4 特訓と闘争心
現場に駆けつけると、親のアルキノスが傷だらけになりながらも8匹のジャギュアから子供を死守している。
弱者を寄ってたかって攻撃するなんて卑怯なヤツらね!
まずは早速剣を抜いて…!
って躱された!? 気配を察知されたのか、ジャギュアに攻撃が当たらない!
「クロエ、まずは相手の動きをよく見て! 一回の攻撃が外れても動きを見ながら次を合わせるんだ!」
「わ、分かってるわ!」
ファリスの言う通りだけど、動く目標を相手にするのは修行じゃやってなかったわ…私って浅はかね!
一撃、二撃と躱されたけど、なんとか3発目が当たった!…けど、これだけじゃまだ倒れない!
それに引き換え、ファリスはハンマーを軽く振りながら後ろからの攻撃にも柄で対応してる…何よあれ、あんな大きな武器を使ってるのに全身に目がついてるみたいな動きしてるじゃない!
私だって足手まといになりたくないのに!
……結局、全部ファリスが倒してくれて、アルキノスの親子はこちらを見て何か言いたげそうにしながら、すぐに去っていった。
「ふぅ、こんなものかな」
「な、なんでそんな余裕なの?」
「…クロエ、もしかして闘争心あまり扱えてない?」
「聞いたことはあるけど、根性論みたいなやつでしょ?」
何かハンターには重要だとかは聞いたけど、メンタルがどうのこうのっていうヤツだったはず。
すると、ファリスは苦笑いしながら首を横に振った。
「ただの根性論じゃないよ。心に殺意や怒りとかの攻撃的な感情とか、強くなりたいっていう向上心とか、行動原理になる感情を圧縮するんだ。そうすると身体がブワーって熱くなって、すごく強くなるんだ」
感情を圧縮? なによそれ、まるで想像がつかないわ。
「とりあえずは、心に溜まってる怒りとか全部吐き出すつもりで戦えばいいよ」
「八つ当たりみたいな感じね? それはストレス発散になりそうじゃない」
「まあね。そのうち、自分で闘争心を制御できるようになるはずだよ」
私がファリスみたいになれるのかしら。とてもそんな気がしないけど…。
「まあここで話していてもしょうがないから、実際にやってみない?」
「え? ええ、そうね…」
するとファリスは遠くにいるジャギュアたちを指さした。
それから私の特訓が始まった!
「でぇい!」
「まだまだ! ちゃんと動きを先読みして!」
「はぁっ!」
「もっともっと! 盾を使うのも忘れずに!」
ほ、本格的! 立ち回りまでみっちり教えてくれるじゃないの! あの童顔でかわいいファリスがこんなに詳しくやってくれるなんて…応援してくれると力が湧いてくるわ…!
「ぜぇ、ぜぇ、もう限界……」
「じゃああと一回! あと一回だよ!」
半ば身体を引きずりながら放った一撃でジャギュアが吹っ飛ばされ、そのまま地に着くと逃走していった。
「よく頑張ったよ! 動きはまだちょっと調整が必要だけど、筋はすごくよかったよ!」
べ、べた褒め! 嬉しい、ファリスかわいい……。
「あの難しいって言われてるその剣盾を使ってるのも合ってるんじゃないかな?」
「えっ…? この武器ってそんなに難しいの?」
「うん。ボクはもう大槌しか使えなくなったけど、剣はリーチが短いし、小さい盾も上手く使わなきゃいけないから使いこなすのはとても難しいよ」
パトリック、話が違うじゃない! 一番使いやすい武器を使ってみたいって言ったのに、剣盾は難しいなんて…! でも、ファリスに笑顔で褒められるのも悪くないわ。
「……ん? 何か来る」
私は何も気が付かなかったけど、ファリスは平原の奥にある林を見つめていた。
そこには何か大きな…ジャギュアより2、3回り大きい竜っぽいのが現れた!
「あれはジャックス! ジャギュアたちの親玉だね」
「ジャックス…私も知ってるわ、大型モンスターなのよね?」
「うん。あの様子だと、子分のジャギュアたちがやられて出てきたってところかな?」
仲間の仕返しをしに来たってことかしら。
バオーッ! と高らかに鳴き声を上げると、周囲から何匹もジャギュアが集まってきた。
「どうする、挑戦してみる?」
「えっ……そうね、物は試しよ!」
初めての大型モンスターにちょっと戸惑ったけど、此処で引き下がってちゃダメね!
恐れ多くも武器を構えて、ジャックスと相対する…!
「さっきと同じことをすれば大丈夫だよ」
「分かった」
すぅっと息を吸い、取り巻きのジャギュアはファリスに任せて斬りこむ!
まずは相手の動きをよく見て、躱す! 尻尾の薙ぎ払いを下に抜けて、まずは胴へ一撃!
今度は横から頭突き! これは避けきれないから盾で防ぐ…っ!
頭突きは防げたけど、すごい力…! ジャギュアなんて比にならない力持ちね。
だけど、攻撃の後は隙がある! 頭の動きに合わせて、動きを先読みしてちゃんと当てる!
ギャオンッ!
顔に見事に入って、ジャックスは怯んだ! 今のうちに一気に攻める!
闘争心を……フラン、母様、そして私を裏切った使用人たち……このおぉっ!!!
心がボゥッ!って熱くなって、私は斬ることに夢中だった。
ダメージは、切り傷はさっきよりも確実に深い! あと少し、あと少しでっ……!
「クロエ! 相手をしっかり見て!」
「はっ!?」
気が付いたら、傷を負いながらも体勢を立て直したジャックスから渾身のタックルが…回避もガードも間に合わない!
「うぐぅっ!」
痛い…!! 吹っ飛ばされる時の痛みってこんなにすごいの!?
ハンターの服って生半可な攻撃じゃ傷一つ付かないけど、それでも衝撃がお腹や胸にすごく響いてくる! は、早く、起きなきゃ……って、目の前にはジャックスが血を流しながら睨んでる…!
(し、死ぬ! 死ぬの!? まずい! 早く動かなきゃいけないのに、身体が動かない…怖い!)
次の瞬間、ジャックスは横から頭をぶっ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「ケガはない?」
「はぁ、はぁ……ふぁ、ファリス?」
「うん、ボクだよ。大丈夫、もうジャックスは動かないよ」
いつもかわいいファリスの顔は、すごくたくましい勇者みたいだった…。
差し伸べた手を取って起き上がると、ちょっとふらついた。
「平気? どこか痛いところはない?」
「大丈夫、ちょっと足を捻っただけよ」
「そっか。じゃあこれを使って」
ポーチから治癒薬をくれた。この薬の使い方は私も知ってる、患部に塗っておけばあとは自然に完治する優れものね。
「ありがとう…あ、もう夕焼けになりそうね」
「うん。今日は村とか街とかに着くかは分からないけど、とりあえず進もうか」
はぁ…私、早速ファリスに救われちゃった…。