19 灼熱の料理戦
この屋外調理キットを使うのは初めてだけど、やることはただ一つ。
今まで集めたモンスターの食材を使って料理を作り、アレスの舌を「認めさせる」こと!
調味料の類は…すごい、塩とか胡椒とか一通りこれに付属してる。父様、すごく奮発してくれたみたいね!
おもむろに空を見上げると、夕焼けが近づいている。…よし、今からでも全員分間に合うわね。
「クロエっち、それってすっごい高いやつだよね!? それで料理するの?」
「はい、今日は全員分私がやります。みんなにも伝えてください」
「ほ、ホント!?」
エイミーさんは手伝いたそうにしていたけどこれは私の戦いだ。
モンスターとの戦いだとヘタレだけど、せめて料理だけはどうにかしたい!
「みんな、クロエっちが夕食を作ってくれるって!」
「えっ、あの新入りが!?」
「まさか一人で!?」
驚いてる声が聞こえて、ハンターが集まってきた。しかもそれぞれ野菜とか米とかの食材を持ってきた人もいる。
「手伝わせてくれ、なにをすればいい?」
「えっとそうね、まずは洗っておいて」
よかった、父様が気を利かせてくれて野菜とかも入ってたし、村で貰ったエノクニンジンもあるけど、これだけじゃ足りそうになかった。
ポーチから取り出したパックの中には今まで剥ぎ取ってきたモンスターたちのお肉が入っている。
(さて、どうやったものかしら……)
今まで倒してきたモンスターたちが記憶に蘇る。サザルゲニアとゲルギロス、ダックスクロウの肉は取れなかったから、今手元にあるのはジャギュア、ゲレンデプス、ジェラキドス、そしてここにある一体のギャロニクス。
「肉食モンスターの肉を使うの?」
「はい。やっぱり珍しいことだったり?」
「ハンターの間じゃ割とある話だね! どのモンスターの肉も毒はないモンスターのモノだから心配なさそう。クロエっちは料理に専念して、周りはうちらで何とかするよ!」
「ありがとうございます!」
一人でどうにかしようとか思ってたけど、やっぱりこっちの方が早そう。
まずはそれぞれの肉の一切れを手に取って魔法で焼いてみる。モンスターの肉に常識が通用するとは思えないし、慎重と万全を期してやりたい!
ジャギュアはやっぱり筋肉質で筋のあるコリコリとした感じがして、ゲレンデプスは豊富な脂身があるわね。ジェラキドスは硬くてジューシーで、ギャロニクスは意外にも身が少ないけどラム肉に近い感触がある。
「よし……!」
料理の仕方は見えてきた。あとは私の炎と、水を適度に使い分けて目指すだけ!
ジャギュアの肉は細かく刻んで胡椒焼きに、ゲレンデプスは脂身を最大限に利用したスープへ。ジェラキドスは小さいけどジューシーなサイコロステーキに、ギャロニクスは私の切断した尻尾も利用したテールシチューよ!
「すごい、よくこれだけメニューが出てくるね…」
「クロエ、今までで一番真剣な表情な気がする…なんていうか、ボクも初めて見る気迫みたいなのを感じるよ」
調理の熱気で暑い…まるで無意識に心が燃え盛ってるみたい。
「できた……完成したわ!」
8人分のモンスター料理。どれもやれることを精一杯やってできたけど、ここからが実食っていう最後の難関! 遠くで見ていたアレスもやってきて、早速実食開始!
「モンスター料理か…癖が強いんだよな」
「まあまあ、せっかくクロエっちが作ってくれたんだしさ! ほら、すごく美味しそうだよ!」
アレスがジェラキドスのサイコロステーキにまず口をつけた…けど、まだ反応がない。でも、どんどん食べてくれている。
他のハンターから「予想外なほど美味い」とか、「これがモンスター料理か!?」とかの声が聞こえるけど、そんなのはどうでもいい。私の相手はアレス…あいつの「舌」!
自分の分の食事に全く手を付けず、ただひたすらアレスを凝視していた。
「ねえ、アレスどう?」
「まあ待てエイミー、全てを食べ終わってからだ」
っ、全部食べてからって、かなり真剣に味わってるってことよね…!
彼が全て食べ終わった後、戦いの行方は……
「悪くない味だった。モンスター料理は癖の強い物が多いと印象付いてたが、それだけでもないようだな」
「翻訳すると、「すごく美味しい」って! すごいね、好き嫌いの激しいあっくんがこんなに気に入るなんて!」
「おいエイミー! 勝手なことを言うな!」
やった……! あいつの舌に打ち勝ったってことよね!
「クロエ、ボクもすごく美味しかったよ」
「ファリス……」
これでファリスを取り返せたような気がする。ずっと今まで一緒だったのに、ここにきて私だけ蚊帳の外なんてまっぴらごめんだわ!
「すごく集中してたね」
「まあね、あんなやつにファリスが認められたって聞いて我慢できなかったのよ。せっかくここまで一緒にやってきて、お互いこれからだっていうのに「あいつに寝取られる」って思ったらね…」
「そ、そっか。クロエはボクのことを大切に思ってるんだね」
「えっ! ま、まあそうね、か、かわいいし、強いし、優しいし……」
ファリスが顔を赤くしてるから思わず目をそらしてしまった…!
「じ、実は、ボクはクロエのこと好き…だよ」
「えっ!?」
「ボクが投げ飛ばされた時に心配してくれてたでしょ? それに、港の時に励ましてくれたのも、すごく感謝してるんだ」
「あ、あはは! そう? あんなの大したことなんかないわ! あははははは!」
笑うしかないじゃん! あのファリスが私のこと好きだなんてさ! あー! どういう顔をしているのか見たいけど、どうしても顔を合わせられない! こんなところでシャイになってどうすんのよ私!
「ねぇ、あの……」
!? いきなり背後から聞こえた…声からして女の子…?
振り返ると、赤い衣とフードに身を包んだ人物がそこに居た。背の高さはファリスと同じくらいだけど、その風貌と武器を持ってないことを見るからにハンターじゃなさそう…?