要らない子扱いしてたのに、今更なんだよって感じだよな!
もし良かったら星くださいませ。
「いや、だから、その筆下ろしをたのもーと
思って...」
「経験豊富?私が??」
「そ、そうだよ、その、噂に拠れば、
モテモテだから、もうかなりのテクニシャン
だって...」
「フッ....」
林さんは笑いを堪えているみたいだった。
でも、すぐに、それに耐えられなくなったと見えて、
「おっかしー!」
とのけぞって、
あははー!と豪快に笑ってみせた。
「笑顔、可愛い...!」
俺は思わず。
そう口にした。すると...
「やっぱり飛び降りるのもうちょっと待ってみる」
「え?」
「なんか、嬉しかったから。
笑顔、可愛いって言ってくれてさ」
「いや、そんなのさ、林さんなら言われ慣れているよね?別段どうこう心に響かないでしょ?」
「ううん、嬉しかった!」
「ま、いいや、取り敢えず、
自殺を思い止まってくれてよかったよ...」
「あのさ」
「ん?」
「あんたの彼女になってあげよっか?」
「え、か、彼女!?」
「うん。一回だけとも思ったけどさ。
それって私の初めてだったりするわけよ」
「ええ!?経験豊富なんじゃなかったの!?」
「バカね。真実はさー、噂が一人歩きしてしまっただけなのよ。本当は私、未経験なの...」
そう言って頬を赤らめてみせた彼女は
思っていたビッチギャルとは違う。
外見はど派手だけど、
ウブな女子高生そのものだった。
「とりま、ここで一緒にご飯食べよ?
私、死ぬつもりだったからお昼ご飯持って来てないんだ」
「そ、そーなんだ」
「だからね、購買に行ってなんか買ってくる」
「ああ」
まさかの。
女子、学年一可愛い金髪ギャルと
昼飯になろーとは俺は予想だにしなかった。
「ここにいてよね!
逃げちゃだめだかんね!」
「う、うん...」
俺は彼女が戻って来るまで昼飯を食べなかった。
10分後。
林ユーコが残念そうな顔して
戻って来た。
手ぶらだった。
「なんか、もう売り切れちゃってた。
本当はサンドウィッチかなんか買いたかったんだけどさ...」
自分のお弁当をまだ食べなくて正解だった。
「これ、よかったらだけど...」
俺は朝作ったタマゴサンドとかハムとサラダ菜とチーズのサンドウィッチとかを彼女に半分渡した。
「え...」
「よかったら食べてよ...」
「いいの!?」
「あ、うん。
母さんが作った訳じゃなくて俺が作ったやつだから味の保証はしないけどね...」
「凄...男なのに、料理するとか...!
尊敬するな、、、」
林ユーコは俺の隣に座り込み、俺が
差し出したサンドウィッチを大人しく受け取ってくれた。
「まぁ、やらざるを得ないってゆーか。
母さんは看護師で昨日から夜勤でいないし...」
「そうなんだ...」
林ユーコは、残さず食べ、
不思議なことに、めちゃくちゃ感動してた。
「やだー、マジ、美味しいんだけど!」
林ユーコは両ほっぺを手で押さえていた。
「そんなに感激するもん?」
「私ね、いつもコンビニのパンとか、スーパーのお惣菜のパンを食べてるからさ!
母親は料理しない人でさ!
