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12 ターリア

 

「ふぅ、どうにかなったねー…」

「う、うん…だけど、クロエは眠ったまま…」

「ドクターからも命に別状はないって話じゃん。解毒剤飲んだんだし、あとはゆっくり治せばいいよ」


 どうか無事に治って早く目を覚ましてほしい。いつもの強いクロエに戻ってきて欲しいな。


「にしてもあの燃えた剣と盾は初めて見た…あれは何か知ってる?」

「いえ、ボクも何も…ターリアさんも見たことがなかったんですか?」

「少なくとも武器はあんな風にはならない。武器によっては火や水とかの属性を持っていることはあれど、それを具現化することなんて聞いたことない」


 そっか…じゃあやっぱりすごい力なんだ。だけど、あのときのターリアさんの射撃も凄まじかった。あんな一撃が出せるなんて、並大抵の闘争心じゃないはず。


「ターリアさんはどうしてハンターに?」

「うーん? つまらない話だよ?」

「それでも聞いてみたいです」


 ♦♦♦


 アタシ、4年前に結婚するつもりでね、そのときはハンターのことなんて全く知らなかった。

 彼は農民、私は地主の娘だったけど、彼は優しくてお互いに気が合うし、アタシはすぐにでもって思ってた。

 ま、親父は「もっと慎重に選べ! ただの農民ではお前と釣り合わん!」って否定しててさ、そこでアタシらは直談判しに行ったわけよ。


「お義父さん、どうしても駄目でしょうか?」

「親父、頑固なこと言ってないでアタシたちを信じてくれよ!」

「駄目だ。いいかターリア、お前は俺たちの大事な一人娘だ。おいそれとそこら辺のヤツに渡すわけにはいかない!」

「じゃあなんだよ、こいつがそんじょそこらのやつって言いたいのか!?」


 話は平行線のまま終わろうとしていた。

 だけど、それに耐えかねたのか親父が一つの提案をしてきたわけ。


「わかった、そこまでお前がその男を特別だと言うなら実力で示して見せてもらう。一年間、一人で毎日あの山に行って、日が暮れるまで木を切って持ってこい。家族のことは俺が何とかするが…やってみるか?」

「はい! それで結婚させてもらえるのなら!」

「!……そうか」


 彼は爽やかに快諾してくれて、それに親父は少しびっくりしてた。もしかしたらこの時に親父は孫が欲しい気持ちでも湧いたのかもね。

 それからは泊まり込みで彼は必死に山道を上り下りして、木を切って、黄昏時に帰って来た。もうその時には手はボロボロで、よく塗り薬を使ったり包帯を巻いてたりしてたっけな。

 だけど、彼は嫌な顔一つしなくて、いつもアタシには笑ってた。何時もだらしなくしてるアタシと違ってね…もしかしたら、不釣り合いなのは自分なんじゃないか、とか思ったほどね。


「ねえ、ホントにアタシなんかでいいの? もっといい女を選べばよかったんじゃ……」

「そんなことないさ。ターリアは明るいし、優しいし、ちょっと子供っぽいところも面白くて、俺はそういうところが好きなんだ」


 全肯定なんかされちゃったから、もう不釣り合いだなんて考えなくなったね。


「それじゃ、今日で最後ですね」

「おう。…まさか、本当にこの時が来ちまうとはな。一年間きっちりやり遂げるなんて俺は思いもしなかった。お前はもう、不釣り合いなんかじゃない。帰ったらお祝いしよう!」

「はは、お義父さん、まだ気が早いですよ。認めるのは帰ってきてからでいいですから」


 なんだか、いつも頑固で顔にしわが寄ってる親父の顔も、子どもの頃に見た爽やかな顔つきに戻ってたな…。本当によくできた人だった。


 ……ここまで話せばわかるけど、彼は帰ってこなかった。すっかり準備もして、彼の家族も呼んだのに夜が更けても全然帰ってこなかった。

 そしたら、外から腕章をつけたハンターが尋ねてきたんだ。


「この近くで濃霧が発生していたという情報があったんですが、皆さん何かありましたか?」

「え? 濃霧……」


 親父はその問いに困惑していたけど、たしかに朝は山の方にすごい濃霧が立ち込めていて、それを聞いたハンターは焦燥感を募らせて玄関から山の方を見てた。


「な、なんてこった……! 本当にここに来ていたのか!」

「な、なんのことですかな……うわっ!?」


 親父も山の方を見てて唖然としていた。つられて私もみんなも見に行った。


 山は禿げていた。

 土砂崩れ…いや、山肌の表面が剥がされたみたいに禿げていて、そこに緑は一つもなかった。


「あ、ああ、なんてことだ、なんてことを! 俺があいつを…あいつを山に行かせなければよかった…!」

「え? う、うそ、う、そで…しょ……?」


 意識が遠のいて、周りの色という色が枯れていった。きっと、帰ってこないのはそういうことなんだって。

 後ろでは彼の父と弟が力なく立ちつくして、母は泣いていた。もちろん、家族同然の存在になってたアタシの母ちゃんも泣いてた。


「あの禿げ方は間違いなく、今調査中の大型モンスターによるものかと……」


 モンスター。そうか、そいつが彼の命を奪ったんだ。

 それを聞いた途端に、アタシの目の前が真っ赤に染まって……。そこからはあまり覚えてない。多分、家に入って親父が趣味で使っていた弓矢の「矢」を握りしめて、山に向かって行ったはず。


 そして、意識がはっきりしてきたら、アタシの身体は血まみれで、服と手にしていた矢はボロボロだった。


「もう…気が済んだか?」


 振り返るとあのときのハンターが見ていた。


「君、二日の間も飲まず食わずにずっと戦ってたよ。モンスターを片っ端から殺して、臓腑を引き裂いて、必死に探していた…「返せ」「どこ」って叫びながらね」


 目が覚めた時、アタシは虚無感でいっぱいだった。だけど、そこに最初に生まれたのは彼にまた会いたいって気持ちと、彼を殺したモンスターへの憎悪だった。

 あの時はすごく喉が痛くて、声がうまく出なかったっけ。


「あいつを殺したい…彼はどこなの……?」

「君の彼氏は……そうだな、君に一つ提案がある」


 ♦♦♦


「そこでハンターになってみないかって提案されたってわけ」

「結婚が目前だったのにそんなことになるなんて、彼氏さんもすごく無念だっただろうね……」

「本当につまらない話でしょ? だって、今更会えたって「もう死んでる」って自分でも分かってるけど、それでも復讐心だけが今もずっと消えないのよ」


 まるで呪縛みたいに聞こえるね…。


「なんやかんやでシルバーまであっという間に来ちゃった。何も果たせてないのに」

「そんなことないですよ。さっきのゲルギロスだって、ボクたち二人だけだったらどうなっていたか分からないし…それに、シルバーになれる人はそういないって聞きますよ」

「悪いね、励ましてもらって。長々と話したけど、そろそろ行っていい? ただでさえ遅れてるから、気になるのよ。もしかしたら、彼を殺したアイツに会えるかもしれないからさ」

「あ、はい。それならどうぞ…」

「じゃ、また会えたらいいわね。クロエにもよろしく言っておいて」


 ターリアさんは去っていった。治療費の入った袋を残して……。


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