18 燃え立つ闘争心
「よーし、じゃあ同じ剣盾同士力を合わせるよ!」
「はい!」
いざ、剣を構えてギャロニクスと戦いが始まる!
まずは動きを見なきゃ…相手は空を飛んで、厄介なブレスを吐く。
そして何より狡猾ってこと!
「相手があの脚でこっちを攻めに来たときがチャンスだよ」
剣盾のリーチだとどうやっても空を飛ぶアイツには届かない。カウンターが有効…ってことね。
ブレスを回避し続けていると、痺れを切らして徐々に高度を落としてきた。
「よし、待ってて!」
まだ5メートルはあるだろう高度に相手は居るのに、エイミーさんは突っ込んでいった!
そして地面が抉れるくらい踏み込んで…跳躍! そのまま一気に飛び越すくらいの高さまで上がって…
「ここだぁッ!」
ガツンッ!
ファリスのハンマーみたいな鈍い音がして、怯んだ相手はガクンと高度を落とした…ここだ!
闘争心と魔法を一つに!
走り込むと同時に剣と盾が真っ赤に燃えて、渾身の一撃を頭部に叩き込んだ!
ギェアオン…!
苦悶の声と共に体勢を崩してそのまま地面に激突した!
「おお、やるね! それじゃあ追撃を叩き込もう!」
エイミーさんは剣に何かを塗りつけてそのまま頸を狙う…その傍らで私は尻尾を狙う!
それにしても、まるで棍棒みたいな形の尻尾…できるなら切断して調理してみたいわね!
もうじき体勢を立て直すかと思って一度下がったけど、その時エイミーさんは—―
「そろそろ発動するはず!」
そう言った直後、ギャロニクスの身体が痙攣し始めて再び体勢を崩した!
「な、何が起きたの…?」
「麻痺毒だよ! さ、今のうち!」
あの時塗りつけていたってことね…って、また何か塗ってる!
「剣盾の力はまだまだこれから!」
痺れている相手に切れる間も無く無数の斬撃を見舞い、時には盾で殴りつけていて、まるで踊りながら戦ってるみたい。防御手段のはずの盾すらも打撃武器になってるし、こんな攻撃的な戦い方初めて見たわ!
やっとのことで相手は体勢を立て直したけど、もう既に息を切らして、涎を垂らしている。
「これでもうスタミナは残ってない! 次で終わらせるよ!」
強い…お世辞にも強いとは言えない武器だと思ってたけど、使いこなすとこんなに強い武器になるなんて…!
最初はあれだけ交戦的だったギャロニクスもすっかり戦意喪失したのか、空へと逃げようとしている!
「逃がさない!」
再び大跳躍をしたエイミーさんの盾が脳天に直撃し、私の炎の剣が垂れた尻尾を叩き斬った!
「やった!」
「ナイス尻尾切り!」
同時攻撃を受けたギャロニクスは他に伏せた…!
♦︎♦︎♦︎
クロエたちの方はもう片がついたみたいだね。
あとはボクたちの方…!
「こいつ、なかなか降りてこないな!」
「閃光玉使おうか?」
「いや、多数のハンターがいるこの場所で唐突に使うわけにもいかない。そこでだちっこいの、貴様をぶん投げる!」
「え、えぇっ!?」
ぶ、ぶん投げるって、下手したらボクそのまま谷底に真っ逆さまだよ!
「ほ、本気なの!?」
「俺が冗談が好きな奴に見えるか?」
「い、いや…」
「じゃあ大人しく飛ばされてもらうぞ。俺の剣に乗れ!」
飛び道具を持ってる人は全員手が塞がってるみたいだし、今はこれしかない!
「うおらぁッ!!!」
うぅっ! 凄い勢いで投げ飛ばされてる…けど、見える! 相手は目と鼻の先だ! 武器を…ハンマーを構えるんだ!
「このッ!」
重さで一回転しながらも繰り出した一撃が側頭部を抉り込み、ボクはその反動で跳ね返った!
「ふん、やっぱり俺の見立て通りだ!」
落下していくギャロニクスのその先には、アレスが大剣を振りかぶって構えている…!
