領主の杞憂(秋猫)
名も無き西の領主さまの話です。
メインキャラはその孫(笑)
当主は一つの書状に首を傾げた。
「山狩のお詫び……はて?」
王都からの手紙が来たので急ぎの案件かと思いきやかなり個人的な内容のようだ。ん〜…と可憐な少女の如き仕草で首をひねった男にそばに控えていた家令が声を漏らす。
「先日クレセントムーンが行ったクレハ山の一件かと思われますが。」
「あ〜あれか。なんのなんの更地にしようと思うておった故気にするほどでもないが……。せっかく詫びを言うんじゃ。植切屋でも出してもらおうかの。」
件の山は山と言うにはさしたる高さもなく、国の中心にもほど近く、すぐ横には領地第三の街がある。
古くから秋猫は芸術の分野に富んでいて美術館に博物館、図書館に劇場が整備されていて領民もこれを好むものが集まる。
狩り尽くした。と言われた山は季節の移り変わりで色を変える気が多いためクレハ山と呼ばれていた。
「丁度街からの嘆願で劇場をと思っておったしのぅ。」
季節で色づく植生を活かした劇場を作るべく計画していた真っ最中のできた事であった。
「それならば山を削り道を整え木は植え直そう。より良いものになるじゃろうて。息子らを呼び寄せる必要はなくなったの。」
領主には5人の息子がいる。もうそれぞれ独立して領の騎士団に所属しているが、よそと違ってこの地の騎士団は各地を渡り歩くため息子たちとはしばらくあっていない。
久々に集まるかと期待したものの、また別の機会に持ち越しとなったようだ。
最後に会ったのは3番目の息子が3年前で、長子に至っては後継ぎなのに8年も見ていない。
「リッシューのやつ手紙もよこさんから孫のことも連絡できんではないか。まったく……。」
猫人の寿命は長い。妊娠から3ヶ月で生ま2年で成体となり独立し、特定の番は持たず年に3回の発情期にメスが相手を選ぶ権利を持ちより優秀な者を求める。一度の出産で2人から4人多ければ6人生むこともある。そのため同じ母から生まれようとも父が違うなどよくあることで……。そんなこんなを過ごし150〜200年の寿命をおくる。
領主様、御年80歳脂の乗ったオジサマである。
そんな彼は5人の息子と1人の孫娘がいる。
メスの少ない猫人において、花猫と星猫以外に雌が生まれることは珍しい。実際秋猫の雌は800年ぶりである。
本来ならば両手を上げて歓迎して甘やかしたいところである。と、言うのに。
肝心の息子は自分に娘がいることをまだ知らない。長命であるが故かあまり周囲に興味がない。秋猫は特にひどい。
4年前に生まれた孫は産後に母を失った。本来ならばそれぞれの父が引き取り育てるべきところであるにも関わらず、領地を回っているため連絡が取れず孫の存在がわかったのは2年前だ。
それまでの2年は同腹の姉妹である春猫の父に育てられていたらしく、独り立ちとなって初めて孫から手紙をもらった次第である。
全く申し訳ないことをした。
手紙を受け取るなり王都にまでひた走り春猫の若造に礼を述べ初めて孫を抱きしめ謝罪した。
孫は育ての親に習って王宮文官として忙しい日々を送っていたが先日退官し王都にあるクレセントムーンの職人通り支店で竪琴片手に歌い手をしてるという。
やはり血は争えない。
「願わくばあの子が幸せであってほしいな……。いつかこちらの劇場でも歌ってほしいもんじゃ。」
「左様でございますね。」
家令と共に領主は遠くに住まう孫を思った。
★猫人名鑑★
秋猫……世界に秋を迎える祭事を司る一族。この血筋のものが王宮の祭壇で歌謡を行わねば秋はこず世界は飢えると言われている。
春猫……春を迎える祭事を司る一族。真面目で勤勉な者が多く文官や役人になるものが多い。
★猫人ハローワーク★
西域騎士団……西の領主に使える騎士団で別名『秋の楽団』と呼ばれ楽団に扮装し領内を旅しながら魔物討伐と不正検挙をしている。