16 煌めく真実
草原を進んでいると、何か空気の揺れる音が聞こえた。
次第にそれは大きくなって、ボクらの上に現れた!
「ひ、飛行船!?」
大きい、全長100mはありそうな巨大な空飛ぶ船が上に…!
「クロエ―!」
「?…こ、この声ってまさか!?」
飛行船からは梯子が伸びてきて、一人の男の人が降りてきた。
「クロエ、ようやく見つけた!」
「と、父様!」
「はは、お前が追い出されてからワシとソニアで行方を捜していてな。ソニアとはもう会ったんだろう?」
白いひげを生やしたおじさん…この人がクロエのお父さんなんだね。
「は、はい。父様も家の者たちは誰も付けずに?」
「ああ、念のためにな」
そうか、催眠対策だね。……って、催眠? どこかで聞いたような……。
「ソニアからはいろいろと聞いたぞ。ハンターとして一喜一憂、良い調子みたいじゃないか!」
「いえいえ、私なんかまだこっちのファリスに比べたら全然下手くそですよ」
「おお、その子が頼もしいハンターか! ワシはクロエの父、ゴードンだ。聞いた話によると、クロエが君に惚れてるみたいだな?」
「ちょ、ちょっと父様!?」
えっ、ボクもしかしてクロエの恋人だと思われてる!? 嬉しいことは嬉しいけど、やっぱりボクなんかじゃ釣り合わないって!
「あ、ああ、どうも。あの、一応ボクは女です…」
「え、そうだったのか!? いやはや、なんとも失敬失敬。どんな形であれ応援しているぞ!」
スカートとか穿かないからやっぱり女子力が低いのかな…。
でも、ボクが男だったら、クロエみたいな強い女の人と結婚出来たら安心できるだろうなぁ。
「よし、そろそろ本題に移ろうじゃないか」
ゴードンさんは面持ちを変えて話し始めた。
「あれからいろいろと調べてな。やはり不自然だった」
「何か見つかったんですか?」
「うむ、フランはどうやら地下の倉庫、それも奥の奥の奥ぅーの方にあるところからある物を持ち出してきたようだ」
す、すごく大きい倉庫を持ってるんだね。
「奥の奥…それって、家宝とかが置いてあるあの場所ですか?」
「その通り…なんだが、正直ワシもあそこに何が置いてあるのかは聞かされていなかったし、知る由もなくてな、昔から引き継がれた謎の家宝が保管してあるとしか思っていなかった」
「じゃあ家宝の一つが持ち出されて、悪用された…?」
「おそらくな」
大勢を催眠にかかる道具か…前にソニアさんが言っていたような。催眠以外にも自在に記憶を操れる力でも内包してるってことかな?
「これはワシの予想だが、あの道具は催眠にかけた相手を意のままに操れるのかもしれない」
「そうですか…あ、父様、パトリックは見つかりました? あの後から行方不明になってるってソニア姉様から聞いたのだけど」
「パトリックか…彼はまだ見つかってなくてな。捜索も一応続けているが、足取りが掴めん」
執事さんだっけ。クロエから聞いた話だとその人も催眠にかけられていたはずだけど、なんで見つからないんだろう?
「そうだクロエ、ハンター生活の助けになるだろうと思ってこれを渡しにきたんだ」
ゴードンさんは折り畳まれた謎の道具を取り出した。
「これってまさか、屋外調理キット!?」
「ああ、あのとき何もできなかったワシからのせめてもの罪滅ぼしだ。受け取ってくれ」
おくがいちょうりきっと…? そんなものがあるって初めて聞いた。クロエは料理上手だから、きっと上手く使ってくれるはず…!
