22 思わぬ足取り
後ろにいる幼いヴォルハウンドより2倍は大きい…。
もしかしてこの子の親!?
バウ! バウ! クゥーン…。
まるで子供が母に泣きつくみたいに幼いヴォルハウンドがすがってる。
親はそれを見て安心したように鼻を擦ると、ラヴァルドンの方へと向いた。その姿には私から見ても並々ならぬ怒りを感じた。
「ボクたちのことは眼中にないって感じだね…」
「ええ、むしろ今まであの子を追いかけ回してたあいつの方に向いてる」
ラヴァルドンはさっき突き立てた剣とマグマが傷口に滲みて身悶えていたけど、体制を立て直したその直後にヴァルハウンドの逞しい腕が頭部へ叩き込まれた!
続け様に噛み付いて、そのまま空へとラヴァルドンを投げ飛ばした!
「ええっ!? なんて力!」
驚くのはまだ早かった、宙に浮いて初めて晒された腹部へ宙返りして尻尾を叩きつけた!
ラヴァルドンは吹っ飛んでそのままマグマへと沈んでいった…。
「す、すごい…」
モンスター同士でも争うことはあるものなのね…こんなの初めて見たわ。
ヴァルハウンドはようやくこっちに目を合わせると、鼻を近づけてきて服に擦り付けてきた!
「な、なに!?」
「敵対する気は無いみたいだけど…」
あ、暖かい…ほんとに犬みたい。もしかして感謝してるのかしら…。
そんなことを考えているとーー
キシャアァァァァ!!!
急に聞こえたこの声、どこかで聞いたような…。
ヴォルハウンドも擦るのを止めて周囲を見渡している…けどそれは上からやってきた!
ドガァンッ!
突如飛来したモンスターがヴォルハウンドに襲いかかって、首をへし折ったような音がして――
「こ、こいつは、ガイザロス!」
「え、えっ?」
嘘でしょ、さっきまで圧倒的な力を見せていたヴォルハウンドを一撃に骸に変えたなんて…。
「…ロエ! クロエ!」
「はっ…な、なに!?」
「ガイザロスと戦うよ! 準備して!」
頭が回ってなかった。
気がつくと、ガイザロスは目の前の骸を喰らい始めて、子犬が必死に駆けつけようとしていたけど、ガイザロスに蹴飛ばされていた。
「あっ、あいつッ…! なんてことを!」
子供の目の前で親を殺して、別れを告げさせる間も与えず、あまつさえその親を喰らうなんて…!
有頂天になった私は剣を構えて飛び込んでた。
「クロエ! 待って、踏み込みすぎだ!」
何も聴こえない…許せない、赦さない、あんなやつを生かしてはいけない。憤怒の炎で燃えた剣をガイザロスに突き立てようとしていた。
けど、直前に気がついたガイザロスはこっちに向かって炎を吐き出そうとしていて…!
でも、炎を吐き出す寸前に横から来たヴォルハウンドの子犬がガイザロスの顔面を殴りつけた!
これなら届く! 斬撃が顔面に食い込み、斜めに一文字の切り傷が入った…!
「クロエ、離れて!」
ファリスが上からハンマーを振り下ろす体制になってた! これでやつの頭蓋骨は……!
ズガシャァッ!
な、なにこの音!? 鈍い音がしない!
「手ごたえがない!?」
「ふぁ、ファリス! あれ!」
すぐに異変には気が付いた…ガイザロスの身体が変化している!
それも、脱皮みたいに体の鱗を脱ぎ捨ててる! その変異を見てファリスも私も急いで距離を取った。
「間一髪足りなかったのか…!」
「も、モンスターが脱皮するなんて……」
そこに居たのはさっきのキマイラみたいなガイザロスとはまるで違う、赤い身体に大きな翼と屈強な脚、鼻先に角が生えた厳ついアギトを持った竜の姿だった。
「まるで別のモンスターじゃない!」
「こんな変化をするモンスターが存在するなんて初めて知ったよ」
脱皮をしたガイザロスはこっちを…いや、私を睨むと空へ向けて羽ばたこうとしている!
「使うなら今しかないか!」
ファリスがポーチからフラッシュバンを取り出して放り上げた!
そうか、叩き落すつもりね。すぐに目と耳を塞いで、強烈な破裂音と閃光が起きてガイザロスが……
あれ? 落ちてこない…?
「やられた…あいつ、目を閉じて躱したんだ!」
「え、ええ!?」
しょ、初見でフラッシュバンを回避するなんてどんだけ頭が良いのよ…私だったら目を塞いでも音で怯んでるのに!
ガイザロスは悠々と飛び去って行く…一体どこへ向かってるのかしら。
「…! クロエ、あれを見て!」
ファリスが指を指した先には、暗雲立ち込める中に一つの大きな建造物が見えた。
「あれってもしかして、塔?」
「あの子が言ってたことは正しかったんだ。ガイザロスは塔に向かって飛んでいる」
ってことは、私たちは大当たりを引いたってこと!?
だけど、なんだろうこの胸騒ぎ…あのガイザロスからは危険っていうのもそうだけど、なにかそれ以外にも黒々とした何かがあいつの中にあるような…。
クゥーン、クゥーン……
声のする方を見ると、子犬のヴォルハウンドが変わり果てた親の姿を見てとても悲しそうに鼻を擦っていた。私に実の親はいないけど、父様がもし同じことをされたら今のあの子と同じことをしていたかもしれない…。
「クロエ…」
「……」
何も言えないけど、独りになってしまったヴォルハウンドを放っては置けなかった。でも、仮にも私たちはハンターだし、モンスターがなついてくれるわけもなし……。
そう思っていたら、いつの間にか子犬は私の傍に来ていた。
バウッ! グルルルル……。
何て言ってるのかは分からないけど、意図はなんとなく分かった気がした。この子の目から、復讐に満ちた闘争心みたいなのが胸に響いてきたから…。
「連れて行けってこと? ねえファリス、どうしよう?」
「ん……」
何か悩んでいるような素振りをしつつも子犬に近づいて、頭を撫で始めた。
「ハンターはモンスターを倒すために居る人々だよ。だから、本来共生するなんてあり得ない。同情は持ち込むべきものじゃないし、闘争心をぶつけ合う敵だ」
「ファリス、でも!」
「うん、言わなくも分かってるよ。この子からはすごく強い怒りと復讐心を肌でも感じる。それに、ボクらに親近感も抱いてるみたいだよ。だからさ、この子をモンスターとしてじゃなくて、ハンターとして一緒に戦おうと思うんだ」
! ファリス…! 「モンスター」じゃなくて、「ハンター」として。それなら私たちの一員ね!
「さ、一緒に行こう。君もボクらの仲間だよ」
バウッ! バウッ!
それを聞いて嬉しかったのか、笑ったような顔をしていた。




