自分だけの魔術で異世界冒険するアレ(仮)
目が覚めると真っ白な部屋の中だった。
「ここは……?」
「やあ、新太君。」
優しい、初老の男性の声。仰向けになっていた自分の体を反転させ、顔をあげる。
「……神様?」
自然に出た自分の声に驚く。でも、言ってしまった後で、なぜかそうに違いないという確信が芽生える。
「そうだよ。」
男性は優しい声でそう答えた。
「……驚いた。まんま、神様の見た目してるんですね。」
「見た目は重要ではないよ。君が信じれば、それがすべてだ。僕はどんな姿でもあるし、どんな姿でもないからね。」
その意味はよく分からないが、彼が言うように、どういうわけか僕はこの人物が神だと「信じて」しまっているようだ。
「普通、こんなのにわかには信じられないことでしょうけど。」
僕はあたりを見回しながらそう言う。入り口も出口も、遠近感さえない白い部屋。光源は見当たらないのに、ふわふわとした優しい光に満ちている。
「神様」は何も言わずほほ笑んでいる。答える必要がないのだろう。僕はもう、信じているのだから。
「それで、ここは天国なのでしょうか?」
「いやいや。天国は君たちの頭の中にあるものだ。ここは魂を白に返す場所。つまり、生まれ変わるための場所だよ。」
「……。」
――やっぱり。天国なんてなかったんだ。
僕は失望していた。辛くても死なずに生きたのは、そうすれば天国に行けると信じてきたからだ。でも、こんなにあっさり希望が断たれるなんて。
「新太くん。それは違うよ」
「神様」はいつの間にか僕の頭をなでている。その手はとても、優しい。とても、とても……。
「天国はある。頭の中にある。大事なのは、君がそれを信じるということだ。天国というのは、君の頭の中の光だよ。君はずっとそれを信じて生きてきた。天国は確かにあるんだ。」
それはこれまで何度となく聞いた言葉にすぎなかった。でも、それを言葉遊びだと拒否する衝動はわかない。「神様」の言葉は僕の中に何の抵抗もなくしみ込んでくる。
僕は、「救われてしまった」のだと理解した。
「さて、新太くん。君には2つ選択肢がある。1つは、このまま君は記憶を失い、もといた世界に新しい命として生まれ変わること。そして2つめは、記憶をそのままに、そことは別の世界で別の人生を歩むこと。」
「神様」はそういい、ほほ笑みながら僕の答えを待っている。
「どちらにしても、生きるほかないんですね。」
「ああ。君にはつらいかい。」
「いえ。もう大丈夫です。だから、どちらでも構いません。」
ふふ、と「神様」は笑う。
「そうか。それなら、2つ目のほうが助かるんだ。記憶を保ったまま、新しい人生を生きてほしい。君がそれに心から納得するならね。」
僕はうなずく。
「分かりました。僕はそれに、心から納得します。」
そう言い終わると同時に、「神様」の背後の空間が裂け、亀裂から白い人型の何かがこちらに歩み寄る。それは色のない人間で、光の屈折が輪郭を浮かび上がらせている。
「これは、新太君の体になるものだ。何か、身体的な要望はあるかい。」
「僕は生まれつき右目が見えません。なので、次の世界では目が見えるといいのですが。」
ふむ、と神様は考え込む。
「どうせなら、人よりもずっと『見える』ようになってみるかい?」
「……それはどういうことですか?」
「特別な義眼をプレゼントしようかと思ってね。視力的には普通の眼と変わらないが、他のところでいろいろとよく見えるようになる。もちろん、普通の眼がいいならそれでもいいけど。」
「いえ、神様がくれるのなら、喜んでもらいます。だけど、そんなに良くしてもらっていいのですか。」
こうしている間にも、僕がもといた世界では何百人と死んでいる。僕一人のためにこれだけの時間を割いてくれるだけでもありがたいのに。
「いや、君だけが特別じゃないさ。僕は別に1人でもあり、1000人でもある。それに、そうしてくれると助かるんだ。詳しいことは教えるのが難しいけど、バランス的な問題でね。」
「分かりました。……いや、分かってはいませんが、分かりました。」
僕がそう言うと神様はうなずき、右手の手のひらを上向きにして胸くらいの高さで軽く揺らす。そうすると、何もなかったはずなのに、いつの間にか掌の上に半透明の球が現れ、だんだん色と輪郭が濃くなっていく。それはそのうち実体になり、機械的な模様の入った金属の眼だとわかる。
「神様」はさっきの「白い体」に空いているほうの手で触れると、その右目の部分が盛り上がり、塊上になって顔から離れ、ポトリと落ちた。「神様」はくぼみになった右目に、金属の眼をあてがう。すると、すーっと眼は体と一体化し、溶け合ってしまった。
「さて、ちょっと瞬きをしてご覧。」
神様に言われて一瞬目を閉じ、開くとさっきまで目の前にいた神様がいなくなっている。左右を見渡すと、左後ろに神様の姿があった。
「もう、準備はすんだよ。それが君の新しいからだだ。」
言われて気づいた。僕は右目が見えている。さっきまで白かったはずの「体」は肌色の肉体に変わり、明るい生命の色を発している。
「さあ、もう一度瞬きをしてご覧。」
僕は、ゆっくりと目を閉じる。そして、開いた時には、目の前に広大な草原が広がっていた。