28 暴かれる真相
私たちの倒したガイザロスは「帝竜」の名称が付いて、その能力の全貌が「モンスターを操ること」だと決まったみたい。だけど、依然として謎が多くて、戦ってる最中にファリスが動けなくなったこともアイツの能力なのか…まだまだ分からない。私が持っているこの珠も。
「クロエ、それは…?」
「あ、ファリス。なかなか言う機会がなかったんだけど、これ拾ったのよ」
「一体どこで?」
「倒したガイザロスの身体から、ロイが何か見つけたみたいで呼んでいたの。そしたらこれが…」
「…ん?もしかして、極稀にモンスターの体内で生成されるっていう、「宝玉」じゃないかな?」
宝玉?
「すごいよ! それって滅多に手に入らないはずだし、増してや新種の災害級からだなんて!」
「そ、そうなの? でもこれ、何か変なのよ」
私はパトリックから受け取っていた粉の入った瓶を取り出して、宝玉に近づけた。
そしたら粉が光りだした!
「えっ…ひかっ……」
「……ファリス?」
ファリスが急に静かになってこっちを見つめてる…。
「ファリス? ねえ、ちょっと? 返事して?」
「はい……」
え? ええ? な、なにこれ? どうなってるの?
「ちょっと、大丈夫?」
「はい、大丈夫……」
なによ、一体どうしたっていうの? まるで人形みたいじゃない。
この粉が光ったと同時に急に人が変わったっていうか、人格が抜けたみたいな……っ、もしかしてこれって!?
珠を粉から離すと光が止まって、ファリスがパチパチと瞬きをした。
「…? あ、あれ?」
「ファリス? ファリスよね?」
「え、う、うん…」
これってやっぱり…だとしたら、だとしたら…!
「ファリス、明日一緒に私の家まで来てくれない? 確かめたいことがあるの!」
「え、わ、分かった」
一晩を宿で過ごして、朝早くから私たちはパトリックと合流して王都の郊外、私の家だった場所に着いた。
「すごい、話に聞く通りの豪邸だね」
「やっぱり門番は居ますね。そう簡単には入れてくれないかも…」
「操られてるかもしれないし、面倒なことになる前に…!」
ハンターとして培った経験で私は門番二人を速やかに当て身で気絶させて、門を通った。
「や、やりすぎじゃない?」
「どの道私が来てることはバレるかもしれないけど、フランがなにをしてくるかは分からないわ」
「それもそうですね…」
最悪、父様たちも……。
注意深く玄関を開けると、ソニア姉様がすぐそこに居た。
「あら? もしかしてクロエ!? それにパトリック!」
「お久しぶりです。ただいま戻りました…単刀直入ですが、フラン姉様は何処ですか? すぐに会って話をします」
「あらあら、そんなに焦ってちゃ上手くいかないわよ? ゆっくり行きましょう」
ソニア姉様はいつもの調子? いやでも、何かが変。やっぱりこの館全体が何か異様な感じがする。
だってこの宝玉が微かに反応しているもの。フランの元に近づくごとにそれは強くなっている気もする…!
「クロエ、どうして帰って来たの?」
「…試したいことがあるんです。それが上手くいくかは分かりませんけど…」
長話をすることもなく、私の身体は緊張していた。絶対に何かがあると確信しているからか、この方法が間違っていたとしたら…そんな不安が脳裏をよぎる。
「大丈夫だよ」
ファリスが小声でそう言って、手を握ってくれた。
…そうだ。これで私は元に戻れるかもしれない。帰れるかもしれないんだ!
決意を固めると同時に、フランの待つ部屋の扉が開いた。
「戻ってきたみたいね? 恥知らずが」
部屋の奥で…あの香炉を片手に、玉座に座る王みたいにこっちを見下ろしている。
「何の用? あなたの居場所はもうこの場所にはないの。ママもそう言ってたでしょ? パパもソニア姉も止めなかった。そうでしょ?」
「もちろん」
後ろから声…ソニア姉様!
「クロエのしたことはやっぱり許されることじゃないもの~」
「まったくだ、お前に情状酌量の余地はないな。お前を信じたワシがどうかしていた」
「これで分かったでしょう? もう居場所はない。出てお行き!」
父様と母様まで……全員を操っているってことね、この外道!
私が…全部が零れ落ちてゼロだった私に、再び生きて前に進む希望をくれた人たちを…その人たちの気持ちを強引に捻じ曲げて、一方的な自分勝手を押し通すなんて!
そして今、父様とソニア姉様まで裏切らせるなんて度し難い! 許せない! ただじゃおかない!
「そうやっていつまで人の気持ちを…記憶を、思い出を踏みにじるつもりですか?」
「なに? 呼び捨てして突然人聞きの悪いことをいうんじゃないわよ。勝手な被害妄想は止めてくれる?」
「あなたはいつもそうだ! 私のことが気に入らない、いつも邪魔したがる! どうあっても薄汚れたネズミの私を追い出したい、そう思っているんでしょう!?」
「…で、言いたいことはそれだけ? 根拠も無しにくだらない戯言を並べるのは止めたら? 見苦しいし聞き苦しい。隣にいるその地味なあなたも、パトリックもそう思うわよね?」
「……どうでしょうかね?」
私は宝玉を取り出して、頭上に掲げた! そして、辺りを眩い光が包み込んでいく……!
