怖を克服することだ」


 恐怖を克服すること、それは決して簡単じゃなかったよ。

 特に大型モンスターは、ボクの何倍もある体躯に、威圧する眼、発してくる殺意は本当に怖い。


「ひぐっ…ごめんなさい……怖くてボク、何もできなかった…」

「よしよし、怖かったろう。…その恐怖を克服する方法を教えてなかったな。それは「闘争心を恐怖より大きくする」ことだ」

「闘争心を…?」

「恐怖を超えるんだ、それができれば何も恐れることはない。「相手に気圧されるな、恐怖に屈するな、闘争心を燃やし続けろ」ってことだ」


 ♦♦♦


「なるほどね、恐怖に打ち勝つためにどんどん殺意とか、向上心とかを解放していけ…ってことね?」

「うん。危機的な状況ほど、それを忘れちゃいけないよ。…あっ!」


 話をしているうちに、肉はすっかりこんがり焼けていた。


「も、もう食べよう、焼きすぎると焦げて不味くなっちゃうから」

「そうね!」


 味は悪くない…けど、やっぱりクロエに作ってもらったあの時の料理には敵わないなぁ。


「割とアリなんじゃない?」

「ほんと? 君の口に合うか気になってたよ」

「ええ、単純に焼いただけだから素朴な味で臭みも残ってるし、肉食竜だからかあまり量も多くないけど、ちゃんと料理できればそこそこの味にはなると思うわよ」


 ありゃ? 思った以上に高評価だ。


「そ、そっか…ボク、料理できないからこういう焼くことしか知らないんだよね」

「あら、それなら今度教えてあげるわよ?」

「ほんと? でも、ボクにできるかな…?」


 教えてくれるのは嬉しいけど、そんな華やかなことが地味なボクがやっていいのかな? それに、不器用だし、そのせいで動きがシンプルなハンマーしか使えないんだよね…。

 そんなことを考えてると、クロエが近づいてきて…


「わわっ!?」


 髪の毛をわしゃわしゃされた。


「あなたを最初に見た時からやってみたかったのよ。こんな面白いくせっ毛してるんだから」

「ど、どういうこと?」

「心配なんかしなくていいわ。あなた、「自信がない」って顔に書いてあったもの」


 えっ、ボクってそんなに分かりやすいのか…。


「あなたみたいに丁寧に教えられるかは分からない。だけど、どれだけ時間がかかっても、何度忘れても大丈夫。私の命を二回も救ってくれたんだから、教えるくらいお安い御用よ!」

「…ありがとう、おかげで安心したよ」


 やっぱりボクって、心配しすぎなのかな。

 師匠以外にここまで仲良くなれた人もいなかったし、なんていうか…ちょっと胸が熱い。


「そろそろ寝ましょうか。早く起きて、早く向かいましょ!」

「そうだね。…あ、寝袋が破れちゃってる」


 ポーチに収まる超折り畳み式の寝袋、使い古してもう破れてたの忘れてた。なんで買ってくるのを毎回忘れるかな…。


「じゃあ私の寝袋に一緒に入りましょ?」

「え、ええ!? いいのかな…っていうか、入るかな?」

「ちょっと大きめの物を間違えて発注しちゃったのよ。ファリスは小さいから入るんじゃない?」


 クロエが寝袋を展開する…ホントに大きい。ボクが3人は入れそうな大きさだ。


「ほら、隣に入って!」

「うん…」


 一つの寝袋に二人で入るなんて初めてだよ。クロエの綺麗な太ももが当たるのを感じる。


「火を点けておけばモンスターは来ないのよね?」

「うん。モンスターは火に寄りつかないからね」


 それにしても綺麗な人だなぁ…身体に触れてると改めて分かる。

 …そうだ!


「わっ!?」


 クロエの白い髪をなぞってみた。


「さっきのお返しだよ。すごく綺麗な髪だから、触りたいって思ってたんだ」

「もう…ふふふっ、良い夢見てね?」

「あははっ、お休み!」


 なんだか楽しいなぁ。


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