13 凍土の先へ
目が覚めたらベッドの上だった。
ゲルギロスを倒したらなんか急に意識が遠のいて…って、毒弾を受けたところはもう完治してる。
「あ、目が覚めた?」
ファリスが嬉しそうに声をかけてくれた。
「よかった、ターリアさんやドクターは問題ないって言ってたけど、やっぱり心配だったんだ」
「……そう、心配かけたわね。ところで、そのターリアさんはどこに行ったの?」
「先に行ってるって。自分の大切な人の仇を討つために」
「えー、少しくらい待っててくれたっていいじゃないの」
「まあまあ、向こうにも事情があるからさ。治療費はあの人が全部負担してくれたんだし」
元はと言えば私の油断のせいなのに、なんだか置いてかれたみたいじゃない。まあいいわ、ファリスの顔がまた見れただけでもよかった。
「じゃあ、こんなところで立ち止まってもいられないわね。行きましょ」
身体はすんなり動く。毒を受けた時は身体が痺れて、吐き気がして、意識が飛びそうになってたけどもう平気!
ファリスと外に出ると、すっかり朝日が登ってる…もしかしてずっと寝てたのかしら?
「ターリアさんはこの雪原の先のデク密林に向かっていったみたいだね」
「えっ? 凍土の先に密林があるの?」
「うん。災害級モンスターの仕業で、環境ごと大きく変化したところもあるからね」
災害級モンスター…字面からするに、普通のモンスターとは桁違いの輩ってことね。
雪原の緩い足元を歩いていくと、徐々にその先が見えてきた。…うわ、ホントに密林が広がってる!
「すごい、密林って言ってもそんなに広くないかと思ってたらこんな広大なの?」
「すごいよね。災害級モンスター2頭とハンターたちの三つ巴の戦いでこんな環境変化が起きたとされてるんだ」
明らかに人智を超えたレベルの出来事だけど、世の中にはその災害級にも対抗できるハンターがいるってことよね。
世界の広さを改めて噛み締めながら、私たちは密林に降り立った。
「さっきはすごく寒かったのに、今度はちょっと蒸し暑いわね…」
「そうだね。あと、視界が悪いから気をつけて」
木々の枝葉に阻まれてなかなかに視界が悪い…それらをかき分けながら奥へ奥へと進んでいると、何か叫び声のような音が聞こえた!
ギュオォォォンッ!!!
「な、なんの声!?」
「分からない、だけどこの感じからするに何か強そうな気配がする!」
声…いや、咆哮はそれからも何度も聞こえてきて、音源へと私たちは誘われていく。
そこには、巨大な腕と見るからに強靭な脚を持った竜がいる!
「あれはジェラキドス!」
「ど、どんなやつなの?」
「またの名を「暴竜」って言って、翼が変化して飛べなくなったかわりに樹木を容易く斬れる強力な前脚と、目の前の物を全て薙ぎ倒す強靭な後脚を使って暴走する文字通りの暴れ竜だよ。…ん? あれって…」
ファリスの見ている先には、火花を散らしながら竜の攻撃を防いでいる1人のハンターの姿があった。
「誰か交戦してる! 行こう!」
「えっ…うん、そうね!」
暴走機関車なんて相手にしたくないけど、加勢すれば倒せるかもしれない!
「大丈夫ですか!?」
「ボクたちも加勢します!」
「ん? あっ、君たちは!」
この大きな盾と槍を持ってる人ってグランさん? まさかこんなところで再会するなんて。
「加勢してくれるのは助かるが、くれぐれも無理するなよ!」
まさかまたシルバーの人が一緒に戦ってくれるなんて心強いけど、今度は油断できそうにない相手ね…。
あの強力な四肢に加えて、あの大きなツノ…あんなので突き刺されたらひとたまりもない!
ギュオオオォォォン!!!
あの咆哮、すごい威圧感!
「まずは俺が引きつける! その間にツノを折ってくれ」
グランさんが前に出て盾を構えた…すると、それに向かってジェラキドスは殺意剥き出しで突っ込んでくる!
だけど闘争心ってすごい、あんな猛烈な攻撃をグランさんは受け止めてる!
「今だ!」
彼の声に呼応するように、跳び上がったファリスが一撃を叩き込ーー
ギャァオン!
どこからともなく鳴き声と共に一頭のモンスターが現れて、ファリスを吹き飛ばした!
「な、なに!?」
「ぐっ、あれはダックスクロウ…! なんでこんなとこに!?」
鳥みたいな翼と尾を持つモンスター…って、いつのまにか私たち前後から挟まれてるじゃない!
「まずいな…! こんなところで2頭を相手にすることになるとは」
「うん、ダックスの方はまだなんとかなるとしても、ジェラキドスが厄介だね…」
素人目でもダックスクロウは比較的弱そう。かといって、私たちで相手にしていたらジェラキドスを相手にするには火力が足りないかも…。それなら!
「ファリス、グランさん、ダックスは私に任せてもらえませんか?」
「クロエ?」
ファリスは若干驚いていて、グランさんは少し思案して答えを出してくれた。
「……そうだな、俺1人じゃあいつの相手は時間がかかる。ファリス、彼女の言う通りにしてみないか?」
「分かった。クロエ、くれぐれも無理はせずに相手の隙を見切るのを忘れないで!」
もちろん、心得てるわ!
まずは2頭を分断しなきゃね…ダックスクロウへ近づいて、すれ違いざまに胴を斬りつけると、注意はこちらに向いた!
「さあこっちに来なさい! このアヒル口!」
グギャア!グギャア!
よーし、私だってやれるところを見せてやるわ!