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(前略)アレ その3

息を切らしながらそこに着いた頃には、既に乱戦が始まっていた。


化け物たちが次々に飛び掛かり、騎士は何とか切り結びながらそれをしのいでいた。10匹ほどいたうちの、すでに2体の化け物が手足や首を切り落とされ、死骸になっている。とはいえ、状況はあまりよくないようだ。


僕は少し離れた場所から「銃」を構え、ゆっくりと撃鉄を落とし、化け物の一匹の背中めがけて引き金を引いた。


カンッ、と音がした。しかし、何も起こらない。


「嘘だろ、弾が入ってないのか。」


幸い、乱戦の中で化け物たちはこちらに気が付いていないようだ。僕は急いで弾を探す。が、ポケットにも懐にも、どこにも弾は見当たらない。


「くそっ!」


小声で悪態をつく。僕は銃をホルスターにしまい、左腰の剣をゆっくりと抜いて目の前の化け物の背中に向けて走り出した。直前でそいつは気が付いて振りかえったようだが、驚くだけで構えることはできなかった。そいつの頭をめがけて、僕は剣を振り下ろす。


ごっ、と鈍い音がして剣が頭蓋に食い込んだ。剣は化け物の鼻先まで食い込み、派手に赤い血が飛び散る。

そいつは垂直に膝をおり、両手が垂れ下がる。絶命したようだ。


心臓がバクバクしている。呼吸がうまくできない。


殺した奴の周りにいたヤツらが一斉にこっちに気が付き、飛び掛かってくる。僕は慌てて剣を抜こうとしたが、頭蓋に深く食い込んだ剣はうまく抜けない。


「おい!君!」


騎士がこちらに叫ぶが、化け物の小剣の切っ先は鼻先まで迫っていた。


――死ぬ!


僕はとっさに剣をはなし、その攻撃をすんでのところでかわした。が、すぐにもう一匹が横なぎに僕の腹を切り裂こうとしている。


――かわさないとまずい!


その時、またぐわっと視界がゆがむ感覚がした。


どういうわけか、僕は腹への斬撃を躱していた。どころか、その後次々に飛び掛かってくる化け物たちの刃物の軌道がすべて「見えて」いる。いや、実際の視界は変わらない。しかし、視界の外側まで知覚が広がっているような、妙な感覚。それは少し前と同じだった。


僕は身を躱しながら、騎士が倒した死骸の小剣を拾い上げる。そして化け物たちの一撃を躱しながら、そのたびごとに当たりそうなところに浅い傷を負わせていった。


一体どれくらいたっただろうか。僕はその後一匹も仕留めてはいないが、気づけば化け物は目の前の一匹になっていた。化け物は僕を前にじりじりあとずさりしている。


そいつはぱっと身を翻して逃げ出そうとした。しかし、その背中を騎士の剣が斜めに引き裂いた。どさりと化け物は倒れ、赤い血が噴き出す。


「はー、はー、はー。」


僕は腰をつき、肩で息をしながら、顔についた返り血をぬぐう。


「助けられたな。」


騎士の一人がこちらに近づき、兜を脱いだ。ふぁさっ、と金色の長い髪が垂れる。驚いたことに、鉄の兜から現れたのは、女性だった。それも、かなり若い。20代くらいだろうか。僕が驚いた顔をしていると、彼女はこちらに剣を放る。


「こいつは、君のだろ。」


それは、さっきまで化け物の頭蓋に食い込んでいた剣だった。切っ先近くが血にまみれ、少し刃こぼれしている。


「あ、ありがとうございます。」


僕が礼を言うと、彼女は首を振る。


「礼を言うのはこちらだ。お嬢様を守り切ることができた。幸い、馬車も無事だ。君は、エランの者か?」


「エラン……。いや、僕は特に……」


エランというのは何だろうか。しかし、先ほど生まれ変わってきたところですと言って通じる気はしない。


「ふむ、旅人か?」


「はい。」


ということにしておこう。


「そうか、良ければエランまで送っていこうか。馬車は1人分空きがあるのでな。礼は向こうでさせてもらいたい。あいにく働きに見合う分の手持ちがなくてな。」


女騎士は凛々しい顔のままそういう。いかにも騎士らしい、端正な顔立ちをしている。どうやら、エランというのは場所の名らしい。


「ああ、お礼はなんでも構いませんが、乗せていただけるのであればお言葉に甘えます。」


僕は剣を軽く振って血を払い、鞘に納めた。




馬車に乗りこむとすぐに、女騎士がお嬢様と呼んでいた少女がこちらに話しかけてきた。


「助けていただいてありがとうございます。お強いのですね。」


女騎士に劣らず美しい顔立ちの彼女は、15、6くらいの少女だった。髪は透き通るような銀色で、長いストレート。珍しいきれいな緑色のをしている。薄く化粧をしているが、それでもかなり幼い印象を受ける。


