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投棄監獄プープ・ブロック

帝都より離れて人知れず存在する監獄『プープ・ブロック』。どうやら俺はこの可愛い名前の豚箱にぶち込まれちまったらしい。


あの後大人数に囲まれそのままボコスカ殴られここに収監される流れとなった。自分で言うのもなんだが俺は多対一にはめっぽう弱い。というか前世がハゲで髪の毛で戦う運命にあるとはなんたる皮肉なことか。


ここ『プープ・ブロック』は身元不明の罪人が送られる留置所の皮を被った処刑場。処刑方法は至って簡単、身体に強酸性の液体をぶっかけられた後に50cm×50cmの立方体の箱に押し込まれ、圧縮されて殺される。そうなった後は魔物のエサだとか秘密裏に軍の実験材料なんて噂もあるが死人に口なし。


別名・「迷い家」。


俺は最初に裸にされてケツの穴まで身体検査をされた後にここ第四収監室に放り出された。一日食事は2回まで。ジャガイモみたいな青紫の芋が一つとおばあちゃん家のカルピスみたいにうっすい味噌汁がつく。

それだけでは終わらない。さらにここは留置所の名を冠しておきながら滞在料(・・・)を取られるのだ。ちなみに一泊5000円。もうちょい値段を安くして欲しいものだ。


冒頭で留置所 () 処刑場と表記したのはここの看守長が滞在費を払わない者は問答無用で処刑するブタ野郎だからだ。当然ここに送られる者たちに帰る場所や頼る親族などいる訳もなく。最近の留置所は犯罪者が多くて飽和状態なんだろうか。


さてそんな楽しい監獄生活。俺はどのように過ごしているかというとこれが中々快適で先の勇者から金目の者を髪に紛れ込ませて持ち込んだので定期的に見回りにくる看守とはもうズッブズブの中なのだ。


お陰で最初こそ臭い飯しか出されなかったが段々とグレードアップしてゆき、今では週2でステーキが食べられるほどになっている。文句といえば部屋に設置してある隅のトイレが臭いことくらいだがまあ臭いものには蓋をしろというやつだ。


「まあこのトイレ蓋無いんだけどな!」


「よおパキラ何一人で笑ってんだ?相当キモイぜ」


こいつが俺とズブズブの中にある看守ジョン。ただ何故今来たんだ?メシの時間にしてはまだ早いような気がする。

するとジョンは懐から鍵を取り出すと俺の部屋の錠をいじくり始めた。


「お?なんだ、出房か?」


「バカ、違ぇよ。…ほら、お前のお仲間だ、さっさと入れ」


ジョンはその何者かを乱暴に部屋に押し込んだ。


「むーっ!むーっ!」


俺の目の前にどさっと倒れ込んだ新たなルームメイトは映画で見た事あるような白い袈裟袋に首から下をすっぽりと覆われていて、口には猿ぐつわを嵌められていた。


「…おいこいつ女じゃないか?いいのか?俺と同じ部屋に入れても」


「……グッドラック…!」


素早くジョンがまた鍵を閉め背中を向けて親指を立てる。意味深だがどういうことだろうか。


「むーーーっ!」


雑に伸びた銀髪を振り乱し拘束衣を解こうと奮闘しているその少女、見たところ12、3歳といった所か。


俺は右手の人差し指から体毛を鍵の形に変え、彼女の拘束衣の錠前を弄くり回すと簡単に解けた。猿ぐつわも外してやると、床に倒れた少女は息を切らしつつ俺を見上げた。


「あ、ありがとうございます…」


「おう、で、名前は?」


そう言って俺が手をさし伸ばすとその手から離れるように勢いよく後ずさりされた。


「え…ショック…」


「あっ、すっすみません!わわ私も別に悪意があった訳じゃなくて」


「じゃあいいじゃんほら握手」


「あっ」


「へ?」


少女の手を握ったパキラにその瞬間劇的な痛みが込み上げてきた。例えるならば全身がオーブンで焼かれるような感覚。全身の脳が蒸発し、血が沸騰し、脈が焼き切れるような痛みがパキラを襲った。


「あががががががが!!!」


「あー、やっぱりか…」


牢の前には二人分の食事を運びに来たジョンの姿があった。


振り払うように少女は手を離すに部屋の隅へ身体を屈めて小声で「すみませんすみません」と謝っていた。


「か、彼女は一体……」


「あれはなんというか…人の形をした雷かなんかだと思った方がいいぜ。触られると大体死ぬ」


メシはここに置いておくぜ、と言い残しジョンは去っていってしまった。もうちょい説明は無いのか。


「すみませんすみませんわたしなんて生きる価値が無いゴミですカスです死んだ方がいいですよね」


小刻みに頭を上下する少女。忙しい女だ。


「いや説明をよく聞かなかった俺も悪いよ、ごめんなさい」


「えっ、いやあの頭を上げて下さい!死なないですから!」


おもむろに俺が土下座を披露すると彼女慌てふためき顔を上げる。


「まあとりあえずご飯でも食べよう。…あ、これ腐ってんな…」


ブロッコリーの芯だけがカットされたようなアフロのような野菜の端っこは茶色がかっており鼻を近づけると土のような匂いがした。


「お兄さん」


「え?」


唐突に少女がそれに件の手を当てると瞬時に生命力に溢れ瑞々しさを取り戻した。


「さ、食べてみてください」


「ええ…」


半信半疑ながら口にするとさきほどまでの土臭い匂いは消え去り、ほのかな甘みを感じるほどに美味く感じた。


「じゃあ私はこれを食べるので…」


少女が手にした食器には俺も見慣れたあのジャガイモとおばあちゃんスープがあった。


大して俺の食器にはフィッシュアンドチップスとシーザーサラダ、大きなパンとそれに付随するジャムが5個とバターも付いている。


それが羨ましそうに見えたと俺に確信付けたのは彼女の腹がこれみよがしに大きく鳴ったからだ。


「それ美味そうだな、俺にくれよ」


「えっ、いや」


パキラは少女の皿からジャガイモを強奪すると中身スカスカでボッソボッソの懐かしい土の味が口に広がった。


「おお…うめーな、やっぱ…」


俺は吐きそうになりながら自分の食器を少女に差し出した。


「むぐ…ほら、交換だ…食え」


「いや、そんなこと……」


「だ、黙って交換しろクソガキ…」


「で、でもお兄さんだって見たとこ私と3歳差くらいじゃないですか」


「うるせー!俺はこれでも20代じゃ!」


パキラが吠えると気圧されたように少女は手渡された食器を受け取った。


「い、頂きます…」


おぼつかない手でパンを、サラダを必死に口に運ぶ。パキラが交換したスープを完飲した頃には彼女はすでに完食しており、少女は空いた皿を見つめ、突然頬に涙が伝った。


「お、おいどうした、腹でも壊したか!?」


「いや…」


少女はパキラによりかかろうとして咄嗟に手を離す。


「人に優しくされたのが久しぶりで…びっくりしちゃって…」


パキラはその様子を見ると少女の手を取り言い放つ。


「な、何してるんですか!?手を離してください!」


「いいかよく聞け、これは「優しさ」じゃない。これは俺のただの「自己満足」だ。そこら辺勘違いすんなよ!」


そのパキラの取り乱した様子に少女は思わず口元を和らげる。



人知れず存在する監獄「プープ・ブロック」。


いつから存在するのか、誰が作ったのかは誰も知らないが、本当に久しぶりに笑いの花が咲いたのだった。






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