11 氷穴を焼く一矢
「ところで、2人は何でこんなところに来たの?」
「ターリアさんと同じでガイザロスの調査だよ」
「え? でもあんたたちってあの時レザーじゃなかった? どういうこと?」
ボクたちは今までの経緯を話した。
「へぇー、家を追い出されたから、そこへ戻るためにハンターにねぇ」
「あれは絶対何か裏があるはずだから…それを暴きたくて」
「それなら探偵とかにでもなればいいのに、なんでハンターを?」
「ハンターはある時からの憧れだったんです。追い出された時に、もう「自由にやりたいことをやってるうちに戻る方法も考えよう」って思って」
「へぇ、頭の回るお嬢さんだね。シングルタスク脳のアタシにはむりかなー」
そういえば、ソニアさんにも調査をお願いしていたね。むこうも無事だといいけど。
「ねえ、ところであんたたちって恋仲なの?」
「「えっ!?」」
「なんとなーく、そう思ったんだけど」
「い、いや、ボクらはそういうわけじゃ…」
たしかに、クロエはかっこいいし、スタイル良いし、メンタルだってすごくしっかりしてるけど…。
「まあいいや、どっちにしても応援してるよ」
謎のサムズアップをされた。
話しているうちに、ゲルギロスの巣がある氷穴にたどり着いた。ビュオーッて音がして外の空気が吸い込まれていくようで、ボクも寒さを感じるくらいだ。
「風が吹き込んでるから余計に寒いね…」
「そんなこと言う割にはファリスは全然震えてないじゃない…そうだ、ゲルギロスってどんなモンスターなの?」
「多様な毒を使ってくる厄介なモンスターだね」
前に一度だけ戦った時は、丸呑みにされて服溶かされた挙句に毒殺されかけたからなぁ…。
「気をつけな、凍土のゲルギロスは相手を弱らせて凍死させてからアイスを食うみたいに削り食うんだと。くれぐれも毒には触れないようにね」
「それに、あいつは首や尻尾を伸ばして攻撃してくるから間合いに気をつけて」
「き、聞けば聞くほど厄介な相手みたいね…」
「まあ大丈夫だって、三人もいればどうってことないない!」
すると、どこからか気配を感じた!
「この感じ…上だよ!」
ボクよりも早くターリアさんが気づいていたのか。
見上げると、そこには紫の眼光でこちらを凝視するゲルギロスが!
「撃ち落とす!」
ターリアさんがすぐさま弓を構えて矢を放つ!
それは綺麗に腕に命中して、ゲルギロスはドサッと墜落した! よし、これなら試してみるか!
「ボクは頭部をやるからクロエは尻尾を!」
これならボクも気兼ねなくやれる!
ハンマーを構えて飛び上がり、一回転して渾身の一撃をゲルギロスへと叩き込んだ!…いや、浅いか!
ヤツは次の瞬間に頭と尻尾を伸ばしてボクらを吹っ飛ばした!
「ぐっ、大丈夫かい!?」
「平気よこれくらい! ところで、ターリアさんは?」
「アタシならこっちだ。もう仕込みは終わったよ」
仕込み…? 考える間も無く、体勢を立て直したゲルギロスが踏み込もうとしたその時に、突然「バチーン!」という衝撃音とともにギロスの下半身が埋まった!
「まさか落とし穴!?」
「これだけじゃないからね!」
そう言って矢を放つと、それは刺さった瞬間に爆発、呼応するかのように後から落とし穴の周囲が連鎖的に爆発を引き起こしてる!
「対モンスター地雷…?」
「そう、あんな風に意図的に爆発させられるのよ」
地雷って言っても、体勢を崩してる数秒の間にあれだけの罠を仕掛けてあるなんてすごい早技だ。
とはいえ、今がチャンス!
「さ、トドメは任せたよ、ファリス!」
「うん…!」
再び跳び上がって、頭頂部を今度こそ捉えた!
大槌の一撃が鈍い音を立てて突き刺さり、ゲルギロスは全身を震わせてその場から動かなくなった。
「鮮やかな戦いだったわ…」
「弓矢っていうのは剣とか槍とかに比べて火力が出ない分、あんな風に使うのも一つの手ね。もしよかったら使ってみる?」
「えっ、あ、いえ、私はこの武器を使いこなしたいので…」
クロエが遠慮していると ベチャッ という音が彼女の腕に…。
「え、え…あ、え!? 嘘でしょ!?」
どこからか飛んできた毒弾がクロエの左脚に直撃していた! 飛んできた方を向くと、そこにはもう一体のゲルギロスが…!