「いや、強くは……。運がよかっただけです。倒したのはほとんど騎士のお二人ですから。」


そういいながら、僕は「お嬢様」のはす向かいに座った。

実際、僕は眼の力でかわしていただけで、攻撃はほとんどできなかった。かわしている間に騎士たちが倒してくれなければ今頃疲れ切って死んでいただろう。


「ふふふ。謙虚な方ですね。」


「いや、そういうわけでは。」


「実際、なかなかのものだったぞ!見どころがあるな!」


鎧をかぶったままのもう一人の騎士がそう言って僕の隣に乗り込んでくる。低く豪快な声から、おそらくは中年の男性なのだろう。彼はがはは、と高く笑い、僕の肩をたたいてくる。かなり痛い。


「やめないか、フェリック。」


女騎士が「お嬢様」の隣に乗り込みながら、やれやれといった顔で男騎士の方を見る。


「ははは、すまんすまん!」


「すまないな、こいつはいつもこの調子なんだ。」


女騎士はため息をつきながらこちらを見て、はっと思いついた顔をして続ける。


「失礼、こちらの名も名乗っていなかった。まずこちらはブルーマー家のご令嬢、フレナ様だ。」


女騎士はうやうやしく左手のひらを上げ、フレナを指す。フレナは可愛らしく微笑み、はじめまして、勇敢な人。といった。どれほどの地位かは分からないが、名家のお嬢様らしい所作に思わずほれぼれしてしまう。


「私はお嬢様の付き人で護衛を任されているアレクサンドラ・プロクター。アレックスと呼んでくれ。君の隣が同じ護衛のフェリックだ。」


「ははは、よろしくな、坊主!!」


そういってフェリックはまた僕のかたをばんばん叩く。


「おい、『坊主』は無礼だろう。……すまない、君の名は?」


「僕は……新太といいます。」


新しい名前でもいいのだが、慣れるまで面倒なので、僕は新太で通すことにした。


「アラタか。改めて礼を言う。私たちは王都からの帰りでな。あと少しのところでゴブリンたちの待ち伏せにあったようだ。数が多くてこずっていたのだが、おかげで助かった。」


「いえ、僕はほとんど何もしてませんから……」


「はははは、何言ってんだ、全部攻撃かわしてただろ!あんな数がいたら死んじまうんじゃねえかとひやひやしたが、お前なかなかやれるじゃねえか!」


「いや。まあ、逃げ回ってただけです。」


僕がそう言うと、アレックスは首を振る。


「注意を引き付けて私たちが切り伏せる隙を作ったんだろう。普通ならあれだけの攻撃を見切れるものか。君はなかなか経験があるようだ。」


「ええと、はあ。」


さっきのが初めてだというのも面倒なので、僕は適当に相槌を打っておいた。が、どちらにせよ面倒は避けられなかった。


「それだけの腕で旅人というのは不思議だな。どこかに士官すれば、そこそこの待遇を受けられるはずだが。何か事情があるのか?」


「ええと、あの……まあ、いろいろありまして。ところで、エランというのはどういう場所なんですか。」


僕はあいまいな受け答えをした後、話題を変える。


「おいおい、エランを知らんのか?!」


フェリックが兜をこっちに向けて叫んだので、耳がキーンとして僕は思わず顔をしかめた。


「うるさい、フェリック、大声を出すな。」


アレックスはそういってフェリックの鎧のすねをカーンと蹴った。代わりに、フレンが話始める。


「アラタさん、エランというのは都市国家ですよ。さまざまなところから人々が集まり、交易と商業が栄えています。それと、大きな図書館があるので学問の街でもあります。」


「都市国家ですか。」


「てっきりエランを目指して旅をしているのかと思ったが、すまない、無理に連れてきてしまったか?」


アレックスが申し訳なさそうに僕に聞く。


「いえ、お話を聞いて是非行ってみたいと思いました。ですが、僕みたいな旅人でも受け入れてくれるものでしょうか。」


「ああ、身分証のことでしょうか。いえ、都市国家ですからその辺は寛容ですよ。さまざまな種族や民族の人々が行き来しますから。ギルドに行けば新しく職業登録もできます。」


フレンの話を聞いて僕は安心する。ひとまずの居場所にするには良いところかもしれない。もし職業登録などができれば、なんとか生きていけるだろう。


「良かったです。とりあえずついたら職がないか探してみます。」


僕がそう言うと、アレックスは驚いた顔をする。


「しばらく滞在するのか?良ければ職を斡旋するが。」


「いえ、そこまでしてもらうわけにはいきませんから。」


「がはは、遠慮するなよアラタ!」


「いえ、本当に……。」


「そうか、では当面の宿と金だけでも手配しよう。」


アレックスがそういうと、フェリックはそれがいい!とうなずく。


「はあ、ありがとうございます。」


「遠慮はいりませんよ。あなたは私たちを助けてくださったのですから。むしろ当然の恩賞と思って受け取ってくださらないと。」


フレンはきっぱりとそう言った。ここは受け取っておいたほうが穏便だろうと思い、僕はありがたくその申し出を受け入れることに決めた。


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