こんな美味しいもの、食べたことないや...!」
随分なベタ褒めだった。
ま、まぁ、俺的に褒められて悪い気はしなかった。
二人して昼ご飯を食べ終わり、
やがて教室に戻る時間がきた。
林ユーコが先に立ち上がり、俺に右手を開いた状態で俺の顔の前に伸ばしてきた。
「ほら、行こ!」
「え...」
「カレカノになったんだから、
手を繋ぎたいの!!」
「い、いきなし!?」
一回だけの関係性だけで。
ほんの少しだけ肌の密着ができたらいいなと
望んでいたが、よもや俺に彼女ができてしまった件。しかも、学年一可愛い女子。
手を繋ぎながら廊下を歩き、
周りの好奇な目も気にならず、
俺は内心ルンルンだった。
林さん的には、こんな陰キャと
一緒に歩いていて、しかも手繋ぎしてて、
暫く繋いでたら、恋人繋ぎになっちまったから
嘸かし恥ずかしいだろうと、察したのだが。
別段、大丈夫そうだった。
横顔を見たが、特に顔を赤らめてる風でもなく、いつも通り。
飄々とし、
「とりま、今日!一緒に帰ろうね!」
と約束して、俺達はそれぞれの教室に
入って行った。
放課後。予想はしていたが、俺は下駄箱のところで、
同学年のイケメン軍団に、胸ぐらを掴まれていた。
「なんで、お前が林ユーコと恋人繋ぎしてんだよ!?」
「おかしいだろ...!何故、陰キャのお前が、
美女ギャルと付き合えるんだよ...??」
「急に金持ちになったとかか?お前ん家、
兄弟が多くてジャージも買えなくて
お下がりなのに...?何が起きた?」
親が金持ちなイケメンに凄まれ、
俺は、困り果てた。
「相変わらずの貧乏な母子家庭だよ。
母さんは夜勤をやりまくって何とか3人兄弟を
支えてる...」
「だよな。貧乏なのに、なんで、
付き合えてるんだか、疑問だから尋ねているんだ」
ワイシャツの襟ぐりを掴まれて。
俺の両足は少し宙に浮いてた。
まさか、屋上で助けたから、なんて
言ったところでどうにもならないなと
思っていたら。
林ユーコが、階段から駆け下りてきて。
ちょうど俺が苦しんでいるところに、現れてくれて。
「ちょ、私の彼氏に何してんだよ!?
どっか行けバーカ!!」と
一喝してくれた。
イケメン軍団の中で一番の男前が
「.....っ!なんでお前、こんな奴と付き合うよ??」言えば、
「うっさい!あんた達には関係のないことよ!」はこう言い返し。
「あー、もう行こうぜ...」
「どーせ、長続きしないだろ?フリーになったら、また声かけるわ。
俺の方がいい男だし」
と捨て台詞を吐いていなくなってくれた。
「勝手に言ってろ、バーカ!」
俺の足は無事に地面についた。
「大丈夫?」
「あ、ああ...」
「有難う、林さん...
カッコ悪いな、俺、ほんと...
女子に助けられるなんて...」
「ううん!私、気にしないよ!
私に助けられたくらいで、山吹くんのこと
カッコ悪いなんて思わないからさ...!」
随分とサバけた感じでそう言われて。
俺はなんだか、救われた気がした。
本当はさ。
男なら女を助けることはあっても、
なるべくなら、その逆の女に助けられるなんて、
そんな真似、されたくないのが本音だったりする。
「俺、筋トレガチでやろうかな...」
「身体鍛えてさ、
そしたら、さっきの場面とかでも、
君に助けられることなく、切り抜けられたと
思うし...」
「うーん...まぁ。山吹くんが細マッチョになったらカッコいいとは思うけどさ!
無理しなくていいと思うよ!」
「眼鏡もやめようかな...。
そんで、この長い髪も伸ばしていたけど、
切ってしまおうかな、
なんて...」
「??どうしたのさ!?」
歩きながら色々話した。
「一緒に歩いてて、恥ずかしくない?
流石に、インキャと金髪ギャルじゃさぁ...
目立ち過ぎて、しかも、周りに何言われてるか
分かんないよ?」
「ホント、無理しなくていいからね!」
優しいな、、
見た目によらず。
俺はそんな事を考えていた。
とりま、家庭の経済事情鑑みて、
コンタクトにできそうならするし。
あ、あと!
髪の毛くらいは整えよ...
外見、ちょっとはマシにしよ...
