八月の波(改)
大事な人に伝えてますか?
あまりにも近い存在だった二人が、互いの気持ちに気づいた頃には遅かったと言う純愛悲恋ものです。
それでも、彼は彼女への気持ちを毎年八月に伝えます。
読み直して、おかしい箇所があったので、書き直しました。
八月の波
生まれた頃から、ずっと隣で過ごして来た。
仲良しのお隣さん。
幼稚園生の頃は、仲良く手を繋いで遊んで居た。あの頃はまだ二人とも素直だった。可愛い君が泣かされるからといつも僕は君を守っていた。
なんでも話せたあの頃の記憶は、僕にとって一番の宝物だったって君は知ってた?
『いつか二人で一緒に約束だよ、遼ちゃん』
『波月は僕のお嫁さんだからね』
それが幼かった二人の合言葉。
小学生になるとそんな二人を周りは囃し立てて来る。思春期で恥ずかしくなって、つい波月にひどい言葉を浴びせ、泣かせた。
負けず嫌いの波月も僕にひどい言葉を返して来てたね。
それを見た周りがまた僕らを『おしどり夫婦』だと囃し立ててた。
その度にお互いの親が謝ってた。
大人達は子供達が照れていたのを知っていたんだろうね。
中学になると、互いがハリネズミのよう。周りから囃し立てられる事にウンザリし、もう二人だけで会わなくなった。その頃には君の家族が引越しを考えていた事さえも知らなかったよ。
気づけば、君の隣には同じ性別の友人達の顔が並ぶようになった。僕はそれにホッとしてたし、嫉妬もした。何で君の隣に居るのが僕じゃないんだろうってね。
可笑しいよね。僕が君を傷つけたのに。
中学三年になっていきなり背が高くなった僕の周りに急に女子達が蔓延るようになった。日替わりのように僕の隣には、いつも違う女の子達がいた。視界の端で複雑な表情の波月を見て僕は優越感に浸っていた。
表面では笑ってても、中身がチキンでヘタレな僕はこんな自分に泣きそうになる。
僕が波月に告白すれば、どうなるかわかってる。
周りの反応を見て、自分がモテるのを知った僕は、なるべく波月に関わらないようにした。
それが一番だと思ったから。
僕の親友達は俺が昔から好きなのは波月だと知っているから、やきもきしてた事だろう。
「何で霜田さんに告白しないんだよ。お前ら、好きあってるくせに、なにやってんだ!」
「他の女子達からあいつを守れるわけがないだろ」
高校、大学と同じ校舎なのに僕らは、何年も話さなくなった。会えば挨拶はする。それだけの関係になった。
大学も学部が違うのか波月の顔を見なくなった。
明日には会えるだろう。
明後日には会えるだろう。
来週には会えるだろう。
中学からの親友から波月が大学を中退したことを聞いた。
何で僕に何も相談してくれなかったんだ。
僕の中の時計の針が止まった。
「お前、何様だと思ってんだよ。波月を先に突き放したのはお前だろ。何言ってんだ」
「だって…そうでもしなきゃ、波月を守れなかったから…」
「お前がやったのは、自己満足。エゴだ。本当に葉月を守りたかったら、みんなに自分の彼女だと認めさせれば良かったんだよ」
大声で泣く僕の背中を親友がそっと撫でてくれる。
泣くだけ泣いた僕は、波月に会うためだけに我武者羅に生きるしかない。
いつか子供の頃にした約束『波月を僕のお嫁さんに』を果たそうと、は第一希望の会社への内定を決めた。
どんなに時が経っても、一緒に同じ時を過ごしたいと願う相手は幼馴染で雛菊のような笑顔の波月だと気がついたからだ。
『いつかは二人で一緒に』『波月は僕のお嫁さん』そう約束してたね。
波月を見つけた時、僕はどうしてもっと自分から会いに行かなかったんだと自分を責めたよ。
痩せて、全身管をつけられてる状態の波月を見て、あまりの自分の情けなさに泣いた。涙でぐちゃぐちゃな僕の顔を見た君が
「ごめんね。一緒にいれなくて」
そんな優しい君の言葉にどうすればいい?
