23 名前
「ねえ、この子の名前どうしよう?」
「名前か…」
このヴォルハウンドの子の名前…やっぱり、炎みたいなカッコいい名前の方が良いのかな。でも、変な名前になったら嫌だなぁ…。
「こういうのはクロエがやった方がいいんじゃないかな」
「ええ? そうね…ロイって名前はどうかしら」
「ロイ…いいね! 僕が考えた名前よりよっぽどいいよ! 呼びやすいし、かっこいいし!」
「そうかしら? 割と適当だったんだけど…」
ボクだったらきっと何時間も悩んでたはずだけど、こんな短時間で思いつくなんてすごいなぁ。
「まあファリスが気に入ったならそれでいいわ。ロイ、あなたの名前はロイよ」
バウッ!
返事してくれた。ヴォルハウンドがどこまで知能が高いのかっていうのはボクには分からないけど、上手く伝わってるといいな。
「ちなみに個人的に気になったんだけど、ファリスが考えてた名前って?」
「え、えっと……ジョンとか、フレアとか……やっぱり地味だよね?」
「そ、そうね、なんていうか、ありきたりか直球かって感じね……」
ありきたり…うわー! なんでボクはこんな地味な名前しか思いつかないんだ!
「でも、言うほど悪くないとも思うけどね」
「そう…? でも、ネーミングセンスならクロエの方が圧倒的に上だよ」
「ふふ、ありがとう」
やっぱりボクには戦いしかできないみたいだね。
とはいっても今回はガイザロスを仕留め損ねたし…。最近はいいところがない気がする。
「お、火山をようやく抜けるね…って、なんだここ?」
目の前に広がっていたのは、枯れ木ばかりが目立つ不毛の土地だった。
「なによこれ、まるで地の果てって感じの雰囲気があるけど」
「大きな干ばつでもあったのかな? …いや、水はあるね」
とはいってもどう見たってこの水は濁っていて、淀んでいる。とても飲めそうには見えないな。
「気のせいかもしれないんだけど、此処を含めたあの塔の周りってずっと暗くない?」
「そういえばそうだね、火山を抜けるまでに外は夕暮れ時にはなっていたはずだけど、もうすっかり夜みたいに暗い」
異様だ…この晴れない雲もそうだけど、なにか胸がゾワゾワするこの感じ。塔に近づくにつれて大きくなっている気がする。もしもあの赤衣の子が言っていたことが本当なら、この塔には何かがあるんだ。
グルルルル……。
ロイも唸っている。ガイザロスに近づいているのを肌で感じてるのかな? それとも、別の何かを…。
そう思っていると、何か妙な気配がした。
次の瞬間、何かが起きると直感で―ー
「危ない!」
背後からモンスターが現れて、ボクらのすぐそばを通り抜けていった。
それに続くように、複数のモンスターが空を飛び、陸を駆けて塔へと向かって行く……。
「な、今度は何よいきなり!?」
「分からない。でも、ボクたちのことは眼中に無いみたいだね」
ボクたちを無視していくなんて…いや、言い換えれば無防備に歩いている餌を無視してでもあの塔に行きたいってわけだよね。これは一体…!?
真相を突き止めるために塔の入り口まで向かうと、先に人影があるのが見えた。
「誰かいる。見たところ武器みたいなのは持ってないけど、人だ」
「え、どれどれ……あっ!」
正体に気が付いたのか、急いでクロエは人物の元へと駆け出した!
「…! クロエお嬢様!」
「パトリック!」
パトリック? そうか、この男の人はクロエの執事さんだっけ。
「お嬢様…本当に探しましたよ」
「な、あ、あなた! なんでこんなところに…いや、どうして抜け出してきたのよ!?」
クロエの声には怒りと安堵と困惑が入り混じっていた。
そういえば、パトリックさんはクロエを裏切った一人だったよね。
「色々とありますが、まず最初に言わせてください。本当に申し訳ないことをしました! どうかお許しください!」
「え、な、なにを…」
「私はクロエ様にお仕えする身でありながら裏切り、あろうことか追放に加担してしまった…あのときの記憶は残っていないのですが、後からフラン様よりお聞きしました」
「そうなの…で、どういう経緯で聞いて、ここまで来たのかしら?」
「はい―—」
♦♦♦
聞いたのはその次の日、あの方の扉を偶然通りがかった時のことでした。
「ふぅ、これで邪魔者は居なくなった。あのパトリックも貧民のお守りをしなくて済むわ、まさかこんな楽勝だったなんて思わなかったけど」
あの時の私は誰のことなのかさっぱり分からず、むしろ自分は誰の執事なのかも思い出せなかった。
まるで記憶に靄と厚い壁が張ってあるように思えて…でも、あの言葉がずっと脳から離れず焼き付いていました。
ある時に買い出しのために外へと出て、ハンターの姿になっていたクロエ様の姿を見てようやく思い出したんです。それと同時に、いろんな「何故」という言葉が頭を巡りました…クロエ様がどうしてあのようなことをしているのか、執事である自分がどうして何も知らないのか、あの靄と壁の先には何があるのか……。
そこでようやく繋がったんです。フラン様が何かをしたと。
考えつくものは、あの方が最近よく使っているお香…「外で気の良い人が譲ってくれた」とフラン様は仰っていましたが、あれは見るからに異質だった。そこで試しに様子を伺ったら、使用人全員とお母様に意図的に嗅がせていたことが分かりました。
間違いなくこれだと思って、無礼を承知で食事中で不在のフラン様の部屋を物色したら、紫の粉とお香が見つかったのですが、お香が盗まれたとあっては流石にバレてしまうと思い、粉しか持ってこれませんでした……。
「この瓶の中にあるやつね…見るからに妖しいけど、どうしてここまで来れたのかしら?」
はい、それが…最初は粉を研究機関に解析をしてもらおうと思っていたのですが、王都へ向かう途中で急に光りだして、どこかを指し示すかのように粉が瓶の隅に固まったのです。
いくら回しても同じ方向を示すので、その先へと向かってみたわけでして。
山を越えて、谷を越えて、海は船に乗せてもらって移動して、そうしてこの場所に辿り着きました。
♦♦♦