俺はそんな事を考えながら、
道を歩いていた。
その時だった。
前方から、母さんが、買い物袋を引っ提げて、
驚き顔で近寄ってきた。めっちゃ、
走ってて。
「な、なになになに!?」
って興奮してた。
「シンジが...!滅茶苦茶可愛いギャ..あ、
可愛い子と手繋いでるし...!」
「ちょ、どうしたの!?
シンジ!?まさか、彼女できたの?
そんな訳ないわよねぇ??」
俺がモジモジしてると。
母さんが、
ふふーん、分かったわ、と言いたげに、
林さんに尋ねてた。
「何かの罰ゲームかなにかなのね?
ごめんなさいねぇ、モテないシンジと
手を繋がなきゃいけないなんて...!」
母さんは何気に酷い。
まぁ、でも。
とにかく、ギャルとインキャという組み合わせの不思議な事象を目撃したせいで、
真相を確かめたくてしょうがないの、と
言わんばかりの目だった。
「違いますよ!山吹くんのお母さん!
はじめまして、私、林ユーコって言います!
山吹くんの正真正銘の彼女です!」
「え...」
「屋上で全力で彼に助けてもらったんです。
それで、好きになってしまって...」
「え...」
「助け...?」
「はい!私、両親に要らない子扱いされてて。それで飛び降りようとしてたところを、
助けて貰いました...!」
「え...」
林ユーコは。
淡々と笑顔で喋っているが、
きっと内心は。
悲痛な想いだと思う。
「要らない子」
扱いされてて、
そんな笑って。
へらへらできるなんて。
変だよ。
「詳しく話を聞こうかしら。何か悩んでいるのね...?私で良ければ相談に乗るわよ...?」
「か、母さん...!触れられたくないことだろうし...!」
「いえ、大丈夫です...。
お話しします。実はかくかくしかじかで...」
林ユーコはまるで。
他人事のように、
両親のダブル不倫を軽い感じで話し出した。
「お、おい、林さん、そんな無理に母さんに聞かれたからってペラペラ喋んなくても...!」
「大丈夫よ。誰かにきいてもらうと少し気が楽になると思うから。ま、でも、もう山吹くんに話して心が軽くなってるから、こんなにフランクに話せるのかもね...」
淡々と。
俺の母さんに一部始終を告げる姿は。
まぁ、確かに。
なんか、吹っ切れた表情で。
屋上での思い詰めた感じの表情とは
どこか違ってみえたんだ。
母さんは所々、頷きながら話を聞き、
それから少し真剣な顔して俺がびっくりして
腰を抜かすような発言をしてみせた。
いや、もう、何言っちゃってんの、そんな
急に、即決で、俺に相談もなく、
なんてこと...!って内容だった。
「事情は分かったわ...。それで、本当に突然なんだけど、あのね...」
林ユーコの綺麗な右手を母さんはゴツゴツとした働き者の両手で掴み、
「良かったら、山吹家に養子にこない?
私ね、娘がほしいと思っていたけど、
子供は恵まれたけど。男の子ばっか三人で。
残念ながら女の子はできなくてさ、
随分と寂しい想いをしているのよ...!」
「たまに、パウンドケーキとかのお菓子作りとかをしてるとね、娘がいたら一緒に作るのになぁ!って思いながら小麦粉を振るったりしてるのよ...」
「か、母さん...!」
俺は一歩も二歩も後ずさった。
林ユーコは。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔してた。
そりゃそーだろ。
突然そんな、我が家に来ない?なんて
言われたら、誰だってそうなるさ!
「養子....」
「そう!シンジの彼女になってくれたあなたと是非、養子縁組したいな、って!」
「いや、なんか、私の居場所?を作ろうとしてくれてる感じがして、凄く嬉しいんですけど。
でも...」
「でも?」
「シンジくんと家族になっちゃったら、
結婚できなくなっちゃいますよね...?」
「え」
これは俺の一言で、やや驚きの悲鳴だった。
まさか、林さん、
結婚なんて先々のこと考えてる?
いやー、もう、そんな事まで考える、
必要性ある!?
俺と、結婚?
何言っちゃってんの!?
「まぁまぁまぁ!!
シンジと結婚することまで考えてくれているの!?ちょっと、びっくり!!でも、
ちょっと感激!」
「は、はいっ!」
「それなら、大丈夫なの!
実子、つまり、シンジね。と養子、
の結婚って、法律上、なんの問題もなく
できんのよ!そこは安心してよ!」
「そ、そうなんですか!」
「そーなのー!」
このあと。
約一週間後くらい経過して。
母さんが養子縁組を済ませて、
林ユーコと俺が家族になるんだが。
母さん公認で。
俺の部屋とかで
イチャイチャする羽目になる。
「ほ、ほぼ生まれたまんまの姿で家の中、ウロチョロすんな...!」
「え、いいじゃん。
今、家には私とシンジしかいないんだし...!」
「もし、弟が急に帰って来たら、
ダメだろ...!友達とか連れてきたら、
ビックリしちゃうだろ...!」
「そうなったらそーなったときで、
何か羽織るもん!キャミの上に何か着るもん..!」
「とりま、お風呂入ったし、
シンジの部屋行くからイチャイチャしよ?」
「いや、俺はそんな気分じゃないっつーか...!」
「なんでー?私はもうやる気満々なのに!」
強引に。俺の部屋に入ってきて。
ベッドに誘導しようとするユーコ
にたじたじだった。
「俺の部屋から出てけよっ!」
陰キャの俺に。
やたらぐいぐいくる義妹な彼女ができ。
この五年後。
俺もユーコも成人式を終えた頃か。
籍を入れたんだが。
実は更にユーコに関しての凄いことがあって。
林ユーコは抜群の美貌と、
運動神経で。
アイドルのオーディションに17歳のときに1発合格しちまって。
その動機が。
俺のお母さんに養子として迎えてもらったことが嬉し過ぎて。
お金を滅茶苦茶稼いで、
俺の母さんに恩返ししたいんだと。
彼女がトップアイドルグループのセンターポジの女になって。
暫くした頃か。
林ユーコの
ほんとの親が、
俺の家に別々に訪ねて来て。
ふざけんなってセリフを吐いた。
「私がお腹を痛めて産んだ子なの。
返してほしい...」
この時は母さんが、
「だー、れが返すもんですか...!」
って言ってやって。
ユーコもそばにいたけど、一切、
ほんとの母親と目を合わせなかった。
更に、ほんとの父親が来たときには。
「ユーコ、あの時はすまなかった。
俺はお前を離れて暮らしてても娘だと思っている...父さんと一緒に住まないか...?」
二人して。
金に困ってるみたいで。
見なりは悪かった。
噂だと、ほんとの父親は会社をリストラされ、
無職で酒とギャンブルに塗れているみたいで。母親の方は、再婚で一緒になった男が何千万って借金をかかえていたんだと。
掌返ししたのは。
ぜってー、ユーコの稼ぐ金目当てだと思った。
ユーコは全くと言っていいほど相手にしなかった。
一切口を聞くことなく。
玄関先でドアを閉めた。
「今更、何よ、私の親は、シンジの
お母さんだけなんだからね..!」
そんなセリフをドアによりかかりながら小さく吐いて。
俺に向かって和やかに微笑み。
「さーて、夕飯の支度しよっ!」
と何事もなかったかのように。
涼しげな顔して、
台所に向かったのでした。
一回こっきりの
関係性の彼女が、俺にデレて嫁になり。
本来なら姑と嫁は仲の悪いものだが。
嫁と俺の母さんとは同居までして。
めちゃくちゃ仲良しで。
周りがびっくりするくらい。
毎日、一緒に買い物に行ったりしてるw
読んでくれてありがとうです。