狼少年
不味い、勢いで姫さまのしちゃったけどこれどうしよう…、死んでないよな?
「うぅ…」
あっ、死んでないわ。あぶねえあぶねえ。
とりあえず俺は気絶した皇女に毛布をかけてとりあえず外に居るであろう兵士に部屋に入られてもいいように隠蔽工作を終えたその時。
「レア!仕事は終わった?開けるよ」
陽気な若い男の声が扉の向こうから聞こえてくる。
自分の家でも無いのに勝手に入ろうとするフランクさは見上げた所があるが隠したとはいえ皇女を見られると色々と厄介だ。適当に帰ってもらうことにしよう。
「…どなたさまですか?」
扉を開けるとでっかい赤い竜が鎮座していた。
「は?」
鼻から炎を吹き出し全身を紅蓮の煌めく鱗で覆われ、少し胸部の膨らんだその竜が後ろに控えていたパキラと同い年くらいの少年に語りかける。
『こやつ、お主のことが分かっていないようじゃぞ』
「?ボクはコーヤだ。聞いたことないのか?」
「おいどん田舎暮らしなもんで都会のことは分からないでごわす」
「ここにボクの妹が来てる筈なんだ。何か知らないか?一応勇式皇女なんて呼ばれてる」
「いや、知らないっすね」
「…やけに部屋が散らかっているな、激しい戦闘があったとか?」
「いやあ、ボケ始めてる母さんが居るんですけどなんか暴れたら部屋こうなっちゃいましたね〜」
『…こやつはウソをついているな、我は千年生きておる。永き時の過程でそのものの心の中を覗き込む術も会得しておる、どれ覗いてみるとしよう』
竜は少し目を瞑ると俺の本音をピタリと言い当てる。
『ーー尻尾の辺りが艶かしいな…』
『きっ、貴様…!』
「…オマエの性癖をとやかく言うつもりは無いが、『隠してる』とはなんの事だ?」
「さあ?」
「……ボクはボク自身が傷つけられてもいいがボクの親しい者に手を出した奴は絶対に許さない。これが最終通告だ、妹を出せ」
その小さな体に見合わないほどの巨大な剣を軽々と持ち上げ肩に乗せる。
「これは魔剣グラム。かつての竜殺しが使っていた邪剣だ」
「い、いやいやそんな剣なんて抜いちゃって…え?ウソですよね?人の家に勝手に入らないで下さいよ?やめた方がいいですよ!」
制止するパキラを憎々しげに見上げ、剣を構えて家の中に突っ込んできた。
「お前を倒して吐かせれば済むこと!」
猪突猛進。剣がパキラの胸に食い込んだ。
そう、確信していた。
「!!!!!!!??」
「あーあ。だから言ったのに」
走っていたと思い込んでいたそこに床は存在せず、彼は思わず足を取られ転んでしまった。腰まで穴に埋まり上半身で身体を支えている。
その拍子に魔剣グラムも手からすっぽ抜けてしまった。
「なっ、この家の床がこんなに高いわけ…ッ」
「まあ俺か弱い一般人だから髪の毛で家浮かすくらいしかできないんだけど」
彼はすぐに切り替え、穴の淵に足を掛けようとした所をパキラは見逃さずすかさず調合した眠り粉を嗅がせると彼はその場で深い眠りに落ちてしまった。
『コッ、コーヤ…!!』
すぐさま目標をパキラに変える。
『貴様…っ!』
赤い竜は炎のブレスを浴びせようとするがパキラは腹の下に潜り込み、髪の毛を竜の全身に巻き付かせるように伸ばす。
『な、なんじゃこれは、うっ動きが…」
「ジャパニーズ『亀甲縛り』だ」
『貴様ぁ…』
なおも抵抗しブレスを吐かれようとしたが口元を髪の毛で頑丈に縛ると鼻から黒煙とかすかな爆発音が口の中から聞こえてきたかと思うと倒れてしまった。
「…どうしよう」
勢いに任せて何か俺はヤバいことをやらかしたのでは無いか。背中が嫌な予感でじっとりと汗が滲む。
しばらくすると彼の部下らしき初老の甲冑を着た男が部屋に入ってきた。
「アッ、…ゆゆ、勇者さま!?」
「えっ」
ゆうしゃさま?
「えっ、ゆうしゃさまってあの『勇者様』?」
「未曾有の災害から人類を庇護して」
「レベル5ですら一人で倒して退けるあの勇者様?」
「き、貴様、まさかとは思うが…貴様がやったのか?」
パキラはその返答には無言で居ると肯定と取られたのか男は静かに剣を抜いた。
「…お前を帝都まで連行する、よくて無期懲役、悪くて死刑だ」
異変を察知したのか男の部下もパキラを取り囲む形で部屋に押し入ってくる。どうやら逃走は絶望的だ。




