2 再会
「はぁ、どうしたものかな…」
ボクは王都の広場でため息をついていた。
あるモンスターを追っているんだけど、まるで痕跡が見つからない…。
「…リス! …ファリス!」
顔を上げると、そこにはいつか出会った白くて長い髪をした綺麗な女の人が居た。
「誰だっけ、どうして僕の名前を?」
「あなた忘れちゃった? あのとき助けてくれたクロエよ」
クロエ……クロエ! 思い出した!
「そうだったね。ボク、すぐに名前を忘れちゃうんだ」
「ふぅん、ところでどうしたの? 浮かない顔しちゃって」
「ボクはあるモンスターを探してるんだ。けど、なかなか痕跡も見つからなくてね…王都に来れば何か得られるかと思ったんだけども」
彼女は話半分のように聞いてくれていた。
すると、街の入り口の方から何か騒がしい音がする
「お、おい! モンスターだ!」
「なにあれ、見たことないモンスターよ…!」
そこには荒れ狂う一頭の竜…遠目でもわかるけど、その身体には無数の棘のような逆鱗で覆われてる!
一目散に入り口へと向かった!
「ち、ちょっと、ファリス!?」
「危険だからフランは避難していて!」
現場に駆けつけると、衛兵たちが奮闘していたけど防戦一方だ。既に何人も怪我を負っている…!
ボクは武器を構えて、荒れ狂う竜へと向かう。
走りながら振りかぶり、空へと跳躍してその脳天を狙う…!
(捉えた!) ゴスッ!!
直撃…竜は凄まじい衝撃で痙攣し、一撃でその場に気絶した。
でも呆気ないな。この大きさとさっきの様子からして絶対にこの程度で倒れる大型モンスターじゃないはずだけど…。
「大丈夫か!?」
後からぞろぞろとハンターと衛兵の増援がやってきた。
もちろんクロエの姿も。
「ファリス、さっきの見てたけどすごかったじゃない! あの大きな竜を一撃で…」
「うん…だけどあまりにも拍子抜けだよ。もともと弱っていたのかな?」
確かな手応えはあったけど、それでも何かおかしいような気がしていた。衛兵の人たちが奮闘してくれたおかげ? それともどこかから怪我を負いながら追われてきた…?
そして、竜を検分する人たちがモンスターへ触れようとした時―—
ギシャアアアァァァァ!!!!
突如として覚醒したモンスターが耳をつんざく咆哮を放って、念のために装着された拘束具を破壊して暴れ出した!
「誰かヤツを止めろ!」
「非戦闘員はすぐに退避を!」
突然のことにボクも現場も驚いてて、行動に移す前にモンスターはその場から強靭な脚を使って逃亡していった……。
「一体あれはなんだったんだ…?」
「死んだはずよね…?」
「間違いなかった。たとえ死んでいなくとも、確実に気絶していたはずだよ」
一体どうして…ともかくとして、ギルドの集会所に向かうと今回のモンスターは「ガイザロス」って名前が決まって、早速調査に参加するハンターの募集が始まっていた。
「ガイザロスか……」
ボクはお守り代わりに持っていたモンスターの鱗を眺めた。
もしかしたらまた会えるかな、あの人に…?
「なんだか刺々しい名前ね。ファリスはあの調査には参加しないのかしら?」
「…いや、ボクには参加資格がないよ」
提示された参加条件は、「王都に1年以上滞在し、ハンターとしてのレベルがカッパー以上の者」…だった。
「実は、ボクはここに来てまだ3ヶ月も経ってないんだ。レベルも最下位のレザーだし、条件が掠りもしてないんだよね」
「…え、じゃあファリスは新米ってこと!?」
「そういうことになるね。実は、君たちを助けた時が初のクエストだったんだ」
クロエは「信じられない」って顔をしてるけど、事実だよ。
師匠の指南で鍛錬をやる過程とか、人助けとかでモンスターを倒すことはあったけど。
「ねえ、ファリスはあの調査やってみたいのよね?」
「そりゃあ受けてみたいけど…」
すると彼女は笑みを浮かべて「任せて!」と言ってボクのことを引っ張って老齢のギルドマスターのところまで連れてきた。
「ん? おお、クロエじゃないか! 大丈夫なのか、家のことは」
「あら、やっぱり耳に入ってました? もう大丈夫です、私は家を出る決意を固めましたから!」
えっ、家を出る? 貴族が勝手にそんなことしていいの…?
「ほう、大胆な選択をしたな。して、その大槌を背負った娘は誰じゃ?」
「ファリスです。数ヶ月前にお会いしたはずですけど…」
「おおそうか、それにしてはやけに小柄な童だな」
また子供扱いされてる…背が小さいのも困りものだね。
「マスター、私にこの子とガイザロスの調査をさせてくれない?」
え、え〜っ!? 急に何言ってるのこの人…! クロエは貴族っていうか、戦えないはずだよね!?
ボクの驚きに応えるかのように、彼女はバッと服を脱ぎ捨てた。そこには、まるでアイドルみたいに派手な衣装に身を包んだ姿が!
「ほ、ほう…? 本当に大胆だな。しかし、そうなると二人ともレベルはレザー。滞在期間はまだしもレベルが足りないぞよ?」
「マスターはさっきガイザロスを捕獲しかけたときに誰が気絶させたとお思いかしら?」
「詳しくはまだ知らないが…」
「ファリスがやったのよ、それはもう重い一撃でガツンとね! 彼女自身、並の実力ではないはずだわ」
そう言われてマスターはボクを見た。
困るなぁ。もし調査に参加できるなら嬉しいけど、そんな大した実力があるとは思ってないし…。
「よし、よかろう。ファリスには並々ならぬ力を感じた! それに、クロエには借りもある」
えぇ!? 絶対ボクの力よりクロエの借りの方がずっと大きいよね!? いや、調査ができるのは嬉しいけど!
そ、そんなこんなで、ボクとクロエはとりあえず調査に加わることができた。
今は花柄の綺麗な服を着た受付嬢が概要を説明してくれてる。
「この調査の目的はガイザロスに関する痕跡や生態の調査、追跡と討伐・捕獲が目的です。参加者は既に20人を越えているので早い者勝ちですが、討伐か捕獲を達成した場合は更なる報酬が約束されています」
つまりガイザロスを追いかけて討伐・捕獲すれば良いってことだね。
「早い者勝ち…なら先を急ごうじゃないの!」
あっちょっと!? 話が終わるなり、ボクの手を引っ張ってクロエは集会所の外へと向かっていった…。