15 グラン
「しかし気になるな、何故ダックスクロウが乱入してきたんだ…?」
「そんなに珍しいことなんですか?」
「ああ、本来のあいつは臆病で、ジェラキドスみたいな強者がいるところには出てこないし、すぐに逃げていくはずなんだ」
グランさんの言う通りだ。よほど追いつめられてでもいない限り、ジェラキドスの居る場所に乱入することなんてしない。それに、もう一つ気になることがある。
「ジェラキドスは起きていたの?」
「そうだな、密林を進んでいたらいきなり木々を薙ぎ倒して現れたんだ。あからさまに敵意を向けていたな」
ジェラキドスは密林の生態系で最上位に位置しているし、目立った天敵も居ない。だから、よほど気が立っていない限り通りすがりのハンターを意に介さないんだ。繁殖期だったのかな?
「とりあえず先に進むとするか。君たちもガイザロスを追っているんだろう?」
「え、知ってたの?」
「勘だ。同じものを追ってるハンターからは似た気配を感じるからな」
勘と気配で分かるなんて流石はシルバーのハンターさんだ。
3人で密林を抜けることにした。
「グランさん、さっきのジェラキドスの攻撃を防いだのって、やっぱり闘争心あってこそ…だよね?」
「…そんな大したものじゃないがね」
「いやいや、シルバーでしょう? 私なんかとは比べ物にならないレベルの技とか使ったはず…」
「俺は守りしかできない。お前たちと同じくらいの時は、とんでもない腰抜けだったんだよ」
♦♦♦
「おい、いつまで後ろで盾を構えてるんだ! 早く前出ろ!」
「そ、そんな…だって、前に出たら攻撃が来るし…」
「攻撃を防ぐために盾が付いてるんだろ? だったらお前が一番前に出ろよ!」
「で、でも…」
「はぁ、もういい、俺たちでやるぞ!」
仲間のことまで気が回らないし、俺は俺を守るだけで一杯だった。
目の前の仲間は俺に構わず、どんどん攻撃を当てて、次々に来る攻撃を躱していた。
到底マネなんかできそうにない。痛いのは嫌だし、かといってハンターになったからには戦わないわけにもいかない。
あいつに…友達に「ハンターにならないか!?」って勧誘されたときに無理にでも断らなかったのを後悔する日々だった。
けれども、悪いことばかりでもなかった。
「お、おいグラン、どこだ此処は?」
「ここは…地図だとこの丘のあたりじゃないか。少しだけ高さを示す色が違うし」
俺が唯一得意だったのがマッピングだった。地図を見て、現在地を知ることはどこに居てもすぐにできた。
「うおぉ、さっすがグラン! 目的地の村が見えてきたぜ! やっぱりお前が居てよかった!」
「え、あ、うん……」
戦いだと役に立てないハンターとしては失格な俺を、あいつは素直に褒めてくれるから嬉しかった。
それに、何かと一人になりがちだった俺をいつも繋いでくれたのもあいつだった。
「グラン、そんなところで黄昏てないでこっち来て遊ぼうぜ!」
「え、ああ!」
「今回こうして無事に辿り着けたのもグランのおかげだからな! ほい、乾杯!」
あの時は今思い返しても楽しかった。今が楽しくないってわけじゃないが、かけがえのない日々だった。
あいつはある時、俺を庇って重傷を負った。
「グラン…平気か……?」
「あ、ああ……な、なんで……?」
あのモンスター…災害級のモンスターだったな。偶然にもこの密林で出くわして、その場で戦闘になった。
樹木を操る能力を持っていたそのモンスターにあいつは下半身を樹で挟み潰されて、もう助からないのはすぐに分かった。
「なんでって…決まってる…だろ? おまえは…俺の…友達…だからな……」
「でも、俺なんかに…俺なんかに構わなきゃよかったじゃないか!」
「はは…何言ってんだ……見捨てる…はず…ない……だろ?」
どうしようもない俺も、あいつにとっては大事な友達の一人だったとその時初めて気が付いた。もっとも、そのときには恩返しの一つもできない状態だったがな…。
「ハン…ター……は…同じ…モンスターを…倒す者…だから……誰もが…仲間で……友達……だ……」
この最期の言葉だけが俺に残って、今もこうして生き続けているんだ。
あの時、あいつを死なせちまった俺の罪滅ぼしをするためにも。
♦♦♦
「正直言って、ガイザロスが討伐できるかっていうのはどうでもいいんだ。俺はただ、一人でも多くのハンターを守ってやりたいだけだ」
それがグランさんの闘争心の根底にある物……。
ターリアさんの復讐心とは違って、誰かを守りたい気持ちから生まれているんだね。
「一人でも多くの…すごいわ。私、そんなこと考えたことなかったわ。自分のことで精一杯よ」
「それでいいんだ。これは不甲斐ない俺の罪滅ぼしみたいなものだからな…」
「不甲斐ないだなんて…私はすごく立派だと思うわ」
「そうか? はは、高尚なものじゃないがそう言ってくれると嬉しいぜ」
闘争心、生み出すために必要なのは攻撃的な感情だけじゃないってことか。
話していると、もう密林の出口を抜けていた。そこには草原が広がっている。
「お、話しているとあっという間だな。アレス君は何処に行ったのか……」
グギャアァッ!
すると、後ろから鳴き声が聞こえた!
「ダックスクロウ? この感じ、何かと交戦してるみたいだけど……?」
「俺が行こう。君たちは調査が目的なのだから先に行くといい」
「え、あ、はい……」
「行こうか、クロエ」
ダックスクロウが戦える相手と言ったらそれこそハンターくらいしかいないはずだけど、ボクら以外にまだこんなところに居る人がいるのかな?
とりあえずこの場はグランさんに任せて先へ進もう。
「にしても、変な環境ね…凍土を越えたら密林、密林の先にはこんな草原だなんて」
「あの密林と凍土自体が災害級モンスターの爪痕だからね。本来はあそこも全部草原だったんだ」
「恐ろしい力ね……もしかして、あの密林を作った災害級モンスターってグランさんが言ってたやつ?」
「かもしれない」
記録によると、樹木を操るモンスターと、冷気を操るモンスター、そして十数人のハンターが三つ巴の戦いを繰り広げた末に生まれた環境らしい。きっと、想像を絶する戦いが行われたんだろうね…。