「色々と本当にすまなかったな。あのとき、ワシは何一つ反論することができず、ソフィアとフランに押し切られてしまった…これでは父として失格だな」
「いえ、父様のことは全く恨んでいません。むしろ、ソニア姉様と一緒で私を信じてくれているから感謝したいです」
「そうか…こんな血の繋がっていない、不甲斐ない父でもまだ信じてくれるのだな。ありがとう」
えっ、クロエとゴードンさんって血が繋がってる訳じゃないの!? ボクが聞く暇もなく、ゴードンさんは飛行船に戻って行っちゃった。
「ねえクロエ、さっきのはどういうこと?」
「ん? 私が養子だってこと? そのまんまの意味よ」
「でもクロエってすごく綺麗だし、その、なんていうか…」
「信じられない?」
♦︎♦︎♦︎
まあそうね、私は7つの頃に実の親が亡くなってね…死因はなんだったか思い出せない。
あの時の失意は忘れかけていたけど、真っ暗な闇の中で大事なものが零れ落ちていって、ただ一人だけ何も持たずに立っているような感じだった。
「かわいそうに…こんな早くに両親を失うなんてね」
「しがらみが無くなってむしろ良かったんじゃない? でも…誰が引き取るのかしら」
なんて、訃報を聞いた帰りに周りの人たちが言ってたかしら。…私に帰る場所なんて何も残っていない真っ暗な家だけなのに。
来る日も来る日も家で死んだように壁に寄りかかって、青い空と夜の月を見ていたら、ある日外から誰か来たのよ。ノックを何度もしてたんだけど、ずっと飲まず食わずだった私には一歩動く気力もなかった。それでも諦めずにドアを開けてきたわ。
「もし!? 大丈夫か!? 生きているか!?」」
「……」
「よかった、頷いてくれた! まだ生きているな!」
ゴードンさん…父様がそこに居たわ。その後ろには神妙な顔をしているソニア姉様も。
二人は私を連れて急いで病院に連れて行って、栄養失調で死の淵に居た私を救ってくれた。それどころか、退院までの「退屈しのぎ」ってことで本まで差し入れてくれたのよ。
少しして身体が動くようになったら、またどこかに連れて行って…そこが父様たちの豪邸だった。
「ここは……?」
「ああ、忙しくて君には全く伝えていなかったな。ワシが君を引き取りたいんだ」
どういうことかを聞いたら、なんでも昔に私の母が父様たちをモンスターから救ったことがあって、その恩返しで何か役に立ちたかったみたい。…母が何をしていたのかはもう思い出せないんだけど。
「君さえよければ家族になってくれないか?」
「……」
中の応接室みたいなところで私は決断に迫られた…といっても、今の私に残された選択肢は「YES」か「はい」だけ。断って家に帰ってもきっとまた動かなくなるのは目に見えていたもの。
「よ、よろしくお願いします!」
「…! よろしくね、私はソニアっていうの」
隣にいたソニア姉様がすごく嬉しそうに手を取ってくれて、父様も母様も喜んでいたわ。…ただ1人を除いて。
「何よ、この子。服が汚れてるし、毎日シャワー浴びてるの?」
フラン姉様は私を見るなりいきなりそんな事を言ってきた。
「絶対貧民じゃない。こんなのが居たら家の評判が下がるわ」
嫌味を言うことに関しては天才だと思ったわ。
他所から越してきた手前、私からは生まれに関してのことは何も言えない。だけどある時、父様がこんなことを言ってたわ。
「フラン、何が心配なんだ? 家族が1人増えるくらい大丈夫だ! 高貴なる者の義務として、貧者を救うこともまたその一つだぞ」
これにはぐうの音も出なかったみたいね。そうなって今の私があるってわけ。
♦︎♦︎♦︎
「なるほど、クロエがゴードンさんのことを父「様」って呼ぶのもそういうこと?」
「まあね。前は「お」を付けてたんだけど、堅苦しいからやめてって言われたっけ」
「そっか…いいなぁ、クロエには家族が居て」
「なによ、あなたには私が居るじゃないの」
そ、それはそうだけど、ボクは師匠以外に親しい人が居た記憶そのものが抜け落ちてるからどこか羨ましい。
「まあ、このままフラン姉様のやりたい放題にしておくわけにもいかないわ。いずれ必ず、絶対に帰るんだから!」
「そ、そうだね!」
人それぞれに違った目的があって、でもそれが原動力になって強い闘争心が生まれる。なんていうか、興味深いね。