ゴキャッ!
離れても頸の骨が断ち切れた音が聞こえて、フレズブランは谷底へと真っ逆さまに墜ちていく…。
それを見届けた直後、ボクは地面にハンマーを打ち付けてどうにか衝撃を打ち消せた。
一歩間違えば死ぬところだったけど、あの飛ばし方はすごかった。弓とかの飛び道具ってボクは壊滅的にダメだったんだけど、まさか飛び道具でもない大剣に乗っけてそのまま投げただけであんな綺麗に飛んでいくなんて。
そう思っていると、アレスが手を差し伸べてきた。
「貴様、見事だったぞ。名前はなんていう?」
「ふ、ファリス…」
「そうか。ファリス、貴様の名前は覚えた。もっともっと上を目指していけ」
え、もしかして褒められてる?
「おいちょっと! アレス!」
クロエが青筋を浮かべていて、見るからに怒ってる…。
「あなた、なに勝手なことしてるのよ! 人のパートナー勝手に引き抜くし、下手したら死んでいたかもしれないことをファリスにするし!」
「なにを怒っている? 結果としてファリスは死なず、敵は斃れた。これは事実だろう? 俺は必要なことを必要な時にやっただけだ」
「な、なによそれ! ファリスはあなたの道具じゃないのよ!」
クロエ、ボクのことをそんなに心配してくれていたんだ。彼女の怒りのボルテージが上がっている時、エイミーさんが話に割って入って来た。
「珍しいね! あっくんが名前を覚えるってことは相手を認めてるってことだよ!」
「え、ええ?」
「もう、あっくんは素直じゃないんだから…」
「っち、エイミーめ…」
鬱陶しそうにアレスはその場を後にしていった。
三人になったところで、エイミーさんは一つ大きく背伸びしてリラックスしている。
「ふぅ~、二人ともお疲れ。君たちの力を見せてもらったけど、普通のブロンズよりずっと強いね」
「そ、そうですか? ファリスはともかく、私はまだまだ…」
「ファリスちゃんの打撃にも驚かされたけど、うちはクロエっちのあの燃える剣もすごかったと思うよ」
「く、クロエっち…?」
あの燃える剣…もしかして、クロエはあの状態をコントロールできるようになってきているのかな。
「だって、剣盾って本来はこういう薬剤を塗りつけて相手と戦う武器だからさ」
「え、そうなの?」
へぇ、ボクが使ったときは知らなかった。
「見た感じ、火がよく通るダックスクロウとかにすごく効きそうだし、面倒な薬を用意しなくていいし、すごく便利そうだね」
「は、はい…。あ、ところでエイミーさんってアレスさんのことをどうして「あっくん」って呼ぶんですか?」
「幼馴染なの。あっくん、背が低いけど年はうちと同じなんだよね」
歳と背が見合わないってなんか親近感を感じるね。
「2人はどうしてハンターになったんですか?」
「一年前に、あっくんがハンターになろうかどうか迷っててね、「私も一緒になるからハンターやってみようよ!」って背中を押してあげたんだよね。ま、今じゃもう置いていかれそうなんだけど…」
「え、たった一年でそんな高みに駆け上がったんですか!?」
「まあね。あっくん、厳かだけどハンターが楽しいみたい」
わずか一年でゴールドとシルバーになったなんて…ターリアさんでも3年くらいかかってたはずなのに。
「さっきはごめんね。あっくんっていつもあんな感じだけど、ほんとは純粋なんだ」
「どういうこと?」
「認めた相手のことはとことん好きになっちゃうってこと! さっき話してた感じ、ファリスちゃんのことは相当気に入ったみたい」
そ、そうなんだ。
って、なんかクロエから強いオーラみたいなのが……
「それってつまり、ファリスのことを好きになったってことよね……なるほど」
「く、クロエ? どうしたの?」
「ちょっとやりたいことができたわ」
怒ってるのかな? でも口は笑ってる…いや、なにか違う…。ボクが心情を察する前に、クロエはゴードンさんにもらった簡易調理キットを取り出した。