当主からの手紙(秋猫)
秋猫家はひいじいさまも元気。
昼までに家の用事を済ませ、秋猫のリシューは玄関扉についてるポストを開けた。
丁寧な文字でで書かれた宛名とからし色の封蝋に向日葵と金木犀の印章は間違いなく秋猫当主からの手紙であることを示す。
「あれ?またお祖父さんから手紙きてる。」
このところ3日と開けずに手紙が届く主は一度だけあったことのある祖父からだ。柔らかな毛皮に左目にある向日葵と右側に大きく2つ金木犀の花を散らしたかの人物を思い浮かべる。
芸術好きの秋猫にあって絵を描くのが好きで、もっぱら描くのは2匹だけいる最愛だという。番を持たない猫人にとって珍しいタイプだし自由を愛する猫人でもこれほど筆まめな人はこれまた珍しい。とついつい明後日の方向に考えながら、文官時代の癖で丁寧に封を切る。
中は時候の挨拶に始まり、先日あった秋猫一番の国事である立秋の祭事を見に行けなくて残念だったことと、周囲から称賛の声があちらまで届き秋の実りが上納されつつある事、ことにあたり不備不足は無かったかなどの質問や来年に向けて気になったことを細かく教えて欲しい旨が書かれていた。
「祭事かぁ。」
今年で3回目とあって緊張はしなかった。これも夜に酒場で歌い続けた成果とも言えよう。
祖父から贈られた一等お気に入りの竪琴は秋猫を示す金木犀と向日葵が装飾されたもので、思わず手を伸ばして撫でてしまうほど滑らかだ。
何か反省点……と少し考えてから頭を振る。反省ではない。不備不足とあるから何かしら理由があるのだろう。
ひとまずすぐには出てこないのでまぁ、いいか。と続きを読む。
「冬になると領地で夜会かぁ。」
一族を招待したいから今年は是非参加してほしいと書いてある。去年と一昨年は断った。領地の本邸まで行くのは遠いし、仕事もあったからだ。
しかし今年は文官もやめて気楽な身分だし、思いきって会いに行くのもいいかもしれない。
「後でスケジュール相談してみようかな……。」
手紙をウォールポケットに押し込んで、竪琴と衣装を詰めたかばんを握り、早々に職場に向かうことにした。