「……あれ?」
「な、なんだ? 一体何が起きていたんだ?」
「どうして私はここに…?」
ソニア姉様、父様、母様…全員元に戻ったってことよね?
「な、なによ今の!? もうこれ以上御免だわ、早くクロエをつまみ出しなさい!」
全員キョトンとしてる…どうやら私の考えは正しかったみたいね!
剣を取り出してフランの元へと迫る。
「な、なによ、なんで誰も従わないのよ! パパ、ママ! ち、ちょっと、来ないでってば!」
「もうあなたの独裁は終わりです。今までのことを悔い改めてください!」
香炉を取り上げて、ありったけの闘争心を込めた炎の剣でそれを真っ二つにした!
割れた香炉の中から紫色の煙みたいなものが噴出してきた。だけど、同時に彼女からもモンスターの化身のような紫色の霧が立ち上り始めて……
「あ、あっ、ああ、あああああぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫と同時に立ち上った霧は、徐々に薄くなっていって霧散した…。
フランはその場に倒れて、気を失っている。一体何が起きたんだろう、まるで何かにとり憑かれていてそれがさっき出てきたみたいな……。
「クロエ…クロエなんだよね!?」
振り返ると、ソニア姉様と父様が驚きながらもどこか嬉しそうな様子をしていた。
「や、やったんだな! さっきまで何が起きていたのか、どうしていたのかが思い出せないが…ワシも操られていたんだな」
「な、なに、なにが…って、フラン!」
母様が倒れている彼女の元に駆け寄っていく。
「ちょっと、大丈夫なの!? しっかりして!」
「母様、フラン姉様は無事ですよ。気絶しているだけです」
「き、きぜ…そういえば、さっきから何をしていたのか全く思い出せないわ。ねえクロエ、なにが起きていたの?」
「はい、そのことについては一旦置いて、ひとまずはフラン姉様を安静にしましょう」
「そ、そうね」
近くの部屋に移動して、私は事の顛末をすべて話した。
フランが倉庫の奥にあった謎の香炉を使って皆を操って私を家から追い出したこと、ハンターになった私が戻ってきてガイザロスの宝玉を使って解決したことを。
「そ、そんな、そんなことが…まさか私まで操られてあなたに酷いことを…」
「…でも、私は思うんです。もしかしたらフラン姉様は「あの香炉を手に入れたことで何かにとり憑かれてたんじゃないか」って」
「そんな、でも私はあなたに酷いことをしてしまったわ。本当にごめんなさい…」
母様は深々と頭を下げていた。
「…許してもらえるとは思っていないけど、一つ聞いてくれるかしら?」
「はい?」
「フラン…この子はずっとクロエのことが「羨ましい」って言ってたわ」
え? うらやま…しい?
「真面目で献身的で、礼儀正しいあなたのことがずっと羨ましかったのよ。私がフランを褒めても、「クロエにはまだ遠く及ばないから」って言ってあなたのことを必死に追いかけようとしていたわ」
「……」
「あなたには意地悪ばかりしてたし、今回でもう良い印象は残ってないだろうし、見直してほしいとは思わないわ。だけど、フランのそんな一面を知ってる私からしたら、「操られていた」っていうのは間違いじゃない気がするの」
「そうですか」
「…ごめんなさいね、追い出されてから辛いことばかりあったはずだから、こんな話聞きたくなかったでしょう?」
「……いや、悪いことばかりでもありませんでした」
だって、外の世界に出て、ハンターになろうと思って、そうしてファリスにまた会えた。
グレンさん、ターリアさん、エイミー、アレス…いろんな人にも会ったし、戦って、闘争心を身に付けて私はどこか一つ強くなれた気がする。
「だから、あまり嫌なことは覚えてないんです」
「そう…よかった…」
母様は力を抜いて微笑んでくれた。
ふぅ、一旦外に出ると、廊下でファリスが待っていた。
「なんか、すごいことになってたけど、これでもう大丈夫なんだよね?」
「ええ、これで終わったわ。色々謎はあるけど、きっとあの香炉はガイザロスと同じもので、持ち主をも操っちゃうものだったのよ」
そうじゃなきゃ、宝玉の力が通用した辻褄が合わない。だとしたら、ガイザロスは新種じゃなくて昔からいたのかしら…。
「よかった。……ねえ、クロエはもうハンターは辞めちゃうの?」
「え!?」
「だって、君の目的は果たせたし、危険なハンターの仕事をやり続けるのは…」
「なに言ってるのよ、私はこの先もハンターよ! どんなに危険でも、私はこの仕事が楽しくてワクワクする。だから、これからも…ファリスと一緒に居たい!」
それを聞いてファリスも嬉しそうに笑ってくれた。
「ボクもだよ、クロエ」