「クロエ、今すぐこの解毒薬を飲んで塗り薬を患部に塗って!」
「わ、分かった!」
彼女が急いで飲もうとするが…
ギャァォアォァゴギャァァァ!!!
うっ、すごい咆哮だ! ゲルギロスの咆哮は「音響兵器」と呼ばれるだけあって凄まじい! 再びクロエに目を向けると、彼女は呆然としていた。
「あ…お、おと、落としちゃった!」
し、仕方ない。あの咆哮を聞いて耳を塞がない人は居ないと言われるほどだから…。
「うっ、身体が……」
「ファリス、クロエのことは任せてほしいから、少しの間だけ持たせてくれる?」
「は、はい!」
ゲルギロスの毒はほっといても治らないけど、とりあえずは目の前の相手がこちらを逃してくれるとも限らない…!
だけど、あいつは天井に張り付いてずっと毒弾を撃ってる…もしかしてハンターとの戦いに慣れてるんだ! とはいえ、ざっと見て10mも先にある天井にはボクの闘争心全開の跳躍でも届かない…!
「どうにかして引きずり降ろさないと…」
そう思っていると、後ろからゲルギロスに向かって矢が放たれた!
「待たせたね、流石に飛び道具じゃないとあれは届かないか」
ギィゴガァ!
さも不意をつかれたかのような声を出して、ゲルギロスは天井から剥がれ落ちてきた。
「ターリアさん、クロエは?」
「大丈夫、毒の巡りを抑えるツボを突いておいたから」
毒の巡りを抑えるツボ…? 初めて聞いたけど、一応の難は去ったってことかな。
でも撃墜されたゲルギロスはまだ諦めていないのか、両腕の腺から毒霧を発してる…これじゃ近づけない!
「さて、そろそろ幕引きにしようじゃないの。また少し時間がかかるんだけど、その間アイツの攻撃を弾いてくれる?」
「はい!」
ターリアさんは弓を極限まで引いて、目にオーラとして見えるほどの強い闘争心を矢に込め始めてる!
ボクはハンマーで毒霧の中から飛んでくる弾を打ち返していた。…霧の中からの攻撃ってすごく打ちづらい!
すると、ボクらを捉えていないはずの弾が壁に跳ね返ってターリアさんの元に…!
「はぁッ!」
燃えている何かを持った人物が毒弾を防いだ! あれは…クロエ!?
「クロエ、毒は!?」
「はぁ、はぁ…毒なら平気よ…! こうして動けるもの!」
彼女の盾と剣は激しい炎に包まれていた…ま、まさかこれって彼女の魔法の力…?
「へぇ、ツボ突いてからほんの少ししか経ってないのにもう効果が出たってこと? それどころか、すごく強そうじゃないの!」
「はい、おかげさまで…。それよりも、アイツの毒は本当に厄介ね。一筋縄じゃ行かないわけだわ。…でも!」
クロエは手にしていた炎の剣を投げつけた! それは毒霧が薄くなったところを突き進んで、ゲルギロスの片目を貫いた!
ギィロロロオォォ!!!
「今しかないね、極式ノ一矢、発射!」
直後、煌めく矢が一つの光線のように発射されて毒煙を吹き飛ばし、ゲルギロスの身体を撃ち抜いた!
頭から尻尾にかけて一撃で貫いたのだから、これは間違いなく即死だった。
「やった! これで…うっ……」
クロエ!? クロエが力なく倒れた…急いで駆け寄ると、彼女は意識がない…!
「あーらら、いくらなんでもやりすぎたみたい」
「え!?」
「ツボはあくまでも毒の巡りを抑えるもの。無理に身体を動かしたり闘争心を高めれば、血の巡りが速くなるから毒を抑える効果も薄くなるってことさね」
「そ、そんな……」
「そんな声出さなくても大丈夫だって、ゲルギロスの毒は症状こそキツいけど重篤にはなりにくいって知ってるでしょ? 街に戻って病院に担ぎ込めばすぐに起きるわ」
う、うぅ、だけど死なないでねクロエ!