「僕こそ。ごめん」
波月のお母さんから波月がもう長くない事を聞いた。
その頃から僕はある計画を立てていた。
結婚式場で働いている親友に頼み込んで、簡易で着せれるドレスを見繕ってもらった。
時間はあまりない。
簡単でいいなら、俺が神父をやってやるよと言う親友の男前な言葉に、僕は涙目で抱きついた。ありがたくて言葉にならない。
式は医師の監視の元、病室での厳かにな式になった。
神父役の親友の言葉に僕達は照れながらも、愛の誓いをし、指輪の交換もした。口付けだけは波月が酸素マスクをつけていた関係で出来なかったけど、額と頬と手の甲に口付けた。
その二ヶ月後、君は旅だった。
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高校を進学した頃から、体に変調が現れた。はじめはただの風邪だろうと思って、放置していた。
ただでさえ、母子家庭で親に負担をかけているのだからと体からの信号を無視し続けた。
大学に進学してからも私の体の不調は続いた。家族に無理やり連れて行かれた病院で聞いたのは、自分の余命。
「ごめん。お母さん。あいつには言わないでちょうだい!お願いよ一生のお願い。黙っててくれない?私のことで悩ませたくないの。」
目を真っ赤に腫らした私の言葉に、何か言いたそうだった母も納得してくれた。
なのに、どうしてあなたがここ(病室)にいるのかが分からない。
くしゃっと顔を歪ませて、下手な笑顔を作るあなたに、あんな言葉を言わせたくなかった。
「僕こそ。ごめん」
幼子のように泣いて縋れば良かったのか。
傲慢で’我儘だったあなたが、日に日におとなしくなっていくのが、こんなに悲しくなるなんて。
以前だったら、そんなこと思いもしなかった。
私が消えても泣かないで。
「愛してる」
不器用なあなたには言えないだろうから、私からあなたに送るね。
私からの最後の言葉はやっぱり「一緒にいてくれて、ありがとう。愛してる」泣いているあなたのことが心配。でもあなたなら大丈夫よ。
例え、壁のように大きなあなたが、小さくなった私を目にすることになったとしても。
幾千幾万の涙を流して、私はあなたに会いにいくよ。
迎え火の煙が波のようにあなたの元へ向かうように。
また、あなたに言うの。
「愛してる」
きっと白毛の髭をたくわえた頃のあなたなら、きっと素敵な言葉を写真の向こうで笑っている私に言う言葉だって信じてるから。
六月の花嫁は幸せになれるからって、私の結婚式を企画してくれた遼太郎。
ありがとう。こんな私をあなたの奥さんにしてくれて。
ありがとう。夢にまで見たウェディングドレスを着て、あなたに嫁ぐ事になるなんて…夢のよう。
覚めなきゃいいな。
もう、自分で後少ししか時間が残されていないって分かるようになった。今までは、違う!私は大丈夫だ!と何度も反抗してきたけど、今回はああ本当に私の体はここまでなんだなぁ、そう感じたよ。
ごめんね、遼太郎。お料理も作れなくて。一緒に普通の恋人同士のデートも出来なくて。
私だけがあなたからの愛情を貰うばかりもらって。ずるいよね。ごめんね。
「ー…ずっと言えなかった言葉を言うよ。僕と一緒になってくれてありがとう。僕はきっと君を泣かせるかもしれない。悲しませるかもしれない。だけど、これだけは言えるんだ。僕は君を」
アイシテル だから 生きてくれ。
彼の言葉を朦朧とする意識の最中で聞いていた。少し泣いた顔のあなたは、口をへの字に曲げて何とか笑顔を作ろうと必死。
ああ、もう最後なのね。
乾いた唇でうわ言のようにあなたの言葉に答えるわ
アイシテル
八月の空へと竜のように登る送り火の煙の中から、君の姿を捉えながら、また来年と手を振るよ。
白い白いこの煙は、僕と君を繋いでいるのだと。
また来年の八月の波に会おう
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私も待ってる。また八月